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グリアルージャンの街は、村から最も近い大きな街だった。
近いと言っても、ゆうに十日はかかる距離にある。
俺とナーシアはここまで一緒だった行商に別れを告げて、冒険者ギルドを目指した。
街の入り口の近くにある剣と盾の看板の建物が、それだ。
冒険者になるのは、大抵は一人前と見なされる十五歳からだが、俺たちのように稀にもっと若くて登録する者たちもいる。
俺たちのように才能に恵まれたというパターンは希少で、どちらかといえば食うに困って行き着くというパターンが多いそうだ。
俺とナーシアもそう見られているようで、登録自体はすんなり行ったが、翌朝いざ討伐依頼を受付に持っていくと「命を粗末にしちゃダメ」だとか言われた。
「これでも冒険者の両親に鍛えられてきました。その両親がやっていける、と判断したことです。だから討伐の依頼を受けさせてください」
「冒険者の両親ねえ……もう三年くらい、待てなかったのかしら」
受付のお姉さんは「仕方がない」とため息をつきながら依頼を処理してもらえた。
「怪我ひとつでもしたら、当分、討伐依頼は受けられないと思いなさいね」
「分かりました」
俺とナーシアはそんなこんなで、最初の依頼を受けることになったのである。
▽
依頼内容は森に潜むブレイドファングボアの討伐だった。
両親と一緒だったが、俺とナーシアはブレイドファングボアを狩ったことがある。
名前の通り牙が刀剣のようになった危険なイノシシで、しかし突進にさえ気をつければなんとかなる相手でもある。
これくらいの依頼がこなせないようなら、冒険者は続かないだろう。
特に討伐依頼を中心に受けていきたい俺としては、試金石になりうると思っている。
……まあ保護者同伴じゃなくなっただけで、やることは村で経験しているから余裕だろうけど。
しかしナーシアには緊張があったようで、どうにも身体が硬いように見受けられる。
「ナーシア。村でやった通りにすれば余裕のはずだ。そう緊張する必要なんてないんだぞ」
「う、うん。でも師匠たちがいないと思うと……」
「そんなに俺が頼りないか?」
「そんなことないよ!」
「俺もナーシアが頼りないなんて思ってないよ」
なんとかナーシアの緊張をほぐして、森に入った。
森に入ってすることは、ブレイドファングボアの痕跡を探すことだ。
奴らは牙を研ぐために木々に自分の牙をこすりつける。
その跡は剣で木を斬りつけたようなもので、すぐにそれと分かる。
森を進んで三十分ほどした頃、遂にその痕跡を見つけた。
俺とナーシアは足跡を慎重に追跡しながら、……遂にブレイドファングボアに遭遇した。
イノシシはこちらに気づくと、鼻息を荒くして前脚で地面を蹴る準備をしている。
こちらはふたりで剣を抜き、しかし俺は魔術の準備を始めた。
森の中で火の魔術は使えない。
突進力のあるブレイドファングボアには、〈ストーン・ハンマー〉がストッピングパワーもあって有効だ。
イノシシが地面を蹴った。
突進が来る。
ナーシアは軌道から逸れるように横っ飛びして、剣を腰だめにして攻撃の間合いを測っている。
俺も突進の軌道から僅かに逸れ、〈ストーン・ハンマー〉を放った。
ドゴッ!!
ブレイドファングボアの額に拳大の石の塊が叩きつけられる。
突進の勢いは削がれ、足元が脳震盪でグラつく。
その隙を見逃すナーシアではない。
踏み込みと同時に腰だめにしていた剣を一閃。
見事、イノシシの首をはねた。
初めてふたりで倒した獲物だ。
木の枝にぶら下げて血抜きをして、内蔵を捨てて肉を持ち帰る。
俺たちふたりでは一頭を狩るので精一杯だった。
戦力に余裕はあるのだが、荷物を運ぶ能力が足りないのだ。
冒険者ギルドに戻ると、受付嬢には驚かれた。
「……本当に狩って来たのね」
「それが依頼でしたから」
俺たちは実力を示した。
しかしそのことが、良からぬ者達の目に止まったのは必然だったのだろうか。
「おい、お前ら。俺たちのパーティに入れよ」
ガラの悪そうな男に、声をかけられたのだ。