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2年の月日が流れ、俺とナーシアは十八歳になっていた。
ナーシアは男の子を生み、すっかり育児にハマっていた。
井戸ポンプは街に行き渡り、住民の生活を楽にしている。
これは設計図を作成して辺境伯に献上し、大変喜ばれた。
神算鬼謀のデルフィーヌは周辺の地図を作り、兵士の訓練をアデリーナたちとともに行っていた。
訓練教官としてアデリーナたち精鋭が率先して鍛え上げた兵士は、強兵となって街の治安を守った。
算術の申し子マルスランは、意外なことに農業改革を推進していた。
単純な統計学などを駆使して、生産量の増減を魔法のように操る手並みは、さすが算術の申し子と言わざるを得ない。
こうしてマルカバッソの街は大きく発展を遂げていた。
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2年の間、じゃあ俺は何をしていたのかと言うと、決済業務と魔術の研究だった。
決済業務は領主の仕事だからいいとして、半ば趣味の魔術の研究は大きく進んでいた。
というのも、マジックナイトの呪文カードを魔術で再現するという作業をしていたからだ。
まずは便利な沐浴の呪文カードを魔術に置き換えた。
〈クレンリネス〉という新しい魔術は、汚れを落とし清潔にするという水と光の魔術だ。
強力な治癒呪文である輝く薬液は〈アドバンスヒール・ウォーター〉に、雷撃の一撃は希少な光属性の攻撃魔術〈サンダー・ボルト〉となった。
そして煉獄の猛火を再現した魔術〈ブレイズ・ブラスト〉は、威力は数段落ちるものの、射程と範囲において対軍隊向けの凶悪な魔術となった。
これで手札に煉獄の猛火がなくとも、戦争で優位に立てる。
俺は自分の街を守るために魔術の研究に没頭していたのだ。
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機械技師のクラリスが念願の印刷技術を開発した。
植物から作る安価な紙、炭と油から作る安価なインク、金属活字、などなど。
「オーナー。作りはしましたけど、一体何を印刷するんです?」
「聖書だよ」
「聖書……この世界の宗教の、ですか?」
「ああ。聖書は手書きの分厚いものしかないからな。印刷で大量に刷って売るんだ」
「はあ。売れるんですか?」
「売れる。この世界には魔法があって、女神が実在することが知られているから、信心深いひとが多い。安価な聖書が出回れば、購入したいという人が現れるはずだ。一般に浸透するには多少の時間はかかるかもしれないけど、この街の財政に少しでも貢献できれば御の字だよ」
新しい印刷事業は雇用を創出し、聖書販売も黒字になるまでそう時間はかからなかった。




