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五歳にもなると、ある程度の魔術が使えるようになっていた。
ロウソクに火を灯す〈ティンダー〉、水を生み出す〈クリエイト・ウォーター〉、汚れた水を浄化する〈ピュリフィケーション〉、軽微な怪我を治す〈ライト・ヒール〉を習得していた。
物騒な攻撃魔術はまだ教えられていない。
魔術もマナカードを使って発動できるが、俺は自力で魔力を集めて魔術を発動できるようになっていた。
そして村人たちにとって〈クリエイト・ウォーター〉は重宝がられているので、試しに使用料金を取ることにした。
銅貨一枚で魔術一回である。
これが当たって、割と儲かった。
ただし『ショップ』メニューのブースターパックは一パックが銀貨五十枚なのである。
銅貨百枚で銀貨一枚であることを考えると、長い道のりであると言えよう。
「あ、サンだ。お仕事?」
「いや。今日は店仕舞いだよ」
「じゃあ一緒に遊ぼう」
俺に懐いているのか、ナーシアはよく俺に声をかけてくる。
茶色い豊かな髪が三編みで後ろに垂らされており、いつもぼんやり微笑んでいる子だ。
村に子供はそれなりにいるが、今のところ俺が一番親しいのは、何故かこのぼんやりしたナーシアなのだった。
……他のガキどものは俺が稼いでいるのを知っているからたかってくるんだよなあ。
小遣いを貯めるのも一苦労だ。
なお貯めているお金はマジックナイトの『ショップ』メニューに貯蓄してある。
取り出すことも可能だから、かさばらない財布代わりにちょうどいい。
「サンは将来、村を出るの?」
「まあ……多分、冒険者になると思う」
「冒険者……魔物と戦うの? 怖くないの?」
「怖くないわけじゃないけど……剣の練習はしているし、母さんから魔術も教わっている。無茶をしなければ、なんとかなると思ってるよ」
「私が冒険者になるには、どうすればいいの?」
「おいおいナーシア。まさか着いてくるのか?!」
「え」
まさか置いていかれるとは思っても居なかったといった反応だ。
おいおい、勘弁してくれよ。
「ナーシアは戦うことはできないだろう。どうやって冒険者になるつもりなんだ?」
「それは……だから、どうすればいいの!?」
逆ギレかよ……。
ナーシアが冒険者とか、想像がつかないぞ。
「女でも〈フィジカルブースト〉が使えれば戦士になれるし、色々な魔術が使えるなら魔術師になれるよ。一度、母さんに見てもらおう」
「……うん!」
こうして幼馴染を冒険者の道に引きずり込むことになった。
才能がなければ諦めるだろう、と思って母のもとに連れて行ったが、なんとナーシアには〈フィジカルブースト〉を使う適性があった。
その日から、父デカルの剣術道場にナーシアが加わったのである。
▽
めきめきと腕を上げるナーシア。
俺は、あっという間に剣の腕前ではナーシアに勝てなくなっていた。
そもそも〈フィジカルブースト〉がズルい。
俺にも教えて欲しい。
母に直談判したところ、無事に〈フィジカルブースト〉習得の許可が降りた。
「いい、サン。〈フィジカルブースト〉は悪用しようと思えば悪用できてしまう、危険な魔術なの。ナーシアちゃんには必要だし、このことも念を押してから習得させたけど、サンも重々、使う時は気をつけなさい。当面、お父さんの剣の練習のとき以外には使わないで」
「うん、分かったよ」
〈フィジカルブースト〉は光の魔術だった。
今の俺は魔術を使うのに、デッキに頼ることはなくなっていた。
マナを集めるのは魔術師ならば普通にできることだ。
それにデッキからマナを生むには、傍目から見て手をワキワキと動かす奇妙な儀式をしなければならない。
隙が多い動作なので、封印中だ。
ちなみに興味本位で水のマナカードを場に並べまくって〈クリエイト・ウォーター〉を撃った結果、かなり大量の水を生み出せることが分かっている。
どうやら周囲のマナを取り込んで魔術が発動しているというのは本当らしい。
さて〈フィジカルブースト〉を習得した俺は、なんとかナーシアの剣に追いつきつつあった。
元々の練習歴が圧倒的に俺の方が長かったわけで、当然の結果なのだが、ナーシアは俺に負けてなるものかと自主練習まで始める始末。
母ニーウ曰く、「頑張っている女の子の努力に水を差すような真似は許さない」とのことなので、しばらくは負けてやろうと思う。