39.領主就任
マルカバッソの街は、戦闘になる前に降伏してきた。
辺境伯は領主一族などの貴人を捕虜にして、駐軍兵士の武装解除を命じた。
その後、講和の使者を隣国に送り、今回の戦争は終わりを告げた。
「どうだサン。この街の領主をやらんか?」
「え? 俺がですか?」
「文官や兵士は出す。この街を守れる実力があるお前がこの街の領主となってくれるなら、これほど心強いこともない。もし隣国が取り戻しに来ても、そなたなら魔法一発で蹴散らすことができよう?」
「確かにそうですが……」
悪い話ではなかった。
政治のことはよく分からないが、そこは辺境伯から文官を出してもらえるので丸投げできる。
俺の自由になる街、か。
「分かりました。その話、お受けします」
「おお、受けてくれるか! 今日からサンはサン・マルカバッソと名乗り、この街の領主となるのだぞ!!」
俺は一度、領都に戻ってナーシアを迎えに行き、マルカバッソに文官や兵士たちを連れて舞い戻ってきた。
さあ、内政の時間だ!
▽
実のところ、人間の固有名詞モンスターで戦闘に向かない人材を何人か引いていたのだ。
(SR)神算鬼謀のデルフィーヌ 光闇闇 1/2
(SR)算術の申し子マルスラン 水水 1/1
(SR)機械技師のクラリス ③水 1/1
神算鬼謀のデルフィーヌは場の味方モンスター全体を強化する強力なモンスターだ。
しかし本体が弱いため、冒険者にするには向かないと判断して『コレクション』に死蔵していた。
算術の申し子マルスランは変わったカードで、毎ターンまずマナコストを指定する。
指定したマナコストが奇数なら+1/+0し、偶数なら+0/+1するという限定的な全体強化能力を持っている。
予めデッキのモンスターのコストを揃えておくと真価を発揮するのだが、冒険者には向いていないためお蔵入りとなっていた。
機械技師のクラリスは不特定マナを支払うことで、1/1の機械トークンを生み出す能力を持っている。
複雑な機械のないこの世界で、機械トークンを操るクラリスは異質だ。
本体の攻撃力と防御力の低さも相まってやはり『コレクション』で死蔵されていた。
俺はデルフィーヌとクラリスに豊かな成長をつけて、三人を召喚した。
神算鬼謀のデルフィーヌは軍師としてマルカバッソの軍事力を統一的な思想でまとめ上げてもらうことにした。
マルスランには算術の申し子というだけあって、事務作業に貸し出した。
機械技師のクラリスには、井戸のポンプの発明や、印刷機、植物紙、インク……などなどの発明を委託した。
クロスボウの開発など軍事方面はしばらく自重することにしてある。
魔術があれば十分なのだ。




