37
マルカメーヌ辺境伯領、その領都に家を買った。
ダンジョン都市でたんまり稼いだので、家のひとつくらいは余裕で購入できる。
エステルは嫁入りしただろうから、知り合いは辺境伯しかいない。
挨拶をするべきか考えたが、さすがにエステルを通さずに挨拶ができる身分でもないと思い直して、冒険者ギルドに顔を出すことにした。
冒険者ギルドにはザザたちを派遣していたばかりで、俺が足を踏み入れるのは初めてだ。
依頼ボードを眺めると、真っ赤な文字で緊急依頼が出ていた。
どうやら近々、戦争があるらしい。
俺はナーシアを家に置いておいて、五人でこの依頼を受けることにした。
なんとなくナーシアは人を斬ることができなさそうな気がしたのだ。
▽
数年前の光景が繰り返されるように、隣国の軍隊が国境の手前で陣を張っている。
俺は早速、辺境伯に見つかって、砦の屋上に招かれた。
「水臭いぞサン。我が領地に来ていたなら挨拶くらいせぬか」
「エステルがいないと俺たちはただの冒険者に過ぎませんから。非礼をお詫びします」
「なに。数年前の再現だ。やってくれるか?」
「もちろんです」
俺は煉獄の猛火を使用した。
またも敵軍の陣地は燃え上がり、大損害を与えたのだ。
「そなた、冒険者などせずに私の元や王城に務める気はないのか?」
「自由な身分の方が大事なのです」
「残念だ。そなたほどの魔術師はおらぬのになあ……」
残念だ、残念だ、と呟く辺境伯だが、強引な話にはならなかった。
やはりダンジョン都市の領主がおかしいだけだったらしい。
……いや、エステルとの婚姻を言い出したのはこの人だったか。
やはり貴族は苦手だな、と思いつつ、戦争はあっという間に趨勢が決まった。




