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俺たちパーティを招待したのは、でっぷりと太った領主であった。
応接の間に入って領主と邂逅した俺たちに、まず一言目に「ワシの直属の部下になれ」という命令だった。
「お断りします。俺たちは自由な冒険者ですので」
「馬鹿な。騎士の位を授けてもいいのだぞ? 何が不満だ?」
「何もかも。自由を手放すくらいなら、この街から去ります」
「馬鹿め! ワシの街でなければ冒険者は稼げぬであろう。それから、ケルベロスの首輪はどうした。なかったなどとギルドには言ったそうだが、そんなはずなかろう! 首輪を売れ!」
「それもお断りします。非人道的な魔法の品……既に処分しましたから」
「処分!? 処分だと!? ……ええい馬鹿者め!!」
「……話はそれだけですか?」
「待て! ワシのところで働け! ただ冒険者をするよりも待遇は保証するぞ!」
「ただ冒険者をしている自由が惜しいので、お断りします」
「……ええい、無礼者め! このワシが、直々に時間を割いて誘っているのだぞ!」
……こんなのにザザたちは捕まっていたのか。
話の通じない相手との会話ほど疲れるものはない。
これ以上、品性下劣な貴族と会話をする必要はないだろう。
「話は以上ですね? それではこれにて失礼させて頂きます」
「馬鹿な……ワシの言葉を何だと思っている!? お前ら、このダンジョン都市で冒険者を続けられると思うなよ!!」
捨て台詞を無視して、俺たちは家に帰った。
▽
「すまんナーシア。折角の家だが、手放すことになるかもしれない」
「絶対、なにかしてくるわよね、あの貴族……」
「冒険者ギルドとも繋がりがあるらしいし、そうなるとこの街で冒険者をするのは難しそうだな。確かに惜しいけど、この街を出た方がいいかもしれない」
「そうだね。ダンジョン都市ばかりが冒険者の活動場所じゃないよね」
「マルカメーヌ辺境伯領という手もあるな。あそこなら強引な引き抜きはないだろう。国境に接しているから、戦争で稼ぐこともできる」
「人間を相手にするのはちょっと厳しいけど……エステルのお父さんのいる街なら、悪くないかもね」
「よし。そうと決まれば、家財道具を収納鞄に入れて辺境伯領に向かおう」
俺たちは疾風の馬車で辺境伯領に向かった。
後で聞いた話によると、俺とナーシアの新居には火が放たれたとか。
まったくやることが見え透いている。




