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学院でそわそわと待っている日々は本当に辛かった。
だが一ヶ月ほどして、ダンジョン都市のスタンピードが収束したとの報が学院内を駆け巡ると、ようやく安心できた。
きっとザザたちが活躍しただろう。
帰ってきたら労ってやらねばなるまい。
しかし待てども暮せどもザザたちは帰ってこない。
嫌な予感がしたので、こちらから迎えに行くことにした。
▽
(R)疾風の馬車 ⑤
疾風の馬車は四頭立ての馬車だ。
アーティファクトとしての効果は、人間モンスターの召喚コストを①だけ軽減するというものだ。
しかし召喚してみれば普通の馬車として使えることが分かったので、ダンジョン都市に向けて馬車を走らせた。
王都からなら数日の距離があるが、疾風と名の着く通り、馬車は休みもせずに風のように街路を駆けた。
……ひどい揺れだ。
風魔術の〈レビテーション〉で浮いていなかったら、お尻が痛くなってしまったことだろう。
緊急時の移動手段としては優秀だが、普段遣いはしたくない一品だ。
さて久々のダンジョン都市にやって来た。
疲れているが、そんな場合ではない。
ザザたちを探さなければならないが、どこへ行ったものか。
その辺の店で、スタンピードについて聞くことにした。
やはり俺の派遣した十二人は大活躍だったらしい。
ならばなぜ戻ってこないのか?
どうも活躍の褒美として、領主の歓待を受けているらしい。
俺は引き抜きにあっているのだろうと思って、領主の館に忍び込むことにした。
ひとつ目の部屋で、雨乞い乙女セレストに会うことができた。
「セレスト、現状はどうなっている?」
「オーナー……。実は領主から領都の専属になれと強く求められていまして……」
「やっぱりそうか。断ってもしつこいのか?」
「はい……私たちなどは結婚相手を見繕うとまで……一体、どうしたらいいのか」
「まったく……ロクでもないな。分かった、デッキをリセットする。しばらく外に召喚しないでおけば、分からないだろう」
「はい、お願いします」
俺はデッキをリセットして、セレストたちを消滅させる。
にわかに騒がしくなってきた領主館を抜け出して、俺は今後、召喚モンスターだけを派遣することを止めようと決意した。




