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戦争参加ということで、辺境伯からはたっぷりと報酬をもらった。
今回の戦果は俺が独り占めしたようなものなので、多くの金貨の詰まった袋を貰った。
そして内密の話として、エステルを娶らないか、という打診すらあった。
どうやら煉獄の猛火が魅力的だったらしい。
「しかし俺は平民です。許嫁もいますし……」
「許嫁とはナーシアのことだろう。ふたりとも娶ればいいではないか」
「そういうわけにはいきません。ナーシアと結婚もしていないのに、他の誰かとも許嫁の関係になるのは抵抗があります。それにエステルは貴族ですから、結婚後の力関係でナーシアが不利です」
「ふむ、ダメか?」
「ダメです」
辺境伯は俺という戦力を囲い込みたいらしいが、条件の折り合いがつかない。
辺境伯の屋敷に滞在中、何度か打診を受けたが全て断った。
まだ自由の身でいたいのだ。
エステルからの俺を見る目が変わったが、恐らく辺境伯から嫁入りの話を聞かされたのだろう。
断っている、という話も聞かされているはずだが、距離が少し縮まっった気がする。
ナーシアには辺境伯から強く引き抜きがかかっており、条件にエステルの嫁入りがある、と話はしてあった。
ナーシアは眉をひそめたが、「サンは凄いから、そういう話があると覚悟はしていた」と打ち明けられた。
ううん、可愛い。
俺は「ナーシアを裏切ることは絶対にない」と告げておいた。
▽
長期休みの間も訓練は続けていた。
ナーシアとの木剣での訓練、魔術の訓練だ。
ザザたち召喚モンスターたちのパーティは、領都の冒険者ギルドで討伐依頼を受注させている。
「ねえサン。私のどこが気に入らないの?」
「……エステル。別にエステルが気に入らないんじゃない。俺はナーシアを幸せにしたいだけなんだ」
「私もナーシアも幸せにすればいいじゃないの」
「貴族のエステルと平民のナーシアじゃ同じように幸せにしてやれるとは思えない。辺境伯は俺の戦力が欲しい以上、この地に釘付けにしたいはずだ。実家のエステルが有利すぎる」
「なるほどねー……ふうん分かったわ。ほんとにサンはナーシアを大事にしているのね」
「そうだよ」
「いいわ。分かった、私を大事にしてくれない人に嫁ぐのは嫌だもの。お父様には私からもこの話はなかったことにしておくように言っておくわ」
「助かるよ」
「どういたしまして」
こうしてエステルの口添えもあって、なんとか辺境伯からの引き抜きの話はなくなった。




