3
二歳になった。
俺は相変わらずマナカードのみのデッキで魔法を使う練習を、家族に隠れてしていた。
マナカードは地水火風光闇の六種類がある。
つまり今の俺は、六種類の基本的な魔法が扱えるというわけだ。
デッキの大半のマナカードを場に出すという準備が必要だが、それをすれば魔法が使えるのは、今の俺には悪くない。
たかだか二歳のガキが、魔法を使えるのだ。
ただ、火の魔法だけは練習していない。
言うまでもなく火事が怖いからだ。
重宝するのは水の魔法である。
綺麗な水を生み出すことができ、喉が乾いたり手を洗いたいときには使っている。
▽
母ニーウは、息子のサンが隠れて魔法を使っていることに気づいていた。
ニーウは今は主婦だが、かつては魔術師として冒険者活動をしていたことがある。
ゆえに息子の周囲にマナが集まっていき、遂に息子が魔法を放ったときは「我が子ながら天才!?」と内心で小躍りしたものだ。
ニーウ自身は平凡な魔術師だったが、もしかすると息子は天才的な魔術師になれるかもしれない。
そんな淡い希望を胸にいだき、ニーウは息子に魔術教育をすることについて、夫のデカルを説き伏せている最中だった。
デカルは同じ冒険者パーティの戦士だった男だ。
故に息子のサンには戦士になって欲しいという思いがあった。
それはニーウとデカルとの約束事でもあった。
息子が生まれたら戦士に。
娘が生まれたら魔術師に。
しかしニーウはサンの才能を確信していた。
故に約束をなかったことにして欲しいとデカルに頼み込んでいた。
「しかしな、ニーウ。俺はサンが魔法を使っているとこなんて見たことないぞ」
「なんだか隠れて使っているのよ。私たちに見つからないように、誰も傍にいないときに使っているみたいなの。私が最初に目撃したのも偶然だったんだもの」
「どうしてそんなことを? 二歳だぞ。魔法を自慢してきてもいいくらいじゃないか」
「うーん、そこは私もよく分からないのよね。でも凄く大量のマナを集めて、パっと使う感じで、あんなの見たことないわ。きっと凄い才能よ」
「そこまで言うなら、サンに使わせてみないとな」
▽
「サン、魔法を使って見せてちょうだい」
母から唐突に言われて、俺は固まった。
まさか俺がこそこそと魔法を使っていたことがバレていようとは思わなかったからだ。
「サン、使えるでしょう? 私たちに見せて」
「……サン。本当に魔法が使えるなら、お前に魔術師になるために教育……勉強が必要になる。使えるんなら使って見せてくれ」
なんと魔術の勉強だと!?
これは見せざるを得ないな。
「うん」
俺は『イクイップメント』されている水デッキを初期化して場に用意する。
デッキから初期手札を七枚引いて、さあマナ集めの開始だ。
場に水のマナカードを置く。
そして新たにデッキからカードを引く。
最近の実験で分かったが、マナカードは五枚揃えば魔法を発動するのに十分だということだ。
……まあコスト五の呪文だと考えれば、十分に重いんだけどな。
五枚のマナカードが場に揃った。
俺は両手を杯の形にして手の平を上に向け、
「水!」
唱えた。
するとジュワっと両手の平から水が溢れ出す。
水が両手からダバーと溢れ、止まる。
これで両親に魔法が使えることが分かっただろう。
母ニーウは満足そうに微笑んでいるし、デカルはポカンと口を開けて俺の手元を見ていた。
「本当に魔法だな。魔術ではなく……」
「そうなのよ、凄いでしょ!?」
うん?
魔法と魔術は何か違いがあるのか?
「ねえ、魔法と魔術は何が違うの?」
我ながら舌っ足らずの言葉で問うた。
するとニーウがご機嫌に話し始める。
「魔法はマナやオドを使って直接、魔法現象を起こすことを言うの。原始的な手法ね。一方で魔術はマナやオドを使うのは一緒だけど、定型的な呪文を唱えることで、誰でも一定の効果を得ることができるの」
「おいおい、ニーウ。いくらなんでも二歳のサンに分かるわけないだろ」
普通の二歳児なら理解できないことでも、普通じゃない二歳児である俺にはなんとなく分かった。
魔法には決まった呪文や作法がない代わりに、効果は術者の望んだものとなるが、不安定。
魔術は呪文など決まった作法がある代わりに、誰でも使えるし効果も安定しているということだ。
魔法を使える俺には魔術を扱う才能があるらしい。
今日からニーウの指導のもと、魔術を教わることになった。
「おいサン。毎日、剣の練習もするからな!」
デカルが妻ニーウに対抗心でも燃やしているのか?
まあどのみち、身体を鍛えるのは願ったり叶ったりだ。
「うん、わかった」
俺は快く父デカルの言葉を受け入れた。