29
テストが終わると、長期休暇が与えられる。
俺とナーシアは、エステルについてマルカメーヌ辺境伯領に行くことにした。
ザザたちを護衛にして、辺境伯の屋敷に厄介になることにした。
しかし辺境伯の屋敷についたとき、エステルを出迎えた辺境伯の表情は硬かった。
「お父様、どうなされたのですか?」
「うむ、実は国境がきな臭い。もしかすると隣国と戦争になるやもしれぬ」
なんと辺境伯領と接する隣国が戦争の準備をしているそうだ。
隣国とは歴史的にも仲が悪く、幾度となく戦争になったそうだ。
「お父様、私も戦います。学院で魔術の腕前を上げたのですよ」
「ならん。エステル、お前は屋敷に籠もっていろ。……サンくんだったな、少し話せるか」
「はい」
屋敷に先に入ったエステルとナーシアを見送って、俺は辺境伯に相対する。
「君たちには戦争に参加してもらいたい。ザザ殿ら冒険者を含めて、サンを雇いたいのだ」
「俺を、ですか。それはなぜ?」
「実力があるからだ。エステルは我が子可愛さもあって戦場に出す気にはなれん。だが君たちはダンジョン都市でも名が売れていたほどの実力者。できれば戦争に参加して欲しいと考えるのはおかしなことかね」
「いいえ。辺境伯、戦争に参加するのは問題ありません。ただナーシアはエステルの護衛ということで戦場に出さないで欲しいのですが」
「君の許嫁だったな。分かった、ナーシアはエステルの護衛として雇う。君たち七人は、戦場に出てもらう」
「分かりました。戦果を上げてご覧に入れましょう」
「心強いぞ」
かくして俺たちは、戦争に巻き込まれることになった。
▽
戦争はすぐに始まった。
隣国からは続々と兵士がやって来て、辺境伯領との国境の手前に陣取っていた。
俺たちは辺境伯領にある国境の砦に来ていた。
辺境伯軍が詰めているが、敵軍の方が多い。
「さて……籠城戦になるが、包囲されると厄介だな」
「辺境伯、俺が広域殲滅魔法を放つ許可をいただけますか?」
「広域殲滅……魔法だと? そのような魔法が使えるのか?」
「はい。一日に一度程度なら」
「よし、どの程度の威力か見せてみろ」
「敵陣に撃ち込みます。屋上へ行きましょう」
俺と辺境伯と数名の護衛は屋上に登る。
敵陣がよく見通せる。
これなら大量の被害を敵軍に与えることができそうだ。
俺は戦争に参加することが決まってから予め調整しておいたデッキの手札の一枚を手にとった。
SRの全体除去呪文、煉獄の猛火だ。
「――――ッ!?」
辺境伯の驚きが伝わってくる。
煉獄の猛火は敵軍の陣地の中央から広範囲を焼き払い、敵軍に甚大な被害を与えた。
「なんという……これほどの威力の魔法が、一日に一度使えるだと?」
「俺も威力の高さと範囲の広さに驚いています。使う機会のない魔法なもので」
「いい。これは勝ったも同然だな。講和の使者を送ろう。これを明日、もう一発撃ち込むと脅せば戦争は終わるだろう」
あっという間に戦争が終わった。
俺はたくさんの命を奪った実感もなく、ただこのカードはおいそれと使えないなあ、と考えていた。




