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自習によって先の予習をして、そのため授業の内容はまたも習得済みの内容になるから自習をして……と繰り返して俺はほとんど授業中を読書の時間に充てていた。
さてそんな日々もテストが始まれば呑気に読書、とはいかなくなる。
ナーシアとエステルの勉強を見てやらなければならないからだ。
ナーシアは元々、〈フィジカルブースト〉と剣術のみでやってきただけあって、魔術の座学についてはあまり得意ではない。
エステルは魔術学院に入学することが分かっていたから、勉強はしてきているから成績に問題はないはずだが、どうも不安なところがいくらかあるようだ。
なのでナーシアが落第しないように、俺はふたりの勉強を同時に見ることにした。
図書館は勉強会を開いている生徒がそこかしこにいるため、ザワザワと騒がしい。
俺は集中して勉強するため、風魔術の〈サイレントウォール〉を張り巡らせて、周囲の音をシャットアウトした。
「これで静かになった。始めようか」
「いい魔術ね。今度、私にも教えてよ」
「テストが終わったらな」
風属性が得意なエステルが〈サイレントウォール〉に食いついたが、ともかくナーシアの座学の底上げを行う。
基礎的な知識もいくらか抜けているので、丁寧に教えていく。
「なんだかサンがナーシアに優しいわね。さすがは許嫁、かしら」
「ナーシアは元々、剣士だったからな。魔術の座学をここまで本格的にやる予定はなかったんだ」
「スルーするのね……」
「エステルは勉強できるんだから、自分の分を進めてくれよ」
「はーい」
▽
テストは座学だけでなく実技もある。
入学した頃と変わって、的を破壊した数によって点数がつくというテストだ。
制限時間内なら何度魔術を行使してもいい。
とはいえたった十秒程度しか時間がないため、いかに効率よく的を破壊するかが問題だ。
攻撃魔術が〈レイ〉しかないナーシアはここでも苦戦する。
……と思ったが、十秒の間に〈レイ〉を連打して的を全て破壊してしまった。
ナーシアがここまで連射できるとは思わなかったので、俺も驚きだ。
「どう? 上達したでしょ?」
「凄いな、ナーシア。苦戦すると思ったけど……いつの間に上達したんだ?」
「マナを予め多めに集めて、小出しに魔術を行使したの」
「なるほど、試験開始前にマナを集めまくったのか……」
「ね? なかなかやるでしょ」
「いい方法だな。俺も真似しようか……」
ナーシアの手法に似たようなことをしている生徒もいたが、集められるマナの量や魔術一発に使うマナの量で、ナーシアのように完璧に制御できる生徒は見かけなかった。
そしてエステルの番が来た。
エステルはマナをありったけつぎ込んだ〈フレイムストーム〉で的を全滅させるという派手な方法でテストをクリアした。
……大雑把だなあ。
だが範囲魔術で薙ぎ払うのは、一般的な手法らしい。
貴族らは得手不得手に関わらず、範囲魔術を行使してできるだけ多くの的を破壊することに腐心していたからだ。
そう考えるとエステルのやり方は貴族的だし、理にも叶っている。
さて俺の番だ。
俺は新たに習得した影の魔術で行くことにした。
ナーシアのように予め闇属性のマナを集めておき、小出しに〈シャドウセイバー〉の魔術を行使する。
〈シャドウセイバー〉は影の剣を作り、飛ばす魔術だ。
影といっても物理特性をもった影であり、的に当たれば的を貫き破壊する威力がある。
俺はこれをナーシアの如く連射して、的を時間内に全て破壊した。




