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初日はマナに属性があるという話をされた。
既に俺とナーシア、そしてエステルが通った道である。
集めるマナの純度を高めることで、魔術の威力を上げることができるという話だった。
……その通りなんだが。
いきなりやることがなくなった俺たちは、学院が誇る図書館に行った。
自主的に勉強をするためだ。
ここは辺境伯の屋敷よりさすがに魔術関連の蔵書が多い。
俺は新しい魔術について探し、ナーシアは光の治癒魔術についての本を熟読し、エステルは風の魔術に関する本を読んでいる。
他の生徒達が実習室で練習している間、俺たちは図書館で自習していた。
夕刻、寮に戻った俺を、数人の貴族らが取り囲んだ。
「おい、実習室にいなかったがどこで練習していたんだ?」
「エステル様とはどういう関係だ。マルカメーヌ辺境伯令嬢だぞ」
興味本位なのか、敵意をもってやってきたのかよく分からない。
なので俺はひとつひとつ質問に答えていくことにした。
「特定の属性のマナを集めることはもうできるので、図書館で自習をしていました。俺はエステルの魔術の家庭教師をしていたので、それだけの関係です」
「何、もう特定属性のマナを集めることができるのか……」
「家庭教師だと? 平民がか……?」
面倒な寮だ。
「あ、おい待て……!」
俺はさっさと包囲網を突破して、食堂へ向かった。
▽
隅っこにトレーを持っていき、俺は平民同士の友好を深めようと試みる。
唯一のAクラスというだけあって、俺のことはみな一目置いてくれて、馴染みやすかった。
十二歳から冒険者をやっていると言ったら驚かれた。
いま学院に通っているくらいだから、彼ら彼女らはこれから冒険者になるのかもしれない。
そういえば普通は成人の十五歳くらいから冒険者になるのだった。
なんとか平民の輪に入れた。
これで寮生活が少しはまともになればいいが……。
▽
翌日からの授業も、俺たちにとっては退屈なものだった。
マナをより多く集めるための瞑想、魔術のコントロールを高めるための練習、〈フィジカルブースト〉の習得などなど。
俺たちは図書館で借りた本で自習をすることにしていた。
そんな俺たちにも有意義な授業があった。
それは得意属性ごとに分かれて行う、高位魔術の習得の授業だ。
俺にだってまだ未習得の魔術が多くある。
特に闇の魔術は文献を当たってもなかなかないため、期待していたのだ。
「闇の属性が得意な者……ほほう、今年も数名だな」
教員は俺たちを見渡して言った。
闇の属性が得意な者は少ない。
というより、普通は得意属性がふたつくらいあって、闇は後回しにされるのである。
「数が少ない方が教えやすい。私は闇属性の魔術を教える教師クロードだ、よろしく」
クロードはメガネを直すと、チョークを片手に黒板に幾つかの単語を書いていく。
「いいか、闇属性とは光学的な闇を操る属性であり、他に精神に関する魔術もある属性だ。前者はともかく、後者は基本的に禁術となっており、君たちが習得することはまずないと思っていい」
クロードは「しかし」と続けて、
「唯一、精神に働きかける魔術として〈サニティ〉がある。これは対象を正気に戻す魔術だ。精神関連の魔術にかかった者を正常化する手段でもあるが、パニックになっている者などを冷静にさせたりと使う場面は意外に多い。よく訓練すること」
なるほど、精神に関する魔術がすっぽりと文献から抜けていたから、闇魔術はなかなか増えなかったのか。
納得した一方で落胆もしていた。
結局、闇属性の精神に関する魔術は〈サニティ〉以外、習得できないんだな。
俺はがっかりしながらも、闇属性の影を操る魔術などを習得していくことになる。




