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俺とナーシアは十三歳になった。
数ヶ月間、ダンジョン都市で稼いでショップには大量の銀貨が貯まっている。
ときどきブースターパックを開けることもあるが、今の所は戦力増強の意味はないので、借家を借りたり、俺とナーシアの装備を整えたりと、現実にお金を使っている。
今はダンジョンの地下第十三階層にいる。
このダンジョンは第十五階層まで人の手が入ったことがあるが、第十六階層以降は前人未到だ。
俺は収納鞄から占術の鏡を出して、階段の方向を占う。
アーティファクト占術の鏡は高い精度の占いを行うことのできるアーティファクトとして召喚された。
階段の他、宝箱の位置も占うことができるので、大変重宝している。
「よし、方向が出た。向こうへ行くぞ」
第十階層以降の地図は冒険者ギルドにも売っていないため、自力での探索が必須だ。
以前、第十五階層まで行った冒険者は地図を売らずにそのまま他の街に行ったか死んだらしい。
マッピングも疎かに俺たちは第十五階層を目指す。
「オーナー、魔物の気配です」
墓暴きのリュシエンヌが前方の魔物の気配に気づいた。
俺たちは戦闘態勢を整えて、前進する。
すぐに暗闇に潜んだ魔物を〈ライト〉の魔術が照らし出す。
獅子、山羊、竜の頭部をもった三首の魔物、キマイラだ。
山羊は魔術を使い、竜はブレスを吐いてくる強敵である。
しかも二体いた。
茨姫シャルリーヌが片方のキマイラを茨で拘束する。
拘束されて身動きの出来ないキマイラに、リュシエンヌの閃光の弓が山羊の頭部を穿った。
首刈り斧のフランセットが片手の手斧を投げて竜の眉間を割ると、竜巻の拳闘士ザザが接近して獅子の頭を砕いた。
俺は風のマナカードからマナを引き出し、特大の〈ウィンドセイバー〉を放ち、拘束されていない方のキマイラを両断する。
ナーシアは剣を構えて俺とキマイラの間に立っていた。
「キマイラ二体を瞬殺か……俺たちも強くなったもんだな」
「うん。でも私、出番なかったよ?」
「ナーシアはちゃんと後衛の俺を守ってくれたじゃないか」
「そうだけど……」
キマイラの換金部位である山羊の角、竜の牙や鱗を取って、収納鞄に放り込む。
「よし、とっとと第十六階層に行こう」
「うん。記録更新だね」
俺たちは金儲けだけならこのダンジョン都市の冒険者の中でも上位に入る。
あとは箔付けに記録更新を狙っているところだ。
冒険者としての箔付けは重要だ。
実際、俺たちはリーダーが十三歳の俺だったり、ザザを含めて召喚した連中の冒険者としての経験が浅かったりと、実力より評価が低い。
ここで実力相応の結果を出しておくことで、舐められたりしないようにしておくのは、重要なことなのだ。
▽
第十五階層の階段の方に向かっていた俺たちは、なぜこの第十五階層より下に降りなかったのか、先人たちの判断を理解した。
……ボス部屋があったのか。
ダンジョンの魔物の強さを考えると、ボスの強さはどのくらいのものか。
……普通は厳しいと感じて撤退するよな。
だが俺たちは余裕をもって戦えている。
緊急時のために、マジックナイトの手札も整えてある。
「よし、ボス戦だ。数にもよるけど、いつも通り戦おう」
「「「「はい、オーナー」」」」
カードたちはやる気十分だ。
しかし不安そうな表情を浮かべるのはナーシアだった。
「……大丈夫かなあ」
「心配か?」
「だってボスだよ? この階層の敵、強かったよね?」
「余裕を持って戦えていたと思うけど。ナーシアだって剣を振れば一刀両断していたじゃないか」
「それは剣が凄いからだよ。私の実力は……そこまでじゃないと思う」
「剣の良さも実力のうちだよ。装備を整える能力も冒険者の実力のひとつだ」
「じゃあ色々と出せるサンは凄い冒険者なんだね」
「……まあね」
会話をしていたら、ナーシアも緊張がほぐれたのか顔を上げてボス部屋の方を見ていた。




