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試してみたいのは呪文カードだ。
特に丸呑みはどうなるのか知りたい。
俺たちは相変わらず森での狩りに勤しんでいた。
ブレイドファングボアはもはやナーシアとザザのふたりで処理できる。
こうなってくるともっと強敵を探したいところだ。
グリアルージャンの街の近辺では、森と山岳地帯のふたつの狩場がある。
山岳地帯の方が出没する魔物が強力らしい。
……山岳地帯へ行くのもいいかもしれないな。
慢心していたわけではない。
しかし森の散策中に考え事をしていたのが悪かったのか、他のみんなより気づくのに遅れたのは確かだった。
巨大な銀色の狼が、こちらを睥睨していた。
「なんだ、アイツは」
「森の主だ……気をつけてください。奴に出会ったら、全力で逃げろと聞いたことがあります」
エドワールの言う通り、今まで森で出会ったどの魔物よりも強そうだった。
しかし俺はどうするべきだ?
女神から魔物を狩れと言われて転生してきている。
それに今は、マジックナイトの呪文を待機させてある。
勝機はある。
俺のやる気を感じ取ったのか、森の主はゆっくりと近づいてくる。
同時、ぞろぞろとグレイウルフの群れが現われ、こちらを包囲しようとしてくる。
「リーダー!」
エドワールが焦った声で撤退を促すが……。
俺は丸呑みを森の主に放った。
ばかぁ、と巨大な口が現われて、森の主を飲み込んだ。
一瞬のことにみんな呆然としている。
エドワールは「今のは一体? リーダーが何かされたのですか?」と問うてきた。
丸呑みを使う時に闇のマナカードからマナを引き出したから、それを感知したようだ。
「まあな。試してみたかったんだが……消滅させてしまうとは思わなかった」
森の主は文字通り丸呑みにされ、死体も残らず巨大な口ごと消失してしまった。
これでは儲けはゼロだ。
グレイウルフは突然、リーダーである森の主が消えて戸惑っている。
しかしすぐに別の個体がリーダーとなり、一斉に襲いかかってきた。
「もう逃げている場合じゃないな。ザザ、まとめて倒してくれ!」
「分かっていますオーナー!」
ザザは多数のグレイウルフに向けて走る。
拳には風が巻き付き――ザザが拳を振るうと竜巻が起こってグレイウルフをまとめて吹き飛ばした。
俺も負けてはいられない。
「〈ウィンド・セイバー〉!」
風のマナカードからマナをひとつだけ出して、〈ウィンドセイバー〉を放つ。
本来ならマナを集めるために溜めの必要な魔術だが、マナカードでその隙をなくした。
シュパアン! という空気を切る音とともに、数体のグレイウルフを巻き添えにして風の刃が一直線に走る。
ナーシアが接近してきたグレイウルフに剣を向けた。
リリアナも弓に矢をつがえて、グレイウルフを狙う。
「一体、何がどうなって――」
エドワールだけが困惑したまま突っ立っていた。
「エドワール、疑問の答えは生きて帰ってからだ。戦え!」
「……そうですね。失礼しました」
エドワールも〈ウィンドセイバー〉でグレイウルフを狙う。
半分以上を狩ったところで、グレイウルフの群れは撤退を始めた。
俺たちはなんとか生き残ることができた。




