1.プロローグ
TCG:MK――トレーディングカードゲーム:マジックナイト。
その世界大会の決勝戦は、マジックナイトの開発元であるニューヨーク本社オフィスで行われていた。
百名以上のプレイヤーがひしめき合うトーナメントで、メタ外のコンボデッキで華麗に決勝戦にまで勝ち上がった日本人選手がいた。
名を土楼太陽。
プロとして登録されている選手で、あだ名はドロー・ザ・サン。
優勝賞金百万ドルを賭けた勝負が、今まさに始まろうとしていた。
▽
トーナメントは二本先取した方が勝者となるルールだ。
決勝戦もそれは変わらない。
第一回戦の先手は太陽。
序盤を全体除去呪文で凌ぎつつ盤面を整えると、怒涛の高コストカードを連打し、そのまま相手選手を圧倒。
一勝をもぎ取った。
続く第二回戦は苦戦する。
相手選手の軽量モンスターがガンガン投入され、太陽は除去呪文をなかなか引くことができずに押され気味。
しかし残りライフポイントが僅か1点まで押し込まれた時点で、太陽の手札と盤面にコンボパーツが揃っていた。
太陽が世界大会まで秘匿したコンボデッキは高コストカードのコストを踏み倒して使い回す凶悪なもので、この大会が終わったら運営会社はコンボのキーパーツのいずれかを禁止カードに指定するだろうと囁かれていたものだった。
そのコンボが決まり、太陽は二連勝して優勝を決めた。
▽
優勝賞金が書かれた巨大な小切手のボードを持ち、大会運営スタッフやベスト十六まで勝ち上がった選手たちと記念撮影を行った。
それが彼の最期の笑顔の写真となった。
大会を終えて日本に帰った太陽は、帰宅途中に不運にも交通事故にあってこの世を去った。
路上には太陽のデッキがばら撒かれ、カードに埋もれて太陽は死んだ。
▽
「まだまだマジックナイトをし足りない!!」
真っ白い空間で俺は叫んだ。
はて、ここはどこだ?
トラックに跳ねられて大事なデッキがばら撒かれたのを見た記憶はあるのだが。
『あなたが今回の転生者ですね』
「誰だ!?」
白いドレスを纏った金髪巨乳の女神が、俺の目の前にどこからともなく現われた。
「オウ、金髪巨乳の女神……」
『左様。金髪で巨乳なのは事実ですがそれはさておき、私は女神……地球ではなく別の宇宙にある、とある惑星の女神です』
「はあ」
『地球の神から、定期的に転生者を受け入れているのですが、今回の転生者はあなたとなりました。おめでとうございます』
「転生者? それってあれか。異世界転生とかそういうあれか?」
『どういうあれかは分かりませんが、多分、想像している通りでしょう』
「ほーん。そんじゃチートとかくれるわけ? そんで異世界でハーレム作って貴族に成り上がって、幸せな人生を送れるってやつ……」
『甘い!』
巨乳が上下に揺れた。
『確かに異世界で生き抜くために能力を与えますが、与えられた能力でキチンと生きるのはあなたの心構えひとつです』
「はあ」
『私の世界は、動植物の進化の過程で致命的なエラーが発生しておりまして、いわゆる魔物が跋扈する世界となっています。転生者には定期的にはびこる魔物を退治してもらうために、能力を与えて私の世界に派遣しているのです』
「えーとつまり害獣駆除が俺の目的?」
『平たく言えばそうですね。冒険者という制度があるので、あなたは冒険者となって魔物を討伐していただきたいのです』
「……まあ話は分かった。それでなんで俺が選ばれたんだ?」
『それは純然たる運によるものですね』
「あ、別に誰でも良かったのか……」
『ああー……そんな言い方をされると悪いのですが、転生は幸運なことですよ? 宝くじが当たったようなものですよ?』
「俺、死ぬ直前に百万ドルを稼いだから、別に宝くじに当たったって言われてもありがた味が薄いなあ」
『え、それは凄いですね。どれどれ……ははあ、カードゲームの世界大会優勝ですか。凄いですね』
「まあな。誰も気づいていないコンボで大会を圧倒してやったけど、脳汁出まくりで最高だったなあ」
『……はあ』
「あ、そうだ。転生するって話、どんな能力がもらえるんだ? どうせならマジックナイトに関する能力とかがいいわけだが」
『ああ、そうですね。そういう風にもできますよ? ではマジックナイトというカードゲームの魔法を授けましょう』
「おお、話が分かる女神だ。言ってみるもんだな」
『まあここで与える能力については、転生者の希望をできるだけ聞くことになっていますからね。使い方も応用の仕方も分からない能力を与えても活躍しづらいでしょうから』
「なるほどなあ」
『そういうわけで、マジックナイトの能力を与えし転生者よ。魔物を退治するという使命を忘れずに、しっかり新しい人生を歩むのですよ?』
「ああ。またマジックナイトに触れられるなら、そのくらいの使命は果たしてやるよ」
『それでは、新しい人生の幕開けです!!』
女神の宣言と同時に、俺の意識はブラックアウトした。