第4話ショートショート「部屋」
〇ショートショート「部屋」
うわ! 悪夢か。便器に追いかけられる夢なんて、ああ、尿意か。便器が腹ペコだと言いたいのかな。うう、寒い。椅子に掛けていた上着を荒々しくつかみ羽織った。パタパタスリッパの歌を耳にしながらトイレへ向かう。
階段を一段一段下っていく。あれ? ここは階段の途中? こんな所に部屋があったっけ。とりあえず尿意が足を押しているのでまあ無視しよう。
あれ? どれだけ下りてもどこぞの塔にでも住んでいるみたいに終焉がない。うう、膀胱がクレームを神経に放っている。
もうちょっと。もうちょっと。我慢してくれ。膀胱様。
「駄目だ」
どれだけ下りても階段が続く。うちは二階建てだよね? 家の身長が伸びるように増築された?
こうなったらやけだ。どんどん降りて行こう。
うう、漏れそう。あ、またドア。何の部屋だろう。もしかしたらトイレかも。
ガチャ。
ここは……眩しい。ライトがキラキラ、客たちもきらびやかな衣服を身に着けている。パーティー会場みたい。わあ、フレンチにイタリアンに中華料理。湯気が上がっているし、できたてかな。これはどこかで見たような……。脳が懐かしんでいる。
「お、森光、こっちへ来いよ」
「あ、斉木だ」
私は尿意に耐えながらひらひらの華美な布が張られた一室にどんかんどんかん進んでいく。
「ああ、森光君、久しぶり」
「ああ、神木さん」
クラスのマドンナだった神木さんに会えるなんて。チャイナドレスがまぶしい。服に勝つ美しさだ。
「斉木、それよりトイレどこ?」
「え? トイレって何?」
きょときょとんしている親友に現実が幽霊になったみたいだ。ここはどこ? 私の家だよな?
「森光君、踊りましょう?」
「え、神木さん。それより早くトイレに行かせて」
手を食人植物のようにからめとられ多くの人に混じって踊り始めた。足が震えはじめた。決壊は近い。
私は足を引きずりながら脱出を図る。楽隊が演奏する傍の窓を開け、下を見下ろすと一階だった。目の前に藪がある。あそこで小水を……。
一歩一歩進み藪に来た。膀胱に温情を与えたし、帰ろう。あれ、窓が閉まっている。中ではスーツとドレスの男女が踊っては酒を飲んでいる。
声を上げてもノックしても無視される。私はどうなったのか? この庭から出て入り口に回ろう。
「嘘だろう?」
四方のうち、三方は藪、一方は建物。回りこもうとしても森のような場所から出られない。こんなに広い庭ではないのに。悪意でもあるように生い茂り、カサカサ、葉っぱが笑っている。このままルンペンとして飢えて永眠していくのか……。死に見つめられている。いつ手を伸ばし、私を奪うだろう……。
〇
あれから、何日も経った。私はそこで未開地の民のように生活している。お! まるまるとしたウサギだ! 捕まえなきゃ! このちょっと欠けた石槍で! ごちそうだなあ! じゅるる。
了