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裔訣の種  作者: 420
記憶の種
7/8

顛末

「やっぱ男爵家のやつだったか…人質でニュクスを狙うとしたら俺という護衛がいる相手より、護衛がいないセリニ兄さんを狙った方が手っ取り早そうに見えるからな…

 それにしてもあいつは逃げたのか…」


 なるべく早く、というのを意識して魔法を使用したためか威力も低かったのだろう。


ーーーコンコンコン


「失礼します。麦粥ができましたのでお持ちいたしました。机の上に置かせていただきますね。」


 長いこと話していたようだ。麦粥は普段好んで食べるものではないが、空腹のせいか非常に美味しそうに見えた。


 食べていたところ、父と母も一緒に部屋まできた。


「怪我の具合はどうだ?」


「父さん、もう大丈夫だ。ちょっと体はまだ痛いけどあと数日あれば治ると思う。」


「もうっ、心配したんですよ!アステルはすぐ無理するんだから…」


 母は安心したらしく、涙目だ。父は言葉が少なかったが、どこか安心したようであった。


「…ごめん、心配かけた。まあ無事だったんだから大丈夫だよ。」


 こんなに家族に心配かけていたのを実感し、なんだか照れ臭かった。


(何があっても家族は守らないとな…)


 前世というものを追体験し、一度家族を奪われているアステルにとってはもう二度と手放したくない暖かさであった。


(もっと強くならないと…)


 今回は殺したくない、という想いもあって相手に不足を取り、前世を思い出さなければ負けていただろう。それに、相手もこちらを嬲るために生かしていたのも大きい。未だ敵対した者を殺すことには抵抗があるが、少しでも強くなって殺さずとも勝てるようにしたい。


「アステルお兄様、助けてくれて本当にありがとうございました。私たちはそろそろ部屋を出ますのでゆっくり休んでください。」


 部屋を出て行こうとするニュクスとセリニを見送りながら、ふと疑問に思った。


「そういえば、もう『お兄ちゃん』って呼んでくれないのか?」


 きょとんとした顔でこちらをみた後、思い出したのか急に顔を赤くした。


ーーーパンッ!


「ぐはっ!!!」


 頬に手の跡が付き、ニュクスはさっと出ていってしまった。


「今のはアステルが悪いかな…?

 じゃあゆっくり休んでね。」


 呆然としているところにセリニが声をかけ、ひょいと出て行ってしまった。


(今日はさっさと寝よう…)




 アステルは草原のど真ん中を歩いていた。


(ここはどこだ…?)


 草原とはいってもただの草原ではない。淡く光る草に満点の星空。月明かりもあってかなり明るい。どこか懐かしいような気がする。しかし、何かアステル自身にぽっかりと空いた穴があるような気にもさせた。


(どこかで見たような気がするんだが…)


 幻想的な雰囲気で、一度見たら恐らく忘れないだろう。それでも記憶にないということは勝手に記憶が創った風景なのだろうか。


(まあ、今はこの景色を楽しむか…)


空を眺めながらどこまでも続くその風景を歩いていった。




 あれから二日が経過した。最初は痛くて仕方なかったがしばらく寝ると体の痛みが少し引いていたため、あと数日休めば回復するだろう。


(それにしても…)


 思い出した記憶によって、魔法の使い方はかなり理解することができ、それは大きな利点だ。そのおかげでニュクスを助けることもできた。ただ、気掛かりなこともある。


「今って暁暦1565年だったよな…?」


 暁暦とは、魔法を属性ごとに魔法陣を利用して使えることを発見し、それまで魔物から隠れて暮らすしかなかった人類を、大きく発展させた魔導士マーリンが誕生した年を元年とする暦である。

 東方では皇帝が崩御する際に暦が変化する国があるなど、暁暦以外を扱う国もあるが、そういった国でも暁暦を同時に使用する場合が多いためどこでも使用可能となっている。


(確か前世の記憶の中では暁暦1548年だったような…?)


 そうなると、死んでから17年しか経っていないことになる。モニアを奴隷にする、と言っていたため、もしかしたら生きているかもしれない。更に、婚約者であったエテレインも生きている可能性もある。


(モニアが生きていたら17年も一人で…?)


 祖父母が生きていたとしても、ああいった形で奴隷となったのなら会える可能性は無いに等しい。


 奴隷はいくつかの種類がある。

 借金奴隷等であれば生活を保障、肉体関係は合意がないといけないことなど、最低限の義務があり、違反すると罰する国が多い。犯罪奴隷に関しては食事を摂らせる義務はあるが殆ど制約は無いに等しい。それでも違反があれば罰せられる。

 しかし、違法で奴隷になった者は死ぬまで使い潰したり、欲の捌け口にしたりと、酷い行為をされている場合が多い。国に管理されていないため発覚もしにくく、発覚したところで大量の死者が見つかる、ということも無くなる気配がない。


(済まないモニア…16年も思い出すのに時間がかかってしまったよ…)


 こうしてモニアが生きているかも、というだけで駆け出したくなるような焦燥感や不安が押し寄せるのに、家族も誰もいないことに17年も耐えているのだろうか。


 エテレインについても、無事かどうかわからない。相手は明らかに自分たちを狙って、よくわからない方法を使って殺した。一族を狙うというなら祖父母も危ないし、婚約者であったエテレインも同時に狙われた可能性もある。


 魔法を無効化、というのもできないわけではないが牢石は基本入手不可であの際は何も付けられた記憶はないし、他の方法も条件が厳しいためあの場では不可能だ。よくわからない手段を用いて魔法を使用させなかった相手に狙われたら、あのエテレインでも無事では済まないだろう。


 自分の側にいる人を大切にしたい、守り切りたい。どうしてもこれだけは譲れない。しかし、大切にしたい人が側にいない。もしかしたらもうこの世にいないかもしれないし、いたとしても遠いかもしれない。


(それでも、俺がやりたいことは…)




 数日後、アステルの体調は回復した。左目はもう開かないため、体が慣れるまで時間はかかるだろう。最初はベッドから立つこともままならず、侍女やセリニ、ニュクスからも補助を受けていた。

 もしかしたら、前のように魔法を使いつつ、接近戦をするのは難しいかもしれない。ただ、それでも絶対にやらなくてはならないことがある。


ーーーコンコンコン


「はい、どうぞ。

 ああ、アステルやっと出歩けるようになったんだね。良かったよ…」


「セリニ兄さん、心配かけた。

 あと俺、どうしてもやりたいこと見つけたんだ。」


 覚悟を決める。自然と体に力が入る。セリニはやりたいことに対して反対してくる可能性もあるが、多分こちらの味方をしてくれるだろう。問題は母やニュクスであるわけだが。


「良かったよ。なんだかもやもやが吹っ切れたような、そんな顔をしてるし。

 そろそろ夕食だし、家族みんな揃ってから全員で聞こう。」

読んでいただきありがとうございます。

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