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裔訣の種  作者: 420
記憶の種
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記憶の種

少し長めです。

 僕はそれなりに恵まれていると思う。実技では二位だったが、魔法大国であるタウマト王国の首都ヤレアッハにあるシュメッシュ王立学園という、世界でも一位二位を争う学園を主席で卒業することができた。


 魔力量はそこまで多くなかったため実技では劣っていたが、座学においてはトップ、その上劣った魔力量を補うために適性のある火魔法の小魔力高威力の新しい術式を開発しては実践していた。そのため、ただ魔力量に任せただけの戦闘をする人には負けることはなかった。

 ただ、戦闘センスが非常に優れ、エルフとのハーフのため魔力量も非常に多く、水魔法と風魔法の複数属性持ちの彼女、エテレインには一度も勝つことはできなかった。




 そんな彼女との婚約の話がきたのは14歳で、お互いに座学と戦闘のトップ争いで睨み合っていた頃である。


 この話には親の都合が大きかった。

 僕たちの領地では穀物や果物が多く採れ、国内の葡萄酒では最高の産地となっていた。しかし、鉄などの鉱物が全くと言っていいほど採れず、別の領地へと頼りきりの状況であった。

 彼女の領地では鉱山があり、金属資源は潤っていた。しかし、畑を耕しても穀物も野菜も育たない土地となっていた。

 そのため、お互いの結びつきを強め協力していくのを目的に子供同士を結婚させようということだった。


 最初の僕たちは猛反発したが、惹かれ合うのに時間はかからなかった。彼女から見た僕はわからないが、彼女は学園に所属している間は訓練に勉強に浸かっていた。

 訓練には時々参加し、戦闘での弱点をどんどんと指摘してもらい、彼女には魔法の改善点を指摘して高め合っていた。


 16歳で学園を卒業し、二人とも領地へと戻った。基本は手紙で交流していたが、お互いの領地へと定期的に訪ねていた。




 翌日にエテレインを訪ねようと準備を進めてるときのことだった。落ち着いて会うのは久しぶりであり、わくわくした気持ちが治る気配を見せない。


ーーーバンッ


 大きな音を立てながら興奮した様子の妹が入ってきた。


「お兄ちゃん、明日はエテレイン姉様のところへ行くのでしょう?私も姉様と遊びたいわ!」


「ほら、ちゃんとノックしてから入ってこないと…

 モニアはエテレインが大好きだね。明日は父様も母様も一緒に行くみたいだから、移動中静かにできると約束できるなら大丈夫だよ。」


「わーい!約束するー!準備してくるね!」


 そう言いながら、どたどたと廊下を走って部屋へと戻っていった。現在六歳だが、そろそろ落ち着きが欲しいところではある。

 本来は『お兄ちゃん』と呼ぶのも直さないといけないところではあるが、エテレインやそのご両親である、ペークシス伯爵及び伯爵夫人の前ではしっかりとした言葉遣いをしているので急いで直す必要もない。




 翌日は実によく晴れた日だった。エテレインの住む街へ向かうには、早朝に出発して途中の街で一泊、更に夜まで竜車を走らせて着くという場所にあった。馬車だと更に倍以上の時間がかかる。

 竜車は魔物のため調教が難しく、維持にもそれなりのお金がかかるため貴族の一種のステータスとなっていた。その代わり、体力もかなり高くスピードもあるため欠かせない存在となっていた。


「コハブ、準備はできたかい?」


「はい、父上。あとは竜車に積み込むだけです。」


 ずっしりとした荷物を侍女に運んでもらう。どすんと音が出るほどで、竜車が壊れないか心配になるほどだ。


「ペークシス伯爵夫人とはお会いするのは久しぶりだから楽しみだわ。」


 そう言いながら出てきた母の後ろには、かなりの量の荷物があった。


「母上、その荷物は…」


「前にうちで作ったワインを一緒に飲もうと約束したのよ。ワインに合うものを詰め込んで…大きすぎたかしら?」


「まあ、これくらいならなんとか乗るだろう。

よし、そろそろ出発するぞ。モニアは眠そうだが準備はできたかな?」


「うぅーん…大丈夫…」


 また眠そうで、目を擦りながら答えた。


「モニア、出発したら寝ても大丈夫だからまずは竜車に乗ろうな。」


「うん、お兄ちゃん…」


 先に今にも倒れそうなモニアを竜車に乗せ、屋敷に残る人へと目を向けていく。


「いってらっしゃいませ。ご旅行中の期間のことは私たちにお任せください。

 移動中の護衛にはアネモスを始めとして6名つけますのでご安心ください。」


 そう言って執事長であるプロムスは一礼をした。アネモスは領軍の総隊長で、かなりの実力がある。コハブも、アネモスの時間が空いているときは稽古をつけてもらうこともあった。


「アネモスを?過剰戦力な気がするが…」


「いえ、近隣の国では近頃盗賊らしきものによる襲撃が散発的に発生しております。定期的に兵が巡回している街道沿いであっても、襲撃されるということが絶えておりません。

 なにかあってからでは遅いので、確実に守り切れるようにさせていただきます。」


 頭を下げながらそう答え、その言葉を理解したのか納得したような顔になっていた。


「では頼んだぞ。」


 一台目と四台目に護衛、二台目に両親、三台目にコハブとモニアが竜車に乗り込み出発する。モニアは眠さに耐えきれなかったのか、竜車内の椅子でぐっすりと眠っていた。




 街を出て暫くした頃、モニアが起きた。


「おはよう、モニア。」


 頭を撫でながらそう言うと目を覚ましたようで、目を擦りながらキョロキョロと辺りを見回している。


「おはよう、おにいちゃん。今どこらへんなの?」


「そろそろ昼食予定の街に着くはずだよ。

 ほら、ちょっと遠いけど外壁が見えてきた。」


 この世界では魔物からの襲撃に備えて高い外壁で囲まれた街が多い。稀にダンジョンで増殖しすぎた魔物が溢れ出すこともあるため、外壁には迎撃用の兵器を備えているところもあるくらいだ。

 ダンジョンが近くにあると判明していれば近くに街を作るということは少ないが、未発見のものも多く完璧に対策をとることは難しい。


「本当だー!お昼はお肉食べたい!」


「うん、父様と母様に話しておこう。」


 街に到着し、モニアの希望通りランチを食べる。ランチではしっかりと牛の魔物のステーキを食べ、満足そうにしていた。魔物肉は少々高いが、たまにする外出くらいなら贅沢しても良いだろう。魔物によっては不味い肉もあるが、似た動物の味を更に美味しくさせたような場合が多い。

 食後は早めに出発するため、少し休んでからすぐに出る。


「コハブ、後で話がある。途中の休憩でそちらの馬車は行くから、モニアは外してくれ。」


「ええー!?私、お兄ちゃんとずっと一緒がいい!」


「すまないな、モニア。またディナーの際は好きなもの食べていいから、少しの間だけ我慢してくれ。」


 申し訳なさそうに言うと、モニアも納得したのか不承不承といった風に頷いた。


「わかりました、父様。」


 いつもの優しい雰囲気よりも数段鋭くしたような声であったため、緊張しながらも答えた。


「そんなに緊張しなくていい。当主となるのも近いかもしれないからな…」


 後半は呟くようだったが、何故か緊張したような音も含んでいた。




 景色を見ながらモニアと話し、順調に街道を進んでいた。葡萄畑が多く、これから収穫してワインを作るところだったので見た目も綺麗だ。


 日が少し傾き始めた頃、途中の街道沿いにある休憩所で休んでいた。竜車はあまり揺れないような作りになっているが、それでも座りっぱなしなので疲れは出てしまう。モニアも疲れてきたようで、少しうとうとし始めていた。


「よし、そろそろ出発するか。コハブは二台目の竜車に来るように。モニアは母さんと一緒に三台目の方で街に着くまで休んでいるといい。」


「わかりました。」


 短く返事をし、緊張しながら竜車に乗り込む。

 出発してもしばらくはお互いに言葉を発さず、朱く彩られた空に少しずつ星が出てきた頃にようやく言葉を紡ぎ始めた。


「なあ、血統魔法って知ってるか?」


 血統魔法とは、ある血族にのみ現れる魔法であり、基本の六属性である『火』『水』『土』『風』『光』『闇』とは別系統の魔法であったはずだ。六人の物理型の最強の武具の使い手と、六人の魔法型の最強の使い手で構成される『熾天』、その魔法型の方は理由は不明だが基本属性のみで構成されるため、血統魔法は除外されている。


「はい、基本のことであれば。多少研究したいという気持ちはあったのですが、ほとんど情報がないので…」


「どう思う?」


 どう思うか、それはなかなか難しい。過去に集団となって国を襲ったという悪として物語に出てくる例、人智を超えた力を怖れて迫害し惨殺したとされる例など多くは怖れの対象となっている。

 しかし、コハブにとっては恐怖というより興味の方が強かった。どう答えるのが正解なのかわからないので、正直に答えるのが良いだろう。


「怖い、というよりは興味の対象ですね。実際に見たことがないことが大きいのでしょうが、かの偉大なマーリン様ですら体系化できていない…そのような魔法は僕の目で確認したいです!」


 後半はやや興奮気味だったが、その一言になにかあったのか父の緊張感が柔らいでいた。


「実のところ、我が家系は血統魔法の使い手なんだ。この情報は当主となる者のみに魔法の使い方と共に受け継いでいくんだ…

 血統魔法については忌避感がある者も多いからな。コハブがそういったものがなくて安心したよ。」


 最後の方はため息を吐きつつ、少しわかり辛いが笑みを浮かべていた。しかし、コハブにとってはそれどころではない。


「えっ…?我が家系が……因みにどのような魔法を?」


「幻覚系の魔法だな。闇魔法や火魔法でも似たようなことはできるが、血統魔法だけあって規模が違う。

 例えばそうだな…やろうと思えば我らが住む街全体を覆うくらいはできるぞ。まあ、そんなことしてしまえば魔力が尽きるがな。」


 後半の方は少し笑っていたが、あまりの話についていけなかった。基本、闇魔法の幻覚は半径100mほどが最大、火魔法については対人で少し使用する程度が最大だとされている。魔法効率がかなり良いのだろう。


「それはまた…魔法陣はどのように継承されているのですか?まさかすべて覚えて口伝とか…?」


「わっはっはっ!まさかそんなわけないだろう。我が領地の南方にある山中の別邸を覚えているか?」


「はい、昔何度か行った記憶があります。かなり見つかりにくい場所にあったと思いますが…まさか…」


「ああ、そのまさかだ。あの場所は本来本邸でな。地下には使用法から魔法陣、更には歴史まで様々な書物がある。当主とその直系しか開かないようになっているがな。この旅が終わったら行くとしよう。」


「わかりました、父上。まさか我が家系にそのような秘密があったとは…」


 あまりの情報に頭が破裂しそうだった。父も落ち着くための時間をくれたようで、竜車の中には静かな時間が流れていた。




ーーードォォォン!!!


 少し落ち着いてきた頃、前方から何かが爆発する音が聞こえ、火柱が上がった。自分も父も魔力で周りを探査していたが、それまで特に異常は見られなかった。そのため、なにかの襲撃というより事故が起こったのではないかと二人とも考えた。


「おい、外に出るぞ!」


「はい、父様!」


ーーーヒュン


 外に出た瞬間、父の頭部に矢が生えた。ドサっと倒れ込んだ父をすぐにでも助けたいが、外に出ると自分も撃たれる可能性があるため救出できない。

 襲撃場所を特定しようと指輪型の魔法具に魔力を流し、周りを探知しようとするが魔力が使えない。


(魔法を使えないとはどういうことだ…?母様にモニアは無事なのか…?)


 竜車の隙間から周りをなんとか確認する。前方の竜車は火柱の真上を走っていたのか、すでに原型は留めていなかった。後方のモニアたちが乗った竜車は一見無事だが、弓による攻撃を受けている。

 母様も外を確認しようとしたのか、外に出たところで弓による総攻撃を受け、全身から矢が生えていた。四台目に乗っていたアネモスは応戦していたが、魔法が使えないことで身体強化も使えずすぐに地に伏していた。


「お母さん!お母さん!!」


 モニアが必死な声で動かなくなった母を揺らしている。するとそこに一人の身なりの良い男と従者らしい数名が近づいてきた。


「あれ?まだ生き残りいたんだ?最初で片をつける予定だったんだけど…

 それに、三番目の馬車には兄妹が乗ってるんじゃなかったっけ?なんで親の方が死んでるんだ?」


「情報に誤りがあったようですね…この少女はどうします?」


「うーん、まあこれくらいなら奴隷として売れば金になるだろうし取っておこうか。

 あと、まだ兄の方が生きている可能性が高い。探して殺すから、ちょっと待ってて。」


 その言葉で男に数人ついてきた従者どもがモニアを取り押さえた。


「痛いっ!!やめてっ!!」


「モニアを放せ!大丈夫か!?」


「お兄ちゃん!」


 妹が希望を見たように目を輝かせる。つい飛び出してしまったが、特に作戦などはない。魔法が使えない。それだけでかなりの無力感が支配する。アネモスに教わってきた体術、魔法の使い方もすべて魔力を使うものだ。


「自分から出てきてくれたんだ!探す手間が省けて嬉しいよ。じゃあ死んでもらおうか。」


 一見優しそうで中性的な顔ではあるが、平然とこのようなことをする男に恐怖する。最初はニヤニヤしていたが後半は真顔でそう言うと、腰に下げた短剣を投げてきた。なんとか目視できたので躱そうとするが、肩に深く刺さってしまう。


「ぐあっ!!」


 痛さに耐えかねて、つい膝をついてしまう。するとゆっくりと向こうが近づいてきた。


「あらあら、血統魔法使いって結構しぶといねえ。汚らわしいからさっさと消えて欲しいんだけど…?」


 肩に刺さった短剣をグリグリと捻りながら抜き取られ、憎しみの篭った視線を向けられる。

 あまりの痛さに吐き気がする。妹だけでもなんとか助けたいが、魔法すら使えない自分では妹に向かって手を伸ばすので精一杯の動作だった。


「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!!」


 必死に呼ばれるのを感じながら、意識が遠のいていく。



 どうかモニアよ、生きていてくれ…すまない、エテレイン…

読んでいただきありがとうございます。

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