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裔訣の種  作者: 420
記憶の種
1/8

いつも通りの日常

初めまして。420(しの)と申します。初の投稿ですので至らない点あると思いますが、よろしくお願いします。

 何かを忘れているような気がする、という感覚に囚われたことはないだろうか。やりたいことがあるはず、やるべきことがあるはずなのに思い出せない。

 ほとんどの人は思い過ごしだと判断し、日常へと戻っていくだろう。そんな中悩み続け、答えを見つけようとした一人の青年の話である。


 自然が豊かなピゲス王国、その東寄りに位置するプラクスという街で一人の青年が迷い続けていた。



「アステル、職業をどうするかもう決めたかい?」


「いや、まだ決められてない…」


 青年、アステルは迷い続けていた。なにかやりたいことがあるような気がするが思い出せない。もやもやとしたものを抱えながら、頭を抱える日々を過ごしている。

 ノックしながら入ってきた兄を一瞥した後、目の前のメモ帳のような、なにが書いてあるかわからないほどぐちゃぐちゃに書き込まれた紙に視線を戻した。


「セリニ兄さん、兄さんはどうやって職業を決めたんだ?」


 セリニは輝くようなさらさらとした金色の髪を弄り始め、考えながら呟いた。セリニ自身は知らないだろうが、商会を利用している客には美少女のような外見を拝むために通っている人もいるくらいに女性、一部の男性にも人気がある。


「まあ、僕はうちの商会をずっと手伝ってきたからね。計算をするのもなにが売れそうなのかを考えるのも楽しいし、ここしかないって感じかな。

 アステルはこのままうちの商会で手伝うのも良いだろうし、魔法の才能もあるから、魔法や魔導具の研究、試験さえ受ければ領軍にも採用されるだろうし選ぼうと思えばいくらでも選べるんじゃないかな?」


「はぁ…俺は別に戦うことが好きって訳ではないからな。せっかく魔力量が多いんだから有効活用しようと勉強しただけだ…まあ、このままなら商会を手伝っていこうかと思ってるよ…」


 商会で手伝い程度のことはそれなりにしているが、自分が将来それを続けているのを想像するともやもやとした違和感が胸のどこかにあるような気がした。ただ、なにもやらずにいるわけにもいかないので護衛戦力として、忙しい部署の助けとして雇われるというのが良いだろう。

 商会では基本的に武器や宝飾品、日用品、魔導具など多様に扱っており、外部の支店に本店から輸送する際には陸路を馬車等で移動する。その際、魔物や盗賊が出ることもあるため護衛は必須だ。

 また、これは本店含め領主に許可された一部の支店のみで行っていることだが、金貸しの業務も行っている。飲食業を始めたいがどうしてもお金がない、魔導具のアイデアはあるがお金がないといった人を審査し、将来性が見込める人にはお金を貸している。現在までにお金を返さないといったトラブルは起きていないが、襲撃されそうになった支店はあるという話だ。

 例を挙げればキリがないだろうが、商会に護衛の戦力が必須ということがわかるだろう。


「アステルは頭も良いから手伝ってくれるなら助かるよ。それに輸送時とかの護衛もできるだろうから言葉通りの戦力にもなるからね。

 ああ、それはそうとそろそろニュクスの学園が終わるだろうから迎えに行ってもらっていいかい?」


 十二歳の妹、ニュクスは街の中にある魔法学園に通っている。朝から夕方まで、魔力の扱い方、日常にありふれている魔導具の原理や扱い方、さらに発展してそういったものの作成方法の基礎まで教えている学校だ。

 ニュクスは魔力はあるが、そこまで魔力量は多くない。小さい頃は見学した演習が格好良かったのか、領軍の魔導部隊に入りたいと話していたが、最近では魔導技師になり魔導具の作成や修理をしていきたいと話していた。


(やりたいことが決まってないのも自分だけ、か…)


「…もうそんな時間か。最近は物騒なことも街の中では起こってないんだし一人で帰らせても良いんじゃないか?」


 この街、プラクスでは犯罪がかなり減っていた。領主が定期的に領軍を巡回させていたり、兄がこっそりと放っている『目』と呼んでいる組織が犯罪を見つけたら領軍に通報したりと、犯罪発生する場がほとんどない。一般向けに公開されている取締り記録を見る限り、酒場での軽いトラブルがほとんどであるくらいだ。

 領軍は巡回ルートや時間をランダムで変えることもあり、この時間にここを通るから犯罪しやすくなる場が発生する、といった事態も避けられていた。


「まあ、なにごとにも〝もしも″はあるからね。避けられる手段があるのであれば、手を打っておかないと。アステル、なにかあれば絶対キレるでしょ。」


 後半は苦笑気味であるが、確かにリスクはなるべく回避すべきである。ニュクスが攫われたりした場合正気でいられる自信はなかった。


「よし、じゃあ迎えに行ってくる。」


 セリニの後半の言葉は無視したが、答えない時点で答えは決まったようなものだ。


 机の上のメモをしまい、だんだんと寒くなってきた季節に合わせて上着を着て、軽く護身用の指輪型魔法具を装備をして家を出た。




 商会の上にある住居を出て、少し日が沈んで暗くなり始めた道を学園に向けて歩いていく。街の通りに等間隔で設置された魔導ランプも点き、酒場も少しずつ騒がしくなっていく。やれ今年の作物は出来が良いやれ今年は魔物が少なくて怪我人が出なかったと、明るい言葉が並ぶ。

 この街、プラクスでは防壁の外に広がる高原を用いた農業が盛んであり、季節によってさまざまな表情を見せることが話題となって観光を目的としても国内外に人気がある。

 それに伴い宿屋や観光案内所も多くあり、職業に困るということは当人にかなりの問題がない限りは働き口には困らない。労働を終えた人が大通りにある酒場に集まり騒いでいるのもいつもの光景である。

 

 昼とは違う喧騒に包まれた道を領主の館に向かって歩いていく。領主の館に向かっていき、貴族街と呼ばれる文官が多く住む地区のそばに魔法学園は存在する。隣には魔法以外、商売や鍛治などを学びたい人向けの学園、そして領軍や商会の私兵、冒険者といった戦闘に関する学園も併設されている。


 学園の門の前に数人の生徒の姿があった。セリニに似た金色の髪を腰辺りまで伸ばし、将来確実に美人となることがわかる愛嬌のある顔立ちをしている。まだアステルに気付いていないのか、友人と談笑している。

 女の子同士の会話には入り難いが、放っておくといつまでも話しているような雰囲気がするので話しかけないわけにはいかない。


(女の子の話っていつまでも続くよな…いつか終わるところを見てみたいものだが…)


「話してるとこ悪い。ニュクス、迎えにきたぞ。」

読んでいただきありがとうございます。続きは明日0時の予定となっております。

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