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短編集

性別大逆転の、その中で。


 木枯らしが全身を吹き付ける。とても冷たくて「ああ、もう年越しなんだ」ということを自覚させる。

 ジャンジャカ騒がしかったカラオケ店の一室であった一夜の思い出は、こちらの世界にはない。目の前に広がる人混みと、遠くのほうに見える大きな鐘。これから一人ずつ、鳴らしていく。

 いったいいつになれば鳴らせるのだろう。僕は灰色のロングコートのポケットに右手を突っ込み、耳当てのついたニット帽を抑えた。

 なんとなく、強い風が吹く……気がしたのだ。

 でも、風は来なかった。

 足元からすくい上げるように下半身を冷やそうとする冷気を、僕は極暖タイツで阻んでいる。


「あけおめことよろ! お願いはもう決めた?」


 隣にいる彼女が、僕の膨らんでいるように見せかけている胸に、ポンと手をつく。

 彼女は知っているのだ。僕が男でありながら、女性の恰好をしているということを。


「秘密」


「えー、いいじゃん。教えてよ!」


 もう大学生になって2年が経ち、一緒に年越し旅行するのも3回目。高校生からの付き合いだ。ぶーっと文句を言う彼女を抱き寄せて、少しずつ進む列と一緒に前へ行く。

 およそ1時間ほど待って、ようやく僕たちの順番が回ってきた。先に彼女が礼をして鐘を鳴らした。お賽銭も、もちろん忘れずに5円玉。

 彼女のあとで、同じように鐘を鳴らした――瞬間、視界が変わった。


 空気も変わって、暖かい部屋で、僕は彼氏の歌声を聴く。曲調に合わせてタンバリンを演奏し、場を盛り上げた。新年一発目の曲とだけあって、十八番のJPOPを歌っている。

 服装もまるで変わっていて、ミニスカートにパーカーという出で立ち。タイツではなくて、ニーソだった。これは彼の趣味で、僕は合わせているに過ぎない。


「今年もお前と年越しできるなんてな。俺って運がいいのかも?」


 運がいいのではない。もし、この彼氏が向こうの彼女と同一人物でなければ、付き合いなどしない。ましてや、ミニスカートなんて着やしない。

 まったくの別の世界。だけど、とても似通った世界。

 僕は二つの世界を、何かのきっかけを持って行き来する。ほかの人とは違う、特異体質だ。

 しかも、僕も含めてすべての人間は性別が入れ替わってしまう。

 難儀な世界を、跨いでいる。



 ああ、神様。僕の願いはたった一つ。

 僕の本当の世界を、教えてください。

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