第4話「女装から囚人へ」
おかげさまで第三弾です!
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前回までのあらすじ!!!!
勇者になりたいかけだし召喚師、ナオ・ヘビーローテーションはユガンダールという街で多くの仲間と出会った。しかし、諸事情により散々暴れ回ったせいで街にいられなくなってしまう。
そんな訳で、勇者パーティーは新たなる街へと旅立つ事にした。
その街の名は、アンダー・ヘル。
暗雲立ち込める未開の地で、彼らが出会うものとは!?
「ねえねえマロさん? 『金貨』って、1枚で何円くらいかって知ってますか?」
「どうしたネ。唐突にそんな話して」
「いや、前回の『勇者になりたいショタ召喚師は、開幕五分で奴隷になりました。<2> 〜勇者、発つ〜』で、読者からコメントがあったんですよ。そしたら、この世界の通貨についてツッコミされまして」
「ハァ……。マア確かに、異世界ファンタジーで『円』って違和感あるネ」
「しかし、作者には所謂異世界ファンタジーでよく登場するような金貨とか、銀貨とか、についての知識がまるでありません! 一体あれらは日本円で幾らくらい何でしょうか!?」
「サア……。1金貨で5000円くらいじゃないカネ??」
「なるほど。では1銀貨で200円くらいにしましょうか!」
「1銅貨で0.3円ヨ」
「1アルミニウム貨で0.009円です!」
「1ストロンチウム貨で0.0000000893円ダァ〜!!」
「1黄色ブドウ球菌貨で0.000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000072円にしましょう!!!!」
……以上、単なる文字数稼ぎでした。
因みに、今後もこの世界の通貨は『円』で通しますので、予めご了承ください(設定考えるの面倒臭いからね)。
*****
そんな訳で、ここは地下牢です。
まさか一日のうちに二度も、それも別の街の牢屋に閉じ込められるなんて思ってもいなかったけど、幸いにも今の僕は一人じゃない。愛すべき三人の仲間達と同じ部屋に入っているのだ。
黒髪美少女、ルカさん。
魔法料理人、マロさん。
竜殺し戦士、アシュラさん。
この頼もしい女性達と一緒ならば、案外暗い地下での生活も悪くないように思えるのだから不思議だ。しばらくはここを拠点にしても良いかもしれないな。
「おい新人! 点呼の時間だ、サッサと広場へ集まれ!」
「はーい」
牢屋の外から看守と思わしき人がやって来て僕達にそう言った。相手が女性の看守だったので、僕は素直に返事をした。
しかし、これが男の看守だったら、きっと僕は容赦をしなかっただろう。血の海が出来るまで殴り続け、死体を魔物の餌にしているところだ。
看守さんが居なくなったのを見計らって、僕はルカさんに声をかける。
「朝ですねルカさん! どうですか? 仲間達と共に寝泊まりした最初の一日目は!?」
「……動脈を引きちぎられたいの?」
「ルカさんは、寝起きが悪いんですね」
どうも昨日の夜から、僕に対するルカさんの態度が冷たいように思えた。初めて会った時は、敬語で話してくれたのに今ではすっかりタメ口だ。
まあ、仲良くなったという証拠だ。僕とルカさんとが出会ってから既に18時間くらい経過してるし、そろそろ心の距離も縮まって来たのだろう、うん。
決して、地下牢に閉じ込められているから不機嫌な訳ではないはずだ。
「さあ皆さん! 何をさせられるかは知りませんが広場に呼ばれました! 待たせるのも悪いですし、急いで向かいましょう!!」
「それよりも脱獄しないのか? 竜殺したるこのアタシが、こんな寂れた場所に留まるのは我慢が出来ないんだが」
「マロも、こんな所で美味しい料理が味わえるとは思えないヨ」
「僕も正直言うと牢屋生活は嫌です。でも、よく見てくださいよ。この地下牢……周りが女性ばかりなんです!!」
そう。この地下牢には女性しか閉じ込められてなかった。しかも、看守まで女性しか見かけないのだ。これは実質ハーレムと言っていいだろう!
「おそらく、男性女性で場所が分けられているんでしょう。罪人が六割、奴隷が八割だって話だし、きっとこの街にはこういう隔離施設はたくさんあるんだと思う」
「僕男だけど、なんでこっちの施設に入れられたのかな?」
「貴方は、アレよ。女装しているから男だって気づかれなかったんじゃない?」
なるほど。女の子の服を着ていたのが幸運を招いてくれるとは思ってもいなかった。ふむ、だったらしばらくはこの姿のままでもいいかもなぁ。
因みに、現在は僕を含めこの場にいる全員が囚人服に身を包んでいた。しかし幸いにも、ウィッグは取られなかったのでまだ看守は僕を女性だと認知してくれているはずだ。
よし! ここでは僕は女の子だ! 女の子っぽく『ナオ』と呼んでほしい!
……僕の本名が女の子っぽいのは、実は密かにコンプレックスだったりします。出来ればもっと男らしい名前がよかったぜ。
「ソモソモ、マロ達はな〜んで捕まってしまったネ?」
「忘れたのか? アタシの奴隷が、『移動するのに便利だから』という理由でドラゴンを召喚して、アタシ達はアンダー・ヘルまで飛んだ。そしてドラゴンを目撃した門番に応援を呼ばれて、多くの衛兵に囲まれた。衛兵は、アタシ達を侵略者か何かだとでも思ったんじゃないか?」
「そして、『もう夜遅いですし、今夜は牢屋で一泊しましょうか?』という僕の問いに皆さんも賛成したので、今ここに居るという訳です」
僕の残高は0円。野宿するくらいなら、衛兵に捕まって屋根付きの部屋で眠ろうという僕の革命的なアイデアだ。四方囲まれている場所で朝を迎えられて、僕は大満足である。
しかし、泊めてもらったのは良いが晩御飯は出なかったのでそろそろ腹ペコだ。早く朝ご飯にありつきたい。
「待ってください。私、そんなやり取りがあっただなんて知らなかったんですけど?」
「ルカさんは、ドラゴンの背中で寝ていましたからね。それはもう、寝心地の良さそうにぐっすり眠っていましたよ」
「例え寝ていても、そんな重要なことがあったのなら起こしてよ!」
「あんな気持ちよく寝ている人、僕にはとても起こせません。『自分がされて嫌なことは他人にもするな』と、師匠に教わったものでして」
さて、長話をしていると朝食が食べれなくなりそうだし、そろそろ広場へ行こうか。
僕達は、狭い鉄格子から外へ出て、看守が言う広場という場所へと向かった。
*****
地下牢の広場は、地下ということもあり空は見えない。数百人という人数が一同に揃い、この広いだけの薄暗い空間に立たされている。
広場の奥には僕達のような囚人とは別に、看守が十数名並んでいた。そしてその真ん中にいた上等な制服に身を包んだ、おそらく看守のリーダーと思わしき女性が大声を張り上げる。
「おはよう諸君! 砂と埃に塗れた地下での生活はもう慣れたか? 昨夜は、新しく四名の仲間がここにやって来た。みんな、仲良くするように!」
僕達の事を紹介してくれたみたいだ。新人にも構ってくれるなんて優しい看守さんだぜ。
簡単な点呼を終えると、次は食堂に移動した。ここで、囚人達が一同に集まって食事をするらしい。
今日のメニューはポテトサラダにベーコンエッグ、野菜スープとパンだった。
「……思ってたより、まともな食事が出て来ましたね」
「ていうか、僕の故郷より豪華な朝ご飯です。これが囚人の食事なんですかね〜?」
パンをモグモグと頬張りながら、食堂の様子を観察する。
僕のイメージでは、いわゆる監獄という場所の食事模様は、沈んだ表情の囚人達が黙って静かにご飯を食べているといった感じだったけど、実際に見てみると数名の看守が目を光らせていることを除けば、食事を楽しみ仲間同士でお喋りしたり、意外に明るい雰囲気があった。
「それはそうと、やはり周りが女性だらけだと華がありますね!」
「囚人服だらけの人ばかりでも、果たして華があると言えるのか疑問だけれど」
「だけど、助かったネ。ナオくんが、マロの料理道具一式を隠してくれて!」
マロさんは、そういって感謝の意を唱えた。
マロさんの道具は、僕の召喚魔法で遠くの安全な場所に移しておいた。召喚魔法を応用すれば、このような芸当も可能なのである。このおかげで、衛兵に捕まった際にも、持ち物を奪われずに済んだのだ。
僕も、レナさん達に捕まる時にこれが出来たら良かったんだけど隙がなかった。僕の持ち物は全て奪われ、何処に行ったのかは皆目見当もつかないという有様だ。まあ、大したものは持っていなかったから良かったけどさ。
「モシ、あの時料理道具を奪われていたらマロは、彼奴らを全員ぶん殴って、魚の餌にしていたと思うヨ〜」
「何なら今からでも道具を戻すことも出来ますが、取り寄せましょうか?」
「ヤァ〜ここじゃ〜マズイから、牢屋に戻った時にお願いするネ。ああデモ、カバンの中に入ってあったスパイスだけ欲しいカネ。野菜スープにかけると美味いんだヨ」
「ハイどうぞ」
僕は一瞬でスパイスを取り出し、マロさんにパスした。
一方その頃、僕の正面に座っているアシュラさんは不満そうな顔をしていた。
「くっ、肉が……肉が、少ないっ!」
「アシュラさんは肉食系女子ですか? まあ、竜殺しですもんね」
「そしてこれだけでは、アタシの腹は満たされない! 我が奴隷よ。今すぐ代わりになる肉を用意するんだ。ありったけな!!」
「……魔物の肉ならいくらでも用意できますけど。オークの肉とかどうですか? ……《SAMONN‼︎》」
そう言って僕は、オークを召喚してそいつの首を跳ね飛ばした。
切断面から血が吹き出ないように魔法の火であぶり、同時に生み出した『魔力の剣』でオークを解体していく。
ものの数十秒で解体し終えると、食用となる部分を取り出してアシュラさんに渡す。
「ハイどうぞ」
「お、おう……。なんて手際が良い奴隷なんだ」
「ていうか、監獄の中で堂々と魔法を使わないで! 看守に見られちゃうでしょう!?」
ルカさんがそう言って注意してくれたが、時すでに遅し。異変に気付いた看守の一人が、ツカツカと僕達の方に近づいてきたのだ。
「おいお前達! 何を騒いでいる!?」
「ああ看守さん。いえ、初めての監獄生活で少し興奮していたんですよ」
来て早々の囚人が看守に目を付けられるのは、僕は良くても他の三人が嫌かもしれないので、僕は咄嗟にそう誤魔化した。
ここは地下牢。囚人の隔離施設。
そこにはルールがあり、ルールを破ったものは罰せられる。しかし、逆に言えばバレさえしなければ何をやっても問題ないのだ。
「……お前達、昨日入った新人だな?」
「はい! お世話になっております!」
「そうか。しかし私の目が確かなら、先程ここにデカイ図体のナニカが現れたような気がしたんだが……」
「気のせいですよ、そんなデカイ図体の豚面の魔物なんてここにはおりません!」
召喚したオークは、看守が近づいてくる前に転送しておいた。何処を探しても見つかる事はない。
看守さんは、「ふむ」と首を傾げてアシュラさんの方を振り向いた。
「おい、そこのお前。その手に持っている肉の塊は何だ?」
「これは胃袋ですよ。彼女は、食事を終えるとこうやって胃袋を取り出して調子を確かめてるんです。『今日の胃袋の具合はどうかなぁ〜?』といった感じで」
「……そんな蛙みたいな特技がこの女にはあるのか?」
「そうです! ねえ、アシュラさん?」
「ああ」
そう言って、アシュラさんは肉の塊を口の中に押し込んだ。
流石は竜殺し。ドラゴンの力を使えるだけでなく、食事もドラゴンと類似するとは! どうやら生肉を食べても支障はない様子だ。
「どうですか? おかしな部分な何処にもないでしょう」
「そうだな。しかし、先程から私の魔力レーダーがお前に対して強い反応を示しているんだがこれはどういう事だ?」
「何ですかソレ?」
「魔力レーダーは、魔法を使用した者に対して反応をする魔導具だ。この監獄にいる看守には全員配備されている」
へぇー、そんな物があるのか。
「そのレーダーが反応したのは、僕のオナラですね。さっき食べた時に出ちゃったんです」
「ほぉー。お前のオナラには魔力が込められているのか?」
「はい。僕のオナラには、微量の魔力が含まれています。これを吸うとある程度魔力が回復しますよ」
「それは便利だな。吸ってみたいとは思わないが」
呆れたような顔をする看守さん。
因みに、僕のオナラにそんな特殊効果はありませんので悪しからず。
「もう十分でしょう。僕達は大人しく食事を続けますので、看守さんは安心して持ち場に戻ってください」
「そうか。それじゃあそろそろ……って、オイ! そこのお前! 一体何をしてるんだ!?」
「ニュン? マロの事カネ?」
マロさんは、キョトンとした表情でこっちを振り返った。
見ると、マロさんの野菜スープは大量のスパイスで埋め尽くされていたのだ。最早スープは完全にスパイスに吸収され、あるのはスパイスの山だけである。
そして、マロさんは他の料理にも大量にスパイスを振りかけていた。どう考えてもかけ過ぎのように思える。元の料理がスパイスで見えない……。
「この食堂にはスパイスなど置かれていなかったはずだ! それもこんな山のように振りかけて……料理に対する冒涜だと思わないのか!?」
原型を留めるどころか原型がない、という異常事態に流石の看守さんも、これはおかしいと指摘する。
「だって、この方が一番美味しく食べられるんだヨ」
「嘘付け! 薬草の粉単体で料理が美味くなるものか! こんな物振りかけたって…………う、美味い!!」
マロさんのスパイス料理を食べた看守さんは、叫んだ。彼女は、狂ったように料理を口に頬張り、あっという間に平らげてしまった。
看守さんは、膝をつく。
「ば、馬鹿な……。何故、こんな得体の知れないものがこんなに美味いんだぁ?」
「それは、マロが魔法料理人だからヨ。魔法料理人は、どんな食材もご馳走にしてしまう奇跡の料理人……。その事を、ヨォク覚えておくネ」
「ち、チックショーーーウ!!」
看守さんは悔しそうに顔を背けて、そのまま食堂を離れていった。
どうやら、僕達の隠蔽工作は上手くいったようだ。
「やりましたよルカさん、作戦成功です!」
「一体、何が『やった』なのかまるで理解できないけど……。取り敢えず貴方は、これ以上目立つ行動をしないでもらえませんかね?」
「御意」
「『御意』、じゃない。ちゃんと返事しなさい。あと、私に断りなく勝手な行動も控えてね。一応、貴方がパーティーの代表だからある程度決定権はあるんだろうけど、せめて相談くらいはしてほしい」
「アイアイサー」
実際、僕は少し目立ち過ぎる一面があるのでその事を意識しておかないとね。それと、報連相(報告・連絡・相談)も大事にしよう。
ルカさんの注意をよく胸に刻んで、僕は席に座り直す。
そして、僕が再び食事をしようとしたその刹那。
不意に、隣の席から声を掛けられたのだ。
「ニャアニャア君達……。昨日この監獄に入った新人かニャ?」
振り返ると、それは頭に猫の耳を生やした幼い女の子だった。
猫人族。いや、猫妖精か。こんな所で出会うなんて珍しいな。
「ボクの名前は、ライライルって言うんだ。ねえ君達、ボク達の仲間になる気はないかニャ?」
「勿論オーケーです!」
「貴方、私の話聞いてた!?」
猫妖精の女の子はそう言って、僕達に手を差し伸べてきたので、僕は迷わず握手を交わした。
ルカさんの絶叫を聞きつつ、僕は新たなる仲間が増えた事に喜び、感動で胸を膨らませるのだった。