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第二十二話

 控え室でコルトは座っていた。この二ヶ月間必死でやってきたことが、今日終わった。演奏はまだまだエラトーには比べるものではなかったけれども、確かに手応えを感じることができた。鏡に映った目の腫れた自分の顔を見て、

「変わったかな。」

 その時コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「はい、どうぞ。」

 がちゃっと入って来たのは。

 セイスだった。一瞬コルトの息が止まった。彼は大きな花束を持っていた。白やうすピンクといった淡い色に彩られてきれいだった。

「コルト。お疲れさま。すごくよかったよ。」

 セイスはその花束をそっとコルトに手渡した。それをもらって、またコルトの目が潤んだ。

「セイス!」

 彼女は嬉しさのあまりに花束を握ったままセイスの目の前まで駆け寄った。

「がんばったね。」

 そう言ってセイスが手を広げると、コルトは花束を置いて勢いよく彼の胸に飛び込んだ。心の中におさめていた気持ちが一息にはじけて、気付いたらコルトはおもいきりセイスにしがみついていた。

「会いたかった……会いたかったんだよ。」

 泣きながらセイスの胸に顔をうずめた。セイスはコルトの頭を撫でながら、

「俺も、会いたかった。コルト、会いたかったよ。」

 セイスの目からも涙が溢れた。

「私、セイスのこと一度だって忘れたことなかった。今日だってほら、」

 コルトは自分の首もとに細い腕を入れた。セイスは何をするのかとどきりとしたが、ころっと取り出したのはあの青いラピスラズリだった。コルトはにこっと笑って、くりくりした目でセイスを見つめた。

「体の一番近いところに置いておいたの。苦しくなったらこれを握ってた。セイスのこと考えてた。」

「そうだったのか。ありがとうコルト。俺も、なんだか……。」

 ふふっと笑ったセイスの顔を見て、コルトがきょとんとしている。

「自分がばかみたいだなって。コルトがてっきり俺のことなんか忘れちゃってるんじゃないかって思っててさ。ごめんよ。あはは。」

 安心したのと、うれしいのとでセイスはなんだかおかしくなって笑った。コルトもふふっと笑った。

「セイス、本当にありがとう。私のわがまま聞いてくれて。」

「いや、俺からもありがとうを言わなくちゃ。俺自身、気付いたことがいっぱいあった。そして今日の演奏。本当に素晴らしかったよ。今までのコルトより、何倍もうまくなってた。たった二ヶ月の間なのに、いっぱい練習したんだね。」

「うん、エラトーさんのおかげ。私、仕事もしてたんだよ。すごいでしょ?」

「仕事もしてたのかい?そうか。すごいなあ。コルト、新しいことに挑戦してたんだね。今までのコルトだったら考えられないことだよ。」

「そこまで言わなくてもいいでしょ。」

 コルトはセイスの胸をぽんぽん叩いた。二人の会話は笑い声が途切れなかった。話せば話す程、心が満たされていく。コルトは、セイスといるこの今を大切にしたいと思った。

「セイス、私、」

「ん、何?」

 コルトは少し俯きながら、

「今まで一緒にいたけど、私からはっきり言ってなかったよね。ちゃんと思ってることを伝えるのは大事なことだよね。……私、ちゃんとわかったの。」

「どうしたの?」

 コルトは顔をあげてセイスをまっすぐ見つめた。

「私……セイスのことが大好きです。」

 しゃんとした姿勢でそう言ったコルトは、つま先立って少し背伸びをしていた。表情は真剣で、少し固くなっていた。その愛らしい姿を見て、セイスはちょっとどぎまぎしてしまった。

 セイスのその表情を見て、コルトはすぐにぽっと赤くなって俯いた。

「コルト、ありがとう。俺も、大好きだよ。」

 それを聞いて急にコルトはもじもじし始め、耳まで真っ赤になった。

「だから、これからも一緒に旅がしたい。」

 セイスにとってその言葉は、何よりも嬉しいものだった。こうやって離れて暮らして、もうこれからは一緒に旅をすることはないんじゃないかと考えていたからだ。コルトからそう言ってくれたことで、セイスの心は舞い上がった。

「そっか。うん。これからも一緒だ。俺からもよろしく。」

 セイスは握手の手を差し伸べた。そしてその手にコルトは応え、ぎゅっと握った。

 がちゃっと音がしてエラトーが入って来た。

「おっとっと。おじゃまだったかな。」

「お久しぶりです、エラトーさん。」

「やあ、セイスくん。久しぶりだね。コルトはがんばったよ。本当に。あ、そうそう、これから打ち上げがあるから、セイスくんも一緒に来なよ。」

「いいんですか?」

「大事なお客さんだからね。コルトもいいでしょ?」

「はい、じゃあ準備しますね。」

「うん。あっちで待ってるよ。まだ時間はあるからゆっくりしな。」

 打ち上げは大いに盛り上がった。メンバーはわいわいとしながら今日のライブのことを話し合っていた。セイスとコルトは隣同士に座っていた。大きな何かを達成したような、気持ちのいい安らぎが二人を包んでいた。

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