第十九話
「そうそう、うまい。いいね。そんなかんじで続けて。」
「は、はい……んむむ。」
コルトは早めにお店に来て、フレッドの手伝いを兼ね、料理の練習をしていた。すとんすとんと切っている。
「切り方次第で、食感が全く変わっちゃうからね。ありゃりゃ、そりゃ太いな。」
「ご、ごめんなさい。」
「いいよいいよ。料理は一朝一夕でできるようになるものじゃないからね。積み重ねだよ。」
「コルトちゃん、どうして料理うまくなりたいの?」
「ええと……。料理うまくなったら喜んでくれるかなって。」
「ん?誰かに作ってあげるってこと?」
「はい。」
「そうなんだ。ふふっ。何か作ってあげるものは決まってるの?」
「いえ、まだなんにも料理わからないから……。」
「じゃあ、肉じゃがなんてどうかな?」
「ニクジャガ?」
「俺ね、色々な国の料理を研究するのが好きでさ。肉じゃがっていうのは醤油を使った料理で、その国では家庭の定番料理みたいだよ。」
「へええ。そうなんですか。」
「ちょうどいいから、まかないで今日作ってあげるよ。気に入ったら彼に作ってあげな。」
「はいっ!そうします。」
フレッドは手際よく、野菜を切り始めた。コルトは黙々と切っている。
「うん、だいぶうまくなってきたね。」
「そうですか?へへっ。」
やっとのことで切り終わったコルトがにこっと笑った。フレッドは鍋にごろごろと材料を入れながら、
「相手のコは何て名前なの?」
「え……セイスっていいます。……なんだか恥ずかしいです。」
「そうかぁ、いい名前だね。きっとカッコイイんだろうな。」
コルトの顔がみるみる赤くなってきて、俯いてしまった。
「あははっ。かわいいなぁ。セイスくんが羨ましいよ。」
「いいえ……そんな。」
「ごめんごめん。またニキータに怒られちゃう。セイスくん、きっと喜ぶよ。がんばろうね。」
「は、はい!」
「うんまい肉じゃが作ってあげるよ!」
そう言って鍋の方に向かった。
リリンッとドアのベルが鳴ってニキータが入って来た。
「おつかれ!今日はセーフ。あれ?コルトちゃん早いね。どうしたの?」
ニキータはいつも遅刻をしており、今日は初めて定時に着いたのだった。
「ちょっと早めに来て、フレッドさんに料理を教えてもらってるんです。」
キッチンの奥からひょいと顔を出したフレッドが、
「そうそう。」
「そうなんだ。フレッドと二人っきりなの?大丈夫?」
「おいおい、俺はそこまで危ない人間じゃないぞ。」
「ふうん、そうかな。コルトちゃん、なんかあったら言いなよ。」
「あはは、すみませんニキータさん。」
「ニキータは肉じゃがいらないのかなァ?」
「えっ!なんかいい香りだなって。肉じゃがだったんだ!いるいる、フレッドいじわるするなよぉ!」
ニキータは一度フレッドがまかないに肉じゃがを作ってから、それが大好物になったのだ。
「コルトちゃん、おいで、ほら。」
フレッドが鍋のところに呼んだ。
ぱかっとふたを開けるといい香りの湯気がふわっと舞い上がった。
「完成!」
「わあ、おいしそう!」
コルトにはできた料理がキラキラと輝いて見えた。
「だろ?これが肉じゃが。意外と簡単だから、初めての料理にもちょうどいいんだよ。」
「肉じゃが大好きっ!」
ニキータは飛び上がって喜んだ。
「食べ物のことになると素直だな。」
「うるさい。」
フレッドに言われて、ぷーっとニキータが頬をふくらませた。
「あははは。」
それを見てコルトが笑った。
「楽しそうだな。」
ぬっと店長が事務室から顔を出した。
「わっ!びっくりした。ゴンさん、いつ来たの?」
「さっきさ。お、今日はうまそうなまかないだ。」
「今日はって何ですか。」
「前はどこかのうんちゃら国の料理だっただろ。あれはまずかった。」
「失礼な!ゴンさんはわかってないんですよ。あれは立派な宮廷料理で、高貴な食べ物って言うのがどういうものか……。」
ニキータはふうとため息をついて、
「フレッドの料理講釈がまた始まったよ。」
「でも、すごく研究されてるんですね。」
「まあねえ。研究熱心なのはいいんだけど。真面目なんだか不真面目なんだかわからんやつだよ。」
ゴンザレスとフレッドの対決が収まりそうにないようすを見て、
「コルトちゃんさきに食べちゃおうか。いつものことだし。」
争っている二人の後ろからお皿を運んで、
「いただきまあす。」
先にコルトとニキータは席について食べ始めた。
「おいしいっ!」
彼女たちは声を揃えた。
「あ、もう食べてる。」
「俺たちもいただこう。」
四人でテーブルについて食べ始めた。さっきまで言い争っていた二人も一口じゃがいもを頬張ると、そんなことはどうでもよくなったようだった。みんなほくほくとした顔で幸せそうだった。柔らかな日常を西日がオレンジ色に照らしている。お皿から白い湯気が上がっていた。




