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前編




この島に来て、もう三年になる。



どうやって島に来たのかは未だに分からない。

あの日、突然にまばゆい光に包まれたと思えば、瀬戸内海に浮かぶこの小さな島に転移していたのだ。


島の人にしてみればいきなり出現してきた僕を見て驚いたことだろうし、ちょうどその場に居合わせた斉藤さんなんかは、未だに酒の席で面白おかしく語っているくらいだ。


本土に帰る手立ては無い。


みんな知っての通り、10年前に施行された『離島鎖島法』によって、国内全ての離島は一部を除いて本土との接触は禁じられてしまったからだ。


その一部、小豆島のような解放区島を経由すればまだ望みはあるだろうが、何にしてもコネも金も知識もない上に、海は海上保安庁が目を光らせている。

奴らに見つかれば一巻の終わりだ。

密入島の容疑で有無を言わさず『処理』されるだろう。


当然、本土の人間なんかを匿ったことがバレれば島民が海上保安庁に『処理』されてしまう。本土の人間がいたら通報しなければならない。

だからここが離島だと理解した時、僕は不安でたまらなかった。

斉藤さんが携帯電話を取り出した時は脚が震えていた。


だと言うのに、


「あーもしもし武見ぃ! 今な! なんかよー分からん奴がいきなり現れてな!

話聞いたら本土の奴じゃそうなんよ!

なんか身寄りも無さそうだし、お前んとこで住まわせてやれや。

あ? ワシだってよー分からん言っとるやろ!

武見ぃは青年団の団長なんだしお前の仕事じゃて! おう、いま桟橋のとこ! じゃー軽トラで迎えに来いよ! じゃから軽トラだって!

イノシシ一匹仕留めてっから、それも一緒に積んで帰ってくれや! んじゃな!」


斉藤さんは、めちゃくちゃ呑気だった……。



がっはっはっと、武見さんは豪快に笑う御仁だった。

「だいじょぶ大丈夫! 海上保安庁の船が島に上陸する事は滅多にないし、上陸したとしてもどうせ日用品の買い出しさ。奴ら島民の顔ぶれや戸籍なんて気にもしてないからね」


素性もよく分からない僕を朗らかに歓迎してくれた。この人も呑気だ。

「ただし、海上保安庁は島を出る人間に対しては容赦ないから、そこだけは肝に銘じておくように」


「わかりました」


正直、何が何だかサッパリだったけど、どうやら命だけは助かったのだと安堵した。



それから三年がたって今。



「本土君! イノシシそっち行った!」


武見さんの娘、ソウキさんが叫ぶ。


武見さんの家で世話になるに辺り、僕はなし崩し的に彼らの手伝いをすることになった。

武見さんは島唯一の神社の神主で、ソウキさんは巫女、僕は助勤といった感じ。


元々は島には居なかったイノシシだが、四十年くらい前、泳いで来たのか、はたまた僕みたいに転移したのか島で繁殖。

そんな理由で「どうせ神主とか普段暇やろ?」というクソみたいな決めつけによって、以来武見家は四十年、田畑を荒らすイノシシと戦い続けている。


土消(ツチケシ)!!」


僕は右手に島気(トーラ)をこめて地面を叩く!

イノシシ足元の地面の一部がシュンっと消失し、落とし穴の要領でイノシシの半身が沈む。

そこにすかさずソウキさんが駆けつけ、彼女は両手の島気(トーラ)を爆発的に高める!


海神剣(ワダツミノツルギ)ぃぃ!!」


島気(トーラ)は水のようにうねり、それは何本もの剣を形どる。ソウキさんが手を振り下げれば海神剣はすべからくイノシシへと突き刺さりジエンドだ。



「ふぅ。これで今晩は牡丹鍋かな。それにしても本土君。島気(トーラ)の扱いだいぶ上手くなったね」


「よして下さい。三年居るくらいじゃ今の土消くらいが精一杯ですよ。

あと、いい加減その本土君って呼び方やめて欲しいんですけど……」


お陰様でその呼び名が浸透してしまい、もう僕の本名知ってる人はいないんじゃないかなまである。


「なんでー、分かりやすくていいのに……ってコレ…?」


ソウキさんは、こと切れたイノシシを見て眉を顰めた。

見ればイノシシの腹部が淡く光っていた。



「……島珠(トーヴ)だわ」


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