【幼女とクロネ】
「リーシャ!」
突如上空から声がし、門の上からレインが飛び降りてきた。
リーシャに駆け寄り抱き起す、息をしていることを確認してほっとしているようだ。
雨は強く彼はまだこちらに気付いていないようだ。
ダバルが燃え尽きてから、しばらくたち私の姿は幼女の姿へと戻っていた。
魔力も今は普通の幼女と変わりない程度にしか感じ取れないだろう。
雨は強くなり城門から離れた場所では雨を遮るものもなく少し先も見えないほどだった。
「クロネ…」
「ここに」
あの頃と同じようにクロネは私の呼びかけにすぐさま応え、私の前に現れた。
「ごめんね、ちょっと疲れちゃって自分の足で歩けそうにないから背負ってくれる?」
そういうとクロネは背を向けてくれる。幼女の姿になっていても自分自分だとわかってくれていることに嬉しくなってしまう。
「待ってくれ」
立ち去ろうとした私をレインが止めた。
「安心して、ダバルはもういないよ」
振り返り、レインに話しかける。
レインの目が「君が?」と問いかける。
「違うよ。私は彼をディーネのところに送ってあげただけ、致命傷を与えたのはお姉ちゃんだよ。」
「リーシャが?」
レインは目を見開きリーシャを見た。
「うん、とってもかっこよかったから起きたらいっぱい褒めてあげてね。」
そうレインに笑いかける。
「あぁ、そうするよ。君はもう行くのかい?」
「うん、こうなっちゃた以上ここに残ってるわけにもいかないからね。」
「そうか」
私の答えがわかっていたかのようにレインは頷いた。
「お姉ちゃんのことよろしくね。泣かせたりしたら許さないからね」
「任せておけ」
「あ、あとついでにハンスもよろしく!軽そうな子だけど、仲間思いないい子だから。」
「善処する」
リーシャとの温度差を感じられ私は思わず笑ってしまう。
でもそれがレインのハンスに対する好意だということは、レインの顔を見ればわかる。
「なぁ」
ハンスにいい仲間が出来たことを嬉しがっていると、レインが問いかけてきた。
レインはこちらの目をじっと見つめ次の言葉を発する。
「君は一体何者なんだい?」
「内緒、でも安心して私はもうあなた達の敵ではないよ」
「そうか」
意味深に応えると彼は私の正体に思い当たったのか、静かに応えた。
「クロネお待たせ」
「はい」
クロネの背に乗っかると、クロネはゆっくりと立ち上がる。
クロネの背中越しにレインを見る。
「ばいばい」
「いつでも立ち寄ってくれていいからな、リーシャも喜ぶ」
私の正体を知ってもなおそんな言葉をくれるなんて、本当君は勇者らしい勇者だね。
「ありがとう…」
そういって私はクロネの背を叩いた。クロネは私の意をくみその場から離れた。
しばらく経ちリュートから離れたころ沈黙が苦しくなり、私はクロネに話しかけた。
「あーもうびちゃびちゃだよ。服も汚れちゃった。」
「人族の中ではこういった魔法も作られているそうですよ。」
そういうとクロネは魔法を使った。先ほどまで汚れていた衣服はきれいになっていた。
「《浄化魔法》というらしいです。」
「私がいない間に随分と魔法も進化しているんだね」
「はい、戦闘に使用する魔法は衰退してしまったようですが、生活に使用する魔法は進歩しているようです。」
「必要は発明の母っていうことなのかな」
そんなたわいもない会話もしばらく続けていると話すこともなくなり再び二人の間に沈黙が流れた。
「ここで一度休憩を取りましょう。」
クロネもそんな空気が気まずかったのか、「食料を取ってきます。」とその場を離れようとした。
「待って」
ここで一度離れてしまったら言い出す機会を失ってしまうと思い、私はクロネを引き留めた。
クロネをよび袖を引いてしゃがんでもらう。
そしてあの頃のようにクロネの頭をなでながら口を開く。
「クロネ、私がいない間ありがとう。そしてごめんね。私の言葉は君を随分苦しめてしまったようだね。」
その言葉にクロネは目に涙を浮かべながら首を横に振る。
「あんなことを言えば責任感の強い君は、その言葉に縛られてしまうことはわかっていたというのにね。」
「違います。私は…私は…任されたことがうれしかったのです。ヨハネ様に頼ってもらえることが何よりもうれしかったのです。なのに私は魔王軍失ってしまいました。貴方様の最期の言葉すら私は守れませんでした。」
最期はもう叫びに近かった。私は涙を流すクロネを抱きしめた。
「そんなことないさ、君はよくやってくれた。私はね、ダバルや魔王軍の魔力を感じた時実は少し嬉しかったんだ。2000年もたっていたからもうなくなってしまったのではないかとすら思っていたからね。でもそうじゃなかった。君が守り、支え続けてくれてたことがとても嬉しかった。今回のことは誰のせいでもない、時がたち物事が移り行くのはしかたないことだよ。」
それに責められるべきはクロネじゃない。魔族という種族のために戦っていなかった私だ。
「ヨハネ様、ヨハネ様も自分を責めないでください。」
私の頭にクロネの手が触れ、優しく撫でられた。
「君にこうして撫でられるとはあの頃は想像もできなかったな」
「すみません。」
そういって手を離さそうとするクロネの手を掴み自分の頭に戻す。
「ううん、ありがとう」
お礼を言うとクロネはそのまま撫で続けてくれる。
「ねぇクロネ、私は良き王だったかな」
優しく撫でるその手付きに渡しはずっと聞きたかったことを聞く。
クロネは少し考えて、ゆっくりと口を開いた。
「少なくても、私にとっては良き王でした。」
「ありがとう…」
「でもそれは、あの時ともに生きた魔族たちにとっても同じだったはずです。本当の目的が魔族のためでなかったとしても、あの時私達に向けてくださった愛は確かに本物でした。」
クロネの声色は少し震えている。なんで君が泣いているのさ。
「ふふ、君がこんなにも泣き虫だったとは知らなかった。」
「しょうがないじゃないですか…」
今度は私が撫でてあげるとクロネは少し恥ずかしそうに口をとがらせる。
「ヨハネ様、もし自信がないのでしたらこの世界を、あなた様が生き抜いた後の世界を見て回ってみてはどうでしょうか。きっと私が言った言葉が本当だったと信じてくれるはずです。」
そう話すクロネの目には強い意志が宿っている。
俺が好きだった。とてもきれいな真っすぐな瞳。
「そうだね、この目で確かめてみるよ。クロネ、ついてきてくれるかい?」
「もちろんです。私はいつもあなたのそばに」
少し離れ、クロネは礼をする。いつまでたっても真面目なんだから…。
「そうだ、言い忘れていた。クロネ、ただいま」
「はい、お帰りなさいませ彗様」
そう言ったクロネの顔はとても素敵な笑顔だった。
本当に私が良き王だったのか、今は自信がないけれど。
それはこの目で確かめて行こうと思う。
この旅で目にするものは肯定的な結果だけではないだろうけど、きっと大丈夫。
あの頃みたいに、クロネと一緒だから。
何年ぶりかの投稿です。大変遅くなり申し訳ございません。
一度、この物語は終わりとなります。続編を書くかどうかは、リアルの忙しさ次第…(´・ω・`)
このシリーズとは別に書きたい話もあるのですが、仕事やら家事やらで時間が…。
宝くじさえ当たれば仕事なんかやめてやるのにっ!!(´Д⊂ヽ




