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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
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【魔王軍の最期】

1000年という時間は魂に刻まれた彗としての人生の記憶よりも長く、

無為に生きた二十数年よりもはるかに濃い時間の中で、私は良き魔王であれただろうか?

いや、魔王として私は失格だろう。

死ぬために、勇者に殺される最後のために生きるということは物語の魔王としては正解であっても魔族という種族の長としては失格もいいところだ。

魔王として生まれてからの1000年。

私は何度、新たな魔族の子供たちの誕生を見届けただろうか。

その子らを何度死地へ送り出しただろうか。

その子らの死を何度見送ったただろうか。

魔族のためではない争いにその命を散らさせた私は良き魔王ではなかっただろう。

それに比べれば、目の前にいる魔族であることに誇りをもっているであろうダバルの方が魔王としてあるべき姿のようにも思えてしまう。 

彼は魔族に生まれ、魔王に憧れ、目指し、そして絶望したのだろう。

クロネが彼に何と言ったかは彼は話してくれはしないだろうけど。

少なくとも私が負った役目に似た話をしたのではないだろうか?そうだとするならばダバルの怒りは至極当然だ。

そしてその怒りの矛先が人族に向いてしまったのだろう。

「すまないね」

君をそこまで歪めてしまったのは私達なのだろう。

「だけど、君は間違ってしまったんだとおもうよ」

誇りを持つのであれば、魔族としての誇りを持つのであれば、誇りある戦いをするべきだった。

策を練るのはいいだろう。知略戦、カッコいいじゃないか。

だけど弱者をいたずらに苦しめる行為だけはいけなかった。

力を誇りに思うのならそれを見せつけるが如く一思いに蹂躙すべきだった。

「俺が間違っただと?お前が何者なのか知ったこっちゃないが、わかったような口を!!」

「わかるさ」

ダバルが怒りのままに叫ぶのを静止する。

「トイフェルの魔王軍と、君たち。今の魔王軍の全戦力はこれだけなのだろう?」

私の問いかけにダバルは沈黙する。

「私が君ならここに三人だけで来るような真似は決してしない。魔王の君が居ようともトイフェルに勇者が向かっていたとしてもあちらにクロネがいる以上こちらに割く戦力をここまで少なくはしない」

勇者不在の都市の攻略といっても三人では限界がある。隠密を重視するにしても少なすぎる。

つまり

「君たちは全戦力でトイフェルで勇者と騎士団を押しとどめるしかなかった。魔王軍はもはやそれだけの魔族しか残っていなかった。違うかい?」

私が知っている彼ら(四魔将)は今の魔王軍を許さないだろう。私の推測が当たっているならば、かつて人族についた魔族のように魔王軍から離れて行ったのではないのだろうか。

そもそもの話、彼らが生きているのならば今回のこの作戦に賛同するとはとても思えない。

「つまり、トイフェルとここにいた魔族が君についてくる選択をした魔族のすべて。全盛期の魔王軍と比べ、あまりにも少ないじゃないか」

だからこそ断言する。

「君は間違ってしまったんだよ」

「うるさい…黙りやがれええええ」

ダバルは地面を蹴り私へ向かってくる。

目くらましのつもりか上級下級問わず、いくつもの魔法を私に向かって放ちながら距離を詰めてきた。

私は結界をはりすべての魔法を受け止める。炎が舞い風が砂を巻き上げ濁流が視界を塞ぐ。

その中を突き抜けダバルが私の前に現れた。

「死ねぇええええ」

至近距離に現れたダバルは蹴りを繰り出した。

彼の足は魔力を纏い、普通の人間ならば直撃すれば簡単に命を散らしてしまうだろう。

私はその蹴りを片手で受け止めた。

「なっ?!」

ダバルは驚きに身体が硬直する。

倒せるとは思っていなくともまさか片手で受けられるとは思ってもいなかったのだろう。

私は受け止めた足を掴むと引き寄せダバルの腹を思いっきり蹴り飛ばす。

掴まれた足はその勢いに耐え切れずちぎれ私の手の中へ残りダバルの身体は地面を転がる。

ダバルの足を魔法で消し炭にし、ダバルへと近寄る。

片足は再生を始まっていたが、体へのダメージも相当だったのだろうそのスピードは遅い。

両腕を失い、強烈な一撃をくらったダバルは立ち上がることもなく仰向けになりただ空を見上げている。

ふと気が付くと頻繁に感じていた勇者の魔力が感じられなくなっていた。

勇者の魔力は依然感じられることから恐らく魔族を殲滅することに成功したようだ。

「向こうの戦いも終わったようだね」

ぽつりと水滴が私の肌に落ちた。どうやら雨が降り始めたようだ。

ぽつぽつと振り出した雨はすぐに本降りへとかわり、この戦いの終わりを告げるかのように倒壊した建物の火を消していく。

「俺は、どうすればよかったんだ」

そうつぶやく声に力はなく、雨音に消し去られてしまうほどに小さい。

誰に対しての問いかけなのか、もしかしたら自分に問いかけているのかもしれない。

でも私はそれに応えた。

「君は君が憧れた魔王を貫いてよかったんだよ。魔族のために生きる強き魔王になればよかった」

「なりたかったさ、かつて魔族を守り、一人で勇者のパーティに立ち向かった。最強の魔王ヨハネのような強き魔王に!!」

ダバルの声は震え泣いているようだった。

私は声が出せなかった。

その言葉に違うと叫んでしまいそうだった。

私は彼がいうような立派な魔王ではないと、だが声は出なかった。

私がそのヨハネだと言っても信じてもらえないだろう。それにダバルの憧れた彼の中のヨハネを侮辱するような言葉は言えなかった。

「殺せよ」

口を閉ざした私にダバルが言う。

彼にかける言葉を持ち合わせず、私は言われるがまま彼を殺すために手に魔力を込め始める。

せめて彼をこれ以上苦しませぬよう痛みを感じるまもなく消えゆけるように。

彼が死にディーネの下へ還りこの世の輪廻に戻された後。

次はせめて彼が何者にも縛られぬようにと願いを込めながら私はダバルを燃やし尽くした。

その残り火は先ほどよりも強くなった雨により消され、地面にはわずかな焦げ跡が残るのみとなった。

私はその焦げ跡から目を離すことが出来なかった。

雨に濡れた服は重くなってきた。私はしばらくの間その場に立ち尽くしたままだった。

この日、私が作りクロネが守ってきた魔王軍はこの世界から消滅した。

大変おひさしぶりです。

リアルが忙しくなかなか更新できなくて申し訳ありません。

ようやくダバルとの戦いも終了しました。

次回はクロネとレインも登場する予定です。

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