【神話の終わり】
これで序章が終わります。
「陛下、手筈通り勇者一行は幹部四人との接触は避けれたようです」
「そうか、よくやった」
魔王城の玉座の前に跪き報告する部下に下がるように促す。
この世界に降り立ってから早くも1000年が経過した。
試しに行った殺人、後悔も罪悪感も感じないことに困惑したが。
これがディーネのいってたことの意味かと、すぐに慣れた。
他の感情はしっかりとあるのに器用だなと思ったものだ、さすがは神ということなんだろうな。
あのままだったら、発狂していた自信がある。
バランスを整えるために魔族を作る事もさほど難しくなかった。
魔族を生み出すといってもある程度作った後は、生み出された者同士の交配により数は増えた。
知識を与え、個々の特徴もできた。1000年の時の間に人族に味方するものさえ出てきた。
こうなれば大規模な魔族狩りでも行われない限りはバランスが再び崩れることはないだろう。
と言っても、魔族は個々が強力な力を持っている上に人々の生活にも少しとはいえ入り込んでいる。
今そんなことをしようとする馬鹿はいないだろう。…たぶん。
これまでのことを思い返していると、どうやら部屋には俺を含め二人しかいなくなっていたようだ。
玉座の傍らに視線を移すと、1000年俺の直属として仕えてくれたクロネがこちらを見つめてくる。
「どうかしたか?」
「陛下、本当によかったのですか?勇者が強いとはいえ4魔将ならば相打ち、倒せずとも、かなりの痛手を負わせることはできたはずです」
「これは決まっていたことだ。依然話しただろう?」
「ですがっ」
その黒くきれいな長髪を振り乱しながら叫ぶ。その目には涙がたまっており部下に冷静沈着な賢女と呼ばれるその姿はなく、
貯まった涙はほどなく頬を伝い地面へと落ちた。
一度流れ出した涙は止まることはなく、ついには地面へと膝をついて泣き出してしまった。
「すまないな」
そっと頭に手を置き撫でてやる。そのようなこといつもなら思わないが、
子供のように泣きじゃくるクロネを見てそうしたくなった。
クロネは一瞬驚いたものの、されるがままになっている。
子供、のようなものなのだろうな、始まりの魔族の30人は俺が生み出した、より愛着がある。
時がたち、番になり子供へと世代が移り、今生き残っているのはより力を込めた4魔将。
そして1番最初にそしてよりこだわり、強く、美しく、作ったこのクロネだ。
その力は幹部の4魔将をも上回り、俺にも届きそうなほどだ。
それ故に、常にそばに置き、ともにこの世界を生き抜いてきた。
この愛おしさを親心というのかもな…
そう思うと、結局2回目も彼女はできなかったなと思う。
まぁ、忙しかったからな。
クロネとともに最初の街を決め空間魔法と爆裂魔法による魔王降臨の演出を考えたこともあったな。
思いようによってはデートと言えないことも…いや、ないな。
どんだけ殺伐としたデートだよ。
そんなしょうもないことを考えているとクロネが泣き止んでいることに気付く。
「落ち着いたか?」
「はい、取り乱してしまいまして、申し訳ございません。あの、もう大丈夫ですので撫でるのをやめてもらっていいですよ?」
少し赤くなりながらクロネが話すので手をはなす。
今でも二十歳前後のような見た目ではあるが、1000年生きているのだ、撫でられるのは恥ずかしいだろう。
「あぁ、すまぬな」
ちょうどそのときこの謁見の間にノックの音が響き部下が入ってくる。
「失礼します!勇者一行、魔王城へと到着いたしました!」
「そうか、下がって城内にいるもので迎え撃て、救援の要請はださずともよい、我らなら余裕であろう」
「はっ!」
そういって部下は謁見の間を出ていく。
「クロネ、我のいなくなった後の魔族を頼むぞ。お前は強いからな残ったやつらを支えてやってくれ」
「…わかりました」
少し迷ったようだがやがてうなずき頭を垂れた。
「あとは、お前の子を見れなかったのが残念だったな」
俺の生み出した魔族の中で、クロネだけは相手を見つけず、独り身のままだった。
生み出した魔族の子を見るのは戦場へ送り出すとはわかっていながらも楽しみだったのだが。
「私は、ほかの魔族と子をなすつもりはこれからもありません」
「そうか」
少し不機嫌そうなクロネに、苦笑いで返す。
せっかく見た目がいいのにもったいないな。
さて、もうそろそろか。
「クロネ、時間だ」
「はい、いつかお帰りになられる時を待っております」
ディーネとの会話の内容はバランスをとるという目的以外は話してないはずなのに、そんなことをいう。
生きて帰ってくると信じていますと、目で訴えてくる。
だから、
「あぁ、その時は、また我に仕えよ」
そう答えてしまう、魔王として戻ってくることはないと知ってながらも。
おそらくクロネもわかっているのだろう、その目にはまた涙がたまっていた。
「はい」
短く答えると深く礼をし、顔を上げた時にはいつもの賢女の顔になっていた。
「では、私はこれで」
そういうと転移魔法でほかの魔族の元へと転移した。
「さて」
玉座に座りなおすともうすぐここへとくる勇者一行を遠視の魔法で覗き見る。
勇者一行は5人、賢者と呼ばれる老年の魔法使いの男、幼女とも思える見た目の人族についた
魔族であるエルフの弓使いの女、同じく人族についた魔族ドワーフの斧使いの男。聖女と呼ばれる二十代半ばの神官の女性、
そして勇者、金髪イケメンの18歳人族、聖剣をもち、強く、正しい心の持ち主。
まさに主人公。説明が適当なのは街でモテモテなのをみて、僻んだとかそういうのではない。
それでも、勇者としてこれほどのはまり役はなかなかないであろう。
「準備をするか」
ディーネからもらった力はチートすぎるものもいくつかあるので封印する。
封印が終わったとき。ドアがゆっくりと開かれ始め5人の勇者が現れた。
魔王の最後だ、かっこよく散ってやろう。
「よくぞ、参った勇者ども、我こそがヨハネ・リート。この地を統べし魔王である。ここまで来た褒美として、我が直々に屠ってくれるわ!」
こうして勇者達と魔王の壮絶な戦いは始まり、何人かは深手を負いながらも勇者たちは1人もかけることなく魔王討伐を成し遂げた。
そして、1000年に及ぶ神話は終わりを迎えた。
次からやっと三度目の人生に入ります。