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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
37/42

【時間稼ぎ】

やっと更新できました。

あの頃、まだヨハネ様が健在だった頃の私は、魔族にしては少し変わっていました。

魔族とは本来闘争本能が強く、戦いを楽しむものだとヨハネ様はおっしゃいました。

ですが、私は戦いに対して他の者ほど興味を持ってはいませんでした。

それは、戦い以上に私を満たしてくれるものがあったからなのでしょう。

ヨハネ様と共に過ごした時間は、とても楽しかった。

だからこそ、ヨハネ様のいなくなった今、魔族としての本能が再びこの強敵を前に呼び覚まされたのでしょう。

一対一ではないにしろ、敵の片割れがかつての同胞であれど、矜持をもち戦える強敵に魔族としての本能が震える。

最期の戦いに、全力をもって戦える相手がいる。

「全てはヨハネ様のお導きですね」

「それはないね」

身体強化を発動させながらつぶやく私を遮る声が聞こえた。

「父さんがそんなことを望むはずがない」

声の方へと顔を向けるとハンスが私を睨みつけていた。

「魔王軍を…ヨハネ様の魔王軍をすてたあなたに何がわかるというのですか!!」

「クロ姉こそ!あれだけクロ姉の幸せを願っていた父さんが、なんでこんなところで朽ちる道を喜べると思えるんだ!!」

感情的になり叫んだ私にハンスが叫び返す。

「クロ姉…もう一度だけ言うよ?もういいんじゃないか?あれから2000年ほど経つ、自由になっても誰も文句を言わないさ。

ヨハネ様だって許してくれる」

「お前がヨハネ様をかたるなぁああ」

「はぁ…これでも四魔将の一人なのにひどいなぁ…。そういうとこクロ姉はほんとかわってないね」

ハンスはそう言って呆れたように、懐かしく感じる昔のような笑顔を向けてくる。

「そういうあなたは…ずいぶんと変わってしまいましたね」

だからこそ私はそう言った。とても良い顔で笑う彼を肯定したくなくて。

ハンスはゆっくりと瞬きを一つすると口を開いた。

「変わらないことが必ずしもいいことではないさ」

その大人びた顔に、すこしだけ私は置いていかれたような気持ちになった。



二人が会話を交わす中、俺はクロネの魔力に圧倒されていた。

本気を出すと言った言葉はただの脅しではなかったようだ。

先程までの威圧感とは比べものにならないほどの、圧力。

彼女が叫んだ時など、年甲斐もなく漏らしてしまうかと思った。

これが旧魔族の力だとするならば、神話の時代の魔王はどれほどの力を…

ふと先日助けた少女の姿が脳裏をかすめる。

首をふりその考えを振り払う。

今は余計なことを考える時ではない、そんな余裕もない。

二人の会話が終わった。身体強化を終えたクロネが剣をこちらに向ける。

「ヨハネ様が望まぬのならばここで貴方達を屠るまでです」

彼女の殺気が俺の身体を貫き膝をつきそうになるが、ショーンの腕がそれを阻止してくれた。

「大丈夫だ、俺とお前ならやれるさ」

そういってショーンが笑う。その姿を見て平常心を取り戻した俺は軽口を叩く。

「そうだな、“ハンス”」

ショーンは苦笑いを浮かべる。

「お前にはショーンって呼んでもらいたいんだけど」

「わかってるよ、ショーン。いくぞ」

「あいよ!団長!」

その声と同時に俺が駆け出し、ショーンが認識阻害と幻影を発動させた。



レインの姿が複数に分かれこちらへ向かってくる。

先程幻影を全て切った時そこに本体はいなかった。だとするならば、それらは全て視線をそらすためのもの。

本体は認識阻害で隠していると思って間違いない。

目をそらすものがなければ認識阻害は効力を著しく落とす。

私は幻影を一閃の下に全て切り捨て気配を探る。だが、ハンスによって様々な気配が作られ、レインの気配を特定できない。

直後私の意識外に聖剣を振りかぶったレインが現れた。

聖剣が私の体を切り裂こうと身体へ触れようとする。

その瞬間私は笑みを浮かべた。



「レイン!後ろへ飛べ!罠だ!」

ショーンの言葉に聖剣を止め後ろへがむしゃらに飛んだ。

その瞬間聖剣を大きな衝撃が襲い俺の手から吹き飛んだ。

「なっ!?」

無理矢理後ろへ飛んだ俺は状況を理解できないまままた、地面を転がる。

静止と同時に起き上がる。

「なんで…」

「貴方達はすごい、私たちと違いとても短い生の中でそれほどまでに強くなるのですから」

「くそっ!」

ハンスが慌てて術を再展開しようとするが、クロネの風魔法を受け飛ばされる。

クロネはゆっくりとこちらへ歩を進めながらも喋るのをやめない。

「でも、だからこそわかりやすいのです」

飛ばされた聖剣をみる、攻撃魔法を打ち込みその隙に聖剣へと走るか?いやダメだ。

ショーンがいない今、瞬間的に距離を詰められ殺される。

「姿も見えず、どこから攻撃してくるかわからないのであれば、誘導すればいいのです。

あなた方がやった認識阻害と似たようなものですよ」

武器もなく俺の魔法じゃ防がれる。どうすれば!?

クロネの言葉に気を取られつつも他に策はないか考える。

「今なら、ここなら殺せるとそう思ってしまいましたか?」

いつのまにか目の前に来ていたクロネを見上げ、絶望する。

たしかにあの瞬間そこしかないと思った。気取られても剣の届く場所はそこしかないと。

だが、誘導されていた?ショーンが作り出したチャンスを俺は無駄にしたのか?

「終わりです」

項垂れる俺にクロネが剣を向ける。

「すまない、ショーン」

クロネが振りかぶる。

「いいや、団長。十分だよ、間に合った」

明るいショーンの声が聞こえた瞬間後方、リュート国の方角に大きな魔力が生まれた。

「なんだ、これは…」

先程までこれ以上ないと思っていた魔力の上をいくその存在に自分の状況を忘れ呟く。

我に返りクロネを見ると魔力を感じた方向を見たまま動かない。

「はは、驚いた?」

そう言ってショーンが姿を表した。

「知っていたのならなぜ…」

「あの状況で言ってもクロ姉は信じないでしょ?見てもらった方が早いと思ってさ」

もう一度クロネはショーンを見ると舌打ちをしてリュート国へ走り出した。

ショーンはやり切った顔をしている。

「ショーン!何している!?追うぞ!」

あれほどの魔力の存在とクロネが本国で暴れたら国が消える。

焦って俺が駆け出すと。

「あー俺はパス、疲れた、こっちの片付け手伝ってるよ」

ひらひらと手を振りながらショーンは座り出した。

その姿にふざけるなと言いたかったがそんな余裕もなく、リュート国へは俺が向かうことを告げるため、

俺はアルノー達の下へと走った。


「ふぅーやっぱ強えなクロ姉は」

レインが走り去り、一息つく。

走り去ったクロネの目に光った涙を思い返しながら、呟く。

「よかったねクロ姉」

2000年も頑張ったんだ、しっかり甘えてきなよ。

「さぁて、俺ももう一仕事頑張りますかー」

そう言ってアルノー達のいるところへ俺は、ゆっくりと歩いていった。

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