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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
36/42

【共闘】

何が起こったのか俺にはわからなかった。

聖剣をはじかれ腹を蹴られ転がった瞬間死を覚悟した。

地面を転がり続けようやく静止し、クロネを見ると。

何を思ったか彼女は俺とは別の方向へと歩き出し、何もない場所へ剣を振り下ろしたのだ。

「何が起きた…」

俺は何が起きたかわからないままだったが、クロネは思い当たる節があったのか。

はっとすると周りを見渡し叫ぶ。

「ハンス!」

その声にこたえるように何もない空間が揺らぎ一人の男が現れた。

そこにいたのは俺のよく知る人物、隠密担当のショーンだった。

「あり?ばれちゃったかー久しぶりねクロ姉。できればショーンって呼んで欲しいんだけど」

苦笑いを浮かべながら現れたショーンに俺は戸惑いを隠せなかった。

「ショーン…なんでここに?それよりハンスとは誰だ?」

疑問をそのまま口に出してしまう。独り言のようなつぶやきだったが、ショーンには聞こえたようで俺に応える。

「今まで隠しててごめんね、団長。実は俺魔族だったんだよ」

「ま…ぞく?」

理解が追いつかず、ショーンの言葉をおうむ返ししているとクロネがショーンに話しかける。

「久しぶり…ですか、リュート国の下種どもを掃除したとき遠くから覗き見していたでしょう?」

「それもばれてたのか…全くかなわねぇなクロ姉には」

はははとショーンが笑う。

少しずつ理解が追いついてきた。

話から恐らくショーンは昔クロネの仲間だったのだろう、そして何か理由があり俺たちを騙し、俺の騎士団へと入ったのだ。

そしてあの違法奴隷解放の時の違和感がようやく溶けた。

精霊の目をも超えるようなショーンの目をクロネがどのようにして回避したのか。

彼女のような魔族ならば可能なのかもしれないと少しは思ったが、なんてことはない。

ショーンは見逃したのだ。

何故?そう思った瞬間ショーンが口を開いた。

「あの時はこちらへの敵意が感じられなかったからね。俺も目を閉じることにしたんだよ」

こちら?こちらとはどちらの事だろうか。ショーン一人なのか、それとも?

「レイン、安心しろ俺はお前の味方だよ。っていっても信じられないよな?」

またははっと笑いながら頭を掻く。その悲しそうな顔を見て後悔する。

恐らくショーンは俺の迷いを見透かしているんだろう。

魔族と明かされて味方なのか敵なのかわからず、ショーンを疑っている俺の心を。

そして俺は先ほど助けられたことを思い出す。

「大丈夫だ。すこし…驚いたが。俺はショーンを信じるさ」

そういって聖剣を握り直して立ち上がる。

「ははっ、本当にお前のそういうとこすげぇと思うよ。…ありがとう、レイン」

そういって近付いてきたショーンは俺の肩に手を置いた。

「回復系は苦手だが、すこしは楽になるだろう」

そういった瞬間、ショーンの手が光心地よい感覚が肩に広がる。

疲労しきっていた体に力が戻ってきた。

これならまだ戦える。

俺が再戦へと意識を向けるとクロネが口を開いた。



「ハンス、あなたもそちら側へと着くのですね」

思わず、悲しそうな声が出てしまう。

「長居するつもりはなかったんだがな、思いのほかここが心地よくってな」

いい笑顔をこちらへと向けてくる。

自分の胸の内を見透かされぬようにハンスの目への対抗魔法を張る。

「それよりもクロ姉、珍しいじゃねぇか前線へ出てくるなんてなんの心変わりだい?」

「あなたには関係ないでしょう」

ハンスの問いにそっけなく答える。

「関係ないね…なぁ、クロ姉もういいんじゃないのか?今の魔王軍に付き従う価値なんてないだろ?」

わかっていた。

この数百年、次々と同胞達は魔王軍を離れて行った。

今回の魔王軍の作戦、少数しかいなかったのは力を入れてないわけでも、少数精鋭というわけでもなかった。

あれが、今の魔王軍の全部隊だ。

一国の一師団にも満たない軍隊。かつての魔王軍とは似ても似つかない。

ショーンはそれをも含んだ意味で先ほどの言葉を私に送ったのだろう。

わかっています。わかってはいますが、私は。

「それでも私はここを守らなければならないのです」

思ってもない言葉がでた。

ここに来た部隊はほぼ全滅し、私自身も魔王軍に見切りをつけてしまった。

それなのに何を守るというのか。

ハンスに今までの私を否定されたと思い意固地になってしまったのでしょうか。

子供っぽいなと気付かれないように笑う。

「そうか…でも俺もこいつとこいつの国が気に入ってるんでね。クロ姉だからって手を出させるわけにはいかないよ」

そういってハンスがこちらへと短剣をこちらへ向ける。

「ハンス…」

その姿が羨ましかった。私は居場所を失ったというのにハンスは新たな居場所を見つけていたのだから。

ハンスのその笑みがとても憎らしかった。

「あなたが私を倒すとでもいうのですか?旧魔族、四魔将の中でも弱かったあなたがですか?」

だから私はそう挑発する。

「あぁ、確かに俺の能力は戦闘には向かねぇ。でもな俺の能力にはこういう使い方もあるんだよ!」

その瞬間私の後ろに殺気を感じた。

私は横へ回避しハンスをにらむ。先ほどまでハンスの横にいたレインが消えていた。

「幻影…ですか」

そして私は殺気を感じた方向へと目を向ける。

そこにはレインがいた。

なるほど、ハンスの能力でレインを隠しているのか。

レインの姿がぶれ、三人へとわかれる。

どれが本物か?見極めようとするがハンスの能力を完全に破ることは困難だと判断した。

「すべて倒してしまえば同じことです!」

私は一人ずつ切り捨てる

一人目、二人目、三人目!これが本物です!

最後の一人を切り付けた瞬間最後の一人もほかの二人と同じように霧散した。

「え!?」

直後横からレインの気配がした。

首元を狙った一振りをとっさに横に飛び回避するが聖剣が首をかすめ聖属性の攻撃が私の皮膚を焼く。

「くっ」

距離を取り体制を立て直す。

これは苦戦しそうですね。

そう思いながら、思わずわらってしまう。

強敵に出会ったというのに、先ほどまで死ぬつもりだったというのに。

あぁ、私もやはり旧魔族の一人だったということですね。

ずっと忘れていた感覚、ヨハネ様も最後の時はこんな気持ちだったのでしょうか。

「少し、なめていたようですね。これではダバルを笑えない。では私も本気を出させてもらいましょうか」

そういって私はレインとハンスに向けて剣を向けた。

最後くらい楽しんでもいいですよね?ヨハネ様。

私はこの戦いで『初めて』身体強化を行った。


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