【旧魔族参戦】
「はやくっ!はやく回復を!」
左腕から大量の血を流しながらグラが黒髪の魔族へ叫ぶ。
俺に一礼した後グラの前に立ち見下ろす彼女は動かない。
「何をしている!!!早く回復しやがれ!!はy」
「あまりみっともない姿を見せないでください。あなたは誇り高き魔族なのですよ?」
「うるさい!お前など、戦いにさえ参加しない腰抜けじゃないか!!」
「ほう、私が腰抜けだと?」
「違うのか?ヨハネ様が討たれるとき!勇者を前に逃げ帰った腰抜けが!!!」
嘲笑するグラに冷静に返していたのはそれまでだった。
ヨハネ…最初の魔王として君臨したその名を口にした瞬間黒髪の魔族の魔力が膨れ上がった。
「お前ごときに!!何がわかる?!」
「ぐああっぁあ」
グラの首を片手で締め上げる。
「もういい、消えなさいグラ…。そして輪廻に還るがいい」
グラを空中に頬り投げ腰に着けていた剣で細切れにした。
ぼたぼたとグラの肉片が落ちる。
雨のように降り注ぐグラの血を黒髪の魔族は悲しそうに見えた。
逃げ帰ったつもりはありませんでした。ですが私は間違ったのでしょうね。あの時私は退くべきではなかったのでしょう。
例えヨハネ様のお言葉であっても、城に残り共に散るべきだったのかもしれません。
お優しいヨハネ様の事です。私がどうしてもと言えばきっと最後の時までそばにおいてくれたでしょう。
ふと勇者を見る。仲間を殺したことに驚いているのかグラの血を浴び続ける私を呆然と見つめている。
私は冷徹な悪魔にでも見えているのでしょうか?
我にかえったのか代々受け継いだ聖剣を握り直しこちらへ構えなおす。
私に勝てる等と微塵も思ってないのにも関わらず、守る者のために剣を握りますか。
あぁ、なんて理想的な勇者なのでしょうか。あのころから変わらない。
だというのに魔王軍は…
やはりここまでですかね、ここであの時の再現をし、私の生に幕を閉じましょう。
ヨハネ様の命令を守れず魔族をここまで堕落させてしまった贖罪に私の死をもって此度の人魔の争いの終結としましょう。
ダバル如き勇者ならば近いうちに倒すでしょう。
それが私には名案に思えた。
ですが、私はヨハネ様の誇り高き魔王軍の一人、簡単には死ぬわけにはいきません。
弱くなったとはいえ勇者なのです。私に抗いしっかりと私を殺してくださいね。
私は姿勢を正し、勇者に向き直り声をかける。
「お待たせしました。ここからは私が相手です。そういえばまだ名乗ってませんでしたね。
ヨハネ様の腹心にして魔王補佐のクロネ。全力をもってお相手いたします」
そうして私は勇者に微笑んだ。
旧魔族だとは思っていたが…よりにもよって神話レベルの名前を聞くとは思ってもいなかった。
魔王ヨハネの腹心クロネ…その力はヨハネに匹敵するほどのものだと語られている。
この膨大な魔力も納得できる。
勝てるわけがない。そんな考えを首を振り心から消し去る。
ここで止めなければ人族は終わる。俺が倒さなければ。
「そちらは名乗ってはいただけないのですね?」
微笑む黒髪の魔族…クロネがそう問いかけてくる。
「失礼、俺はリュート王国、第一王子にして当代勇者、レイン・フォン・セン。全力をもって貴様を倒す!」
そういった俺をクロネは嬉しそうに見つめる。
「さぁ先手は譲ってあげます。来なさい」
手招きをするクロネ。
俺は地面をけりクロネに切りかかった。
俺の出せる最高速度での斬撃を複数浴びせかける。
グラとの戦いではさほど消耗していない。
クロネが油断をしている今ならば倒せる。だからこそ最大の攻撃を。
だが、俺の斬撃をいともたやすくクロネは受け流す。
予想はしていたが剣術までこれほどとは。俺は頭を切り替え剣戟によって誘導をする。
それと同時に詠唱を始める。
通常詠唱は魔法を発現するうえで必要な行為ではない。これを行うのは周囲にある魔力を集め威力を上げる、もしくは魔力不足を補うためだ。
つまり勇者の魔力をも上回る極大魔法を打ち込む。
ここから離れた位置にいる部隊を巻き込まないようにクロネを誘導しつつも俺は詠唱を続ける。
恐らくクロネはには気付かれているのだろう。そのうえでこの魔法を受けるつもりでいるのだ。
その余裕の笑みがとても悔しかった。
詠唱が終わり誘導が完了した。
「その余裕いつまで続くかな?<煉獄の業火>!!!」
聖属性と火属性の多属性魔法だ、神話レベルの化け物とはいえ魔族には変わらない。
聖属性を含んだこの攻撃ならば無傷では済まないだろう。
「くらえええええええええ」
クロネを中心に彼女の足元と上方に魔法陣が展開し術が発動する。
轟音を響かせながら業火がクロネを包んだ。
あたり一面を煉獄の業火が燃やし尽くす。
術は完璧に発動しクロネに直撃した。
…はずだった。
荒れ狂う竜のような炎が吹き飛んだ。
「なに!?」
「やはりこの程度ですか。これでは私は殺せない…これでは」
消え去った業火の中から現れたのは無傷ではないもののまるでダメージが入っていないかのように涼しい顔をして立っているクロネだった。
「そんな…馬鹿な」
その光景に呆然とする。俺の最大魔法だぞ…それがあの程度のダメージだというのか…。
まだだ、俺にはこの聖剣がある。今まで歴代の魔王を、初代の魔王すらも屠ってきたこの聖剣で貫くことさえできればまだ勝機はある。
俺は立ち尽くすクロネに再び切りかかる。
「あの光景をみてもまだ来ますか。本当にあなた方は…」
愚かだとでもいうのだろうか悲しそうな目で俺を見つめる。
俺の斬撃はまた軽々とよけられる。
「くそっ!」
悪態をつきながら何度も向かってくるレイン。
私は勇者を羨ましく思わざるを得なかった。そのあきらめない心がしっかりと受け継がれていることに。
ですが、この程度では私には届かない。たとえその剣が私を屠ることのできる聖剣であろうともこの程度ではあてることすらかなわないでしょう。
遅すぎたのでしょうか。
私は聖剣をはじき返すとがら空きになった腹を蹴り飛ばした。
レインは転がりながら吹き飛ぶ。
私はレインに近づき剣を向ける。
レインは依然立ち上がろうとするが力が入らないのか起き上がることができないようだった。
「終わり…ですか」
結局あの時の再現はできませんでしたか。
仕方ありませんね。勇者を消し当代魔王を消し、私も消えるとしましょうか。
剣を振り上げ勇者に振り下ろした。
振り下ろした剣にレインは真っ二つにちぎれそして…
そしてもやのように消えた。
「なに!?」
幻覚!?この私が幻覚をくらうなんて!?
そんなことが出来るのは?!
「ハンス!!!!」
「あり?ばれちゃったかー久しぶりだねクロ姉。できればショーンって呼んで欲しいんだけど」
そういって姿を現したのはかつての四魔将の一人ハンスだった。
もうそろそろ終わらせようかなと思っているんですが。
筆が遅く申し訳ありません。




