【シンVSアルノー】
シンと咆哮をすると大地が、空気が震える。
彼ら獣人族の咆哮は、多くはないが魔力をのせてある。
なので、音による威圧だけではなく、魔力による魔力的精神操作や魔法に対する攻撃性も有している。
故に咆哮の強さがその獣人の魔力的な強さの判断にも使えると最近の研究で分かった。
それに当てはめると彼の咆哮は他の獣人の咆哮の比ではなく、彼が戦場で敵からは戦鬼と恐れられ、見方からは英雄と呼ばれた理由がわかるというものだ。
こうして対峙している間もびりびりと感じるその力の圧力が、一撃でもまともに喰らえばやばいと訴えかけてくる。
「だが、どうしてかなぁ?今のお前に負ける気がしねぇよ」
そう話す俺を真っ赤な目をしたシンがにらみつける。
「50年も生きてない坊やが言ってくれるではないか」
俺の言葉が癪に障ったのだろう、魔力がまた膨れ上がる。
「俺を侮ったことを後悔させてやろう!」
「お互い様だよッ!」
シンは叫ぶと同時にこちらへ大剣を振り下ろした。
それに対し俺は冷静に右へとよける。地面に振り下ろされた大剣が地面とぶつかり地を揺らす。
「確かに、すばしっこさだけは一人前のようだな」
「はは、これでも騎士団ではパワータイプって言われてんだけどな」
獣人と比べたら非力になるのだろうな。
軽口を叩きながらも間合いはしっかりととる。相手の動きをよく見て次の行動を予測する。
シンは口でのやり取りの中でも絶え間なく斬撃を俺に対して繰り出してきた。
振り下ろし、切り上げ、また振り下ろす。
それを俺はバックステップや受け流しなどでさばく、シンの一振り一振りが地形を変えていく、一撃でもくらったらたとえ防御の魔法が付与されたこの鎧であろうとひとたまりもないだろう。
俺に当たらず、大剣がぶつかった大きな岩が角砂糖を潰すかのように粉々に砕けたのを見ればその威力の高さがわかる。
これが本当のパワータイプの力か。
シンはこのパワーと、巧みな戦闘技術で圧倒的な強さを誇っていた。
緩急のある攻め、陽動の一撃からの重い一撃、様々な攻撃を織り交ぜた戦いでその名をこの世界にとどろかせついには国を立ち上げるまでになった。
シンに勝てるものなんて勇者くらいだとまで言われた男だ。
俺がまだ戦場に出て間もないころ、味方として戦場でその戦い方を見たことがあった。
その勇ましいその姿に憧れたものだ。
「だが、当たらねぇよそんな攻撃」
大地を揺るがすほどの一撃が俺のいた所に落ちる。
「はぁはぁ」
シンは息を荒げながらこちらをにらむ。
「なぜだ!なぜ当たらない!!」
叫ぶシンをみて哀れになる。
「それがわからないならお前はもうだめだよ」
なおも力任せに剣を振り続けるシンは俺の声が届いてはいないようだ。
俺はシンの一撃を受け流すと懐へと入り剣を振る。
剣はシンの胸元を切り裂こうとし、シンはそれに気づきとっさに後ろへ飛ぶ。
剣を振っていた体勢から無理矢理飛んだせいで無様に転がる。
「ぐぁ」
だが、かわし切れていなかったようで胸元がわずかに切れていた。
「くそったれがぁ」
そう叫びながらもう一度こちらへ切りかかる、お俺はそれを再度受け流し彼の左腕を切り付ける。
「ぐぁあああ」
シンは左腕を押さえ大剣を落とし地面へ膝をつく。
「立てよ英雄、濁ったその目を覚ましてやるよ」
そんなシンを俺は挑発する。
「なぜだ!なぜだぁああああ、お前みたいな雑魚に!」
シンの攻撃は単調過ぎた。ただただ力任せに振るだけの攻撃、かつての戦い方などもはや跡形もない。
魔族により精神操作をされた弊害だろう、彼の強みであった多様な攻めがまるで見れなかったのだ。
そんな単調な攻撃を何度も戦場を潜り抜けてきたものが避けられぬわけがない。
大地の揺れもその魔力の圧力もそれを覆すだけのものにはなりえない。
「お前は間違えたんだよ。不本意ならば魔族の要求を跳ね返すべきだったんだ、わざと精神操作されるなんて逃げの選択をとるべきではなかったんだよ」
左腕を押さえ、地面に膝をつくシンに俺は話しかける。
精神操作を受けたものは口数が減る、それはわずかな差ではあるが本心との齟齬が生じることによって話すという行為が苦痛となるからだ。
だが、元々の耐性が強い者やその精神操作に対抗できるものがわざと受けた場合は様相は異なる、前者は自分で気付くこともできないほど自然と誘導されるにも関わらず、後者はそれを理解してしまっているため自由にしゃべること自体はさほど難しくはないのだ、ただ内から湧き上がる衝動に突き動かされる。
酒をのみ勢いをつけることに少しだけ似ているだろうか?
踏み切れない自分への言い訳として、決断を自分ですることが出来ないからその言い訳として使ったとしか思えない。
「うるせぇ!お前に俺の何がわかるっていうんだ!?」
「知らねぇよ、お前の事なんざ知りたくもねぇ。俺の憧れた英雄はそんな惨めな男ではないからな」
哀れなかつての英雄を見下ろす、俺はここで終わらせてやろうと思った。
シンの目は真っ赤になり血の涙を流しそうなほど色が濃くなっている。
本心では理解しているのだろう、だが精神操作による衝動がそれを認めるのを邪魔をしているのだ。
だから英雄をここで終わらせてやろう。
俺は手に持った剣を振り上げシンに向かって振り下ろした。
だが、その剣はシンへと到達することはなかった。
ガキンという音をたて、阻まれる。
「コウ」
「コウ将軍」
そこにいたのはシンの戦友、狼の獣人コウ将軍であった。
「こいつをやらせるわけにはいかないのでな、若造、俺も相手してやるよ」
俺の剣を受け止めた狼は俺を見つめながらそういった。
しかし、
「俺は人族の中じゃ若造っていうほどの歳ではないんだが…」
誤字脱字が目立つ(´・ω・`)
たまに前の話を見直して誤字脱字を直してはいるのですが…
発見した際は教えていただけると幸いです(´・ω・`)




