【トイフェル戦線】
「お前ら!敵には魔族がいる。魔法がいつ飛んできてもいいように防御魔法を張る準備をしとけよ!」
俺はそう指示を出し前方を見る、対峙してからかなりの時間が経った、そろそろ奴らが動き出してもいいころだ。
魔族がいる以上、遠距離からの魔法攻撃は気を付けなければならん。
「アルノーさんきます!」
レインがそう叫び、聖剣を構える。
であったころとはまるで違う完成されつつある構えをみて、弟子の成長を嬉しく思う。
「魔法銃用意!できるだけひきつけろ!」
レインの構えをいつまでも見ているわけにもいかないので全軍に指示を出す。
「銃撃後、突撃し魔法が打てないように混戦に持ち込む!用意しておけ!」
魔族の射程がどれほどのモノかはわからないが混戦になって敵味方入り乱れている状態ではおいそれと打てまい。
獣人の怪力や戦闘力は脅威ではあるが俺たち騎士団はそれにもそれに対抗し上回るだけの技量はある。
「まだだ!まだひきつけろ」
銃撃の土煙で狙いが定まらないうちに敵軍へ接近しなければならないため距離を詰めさせる。
最初に魔法の攻撃が飛んでくるかとも思ったが考えすぎだったか?
「うてぇええええええええ」
剣を前に出し叫ぶ。
その瞬間並んだ銃撃兵の魔法銃の銃口に、小さな魔法陣いくつも連なって現れ瞬く間に銃口を中心に重なりあい集まる。
そして、ドォオオオンっという大きな音とともに魔法が放たれた。
放たれた魔法は一瞬で敵の目の前まで迫り敵兵とその周辺に着弾する。
それと同時に大きな土煙とともに爆発した。
「着弾確認!突撃ぃいいいいいい!」
号令とともに銃撃兵の後ろに控えていた部隊が突撃する。
俺とレインも同じタイミングで、突撃を開始した。
攻撃魔法を警戒しつつ素早く前方の敵との距離を詰める。
土煙が流れ敵の姿が見え始めたころ俺たちは敵の前へと到達した。
しかし、当初そのまま切り込む作戦だったが、土煙の前で足を止めるものが複数見られた。
何事かと前方を見ると、
「ぐぉおおおおおおおおお」
そこにいたのは目を赤く染め、片腕が飛びもう一方の腕も血まみれになりながらも牙をむき出しにし今にも襲いかかろうとする獣人だった。
かれだけではないほかの獣人もだ。四肢のいずれかを前方のモノは皆失っていた。
その後方に控えるものも決して軽くはない傷を負っているものが大半だ。
なのに、戦意はまるで落ちていない。
「くるってやがる…」
俺のつぶやきにレインが反応する。
「あの目は、精神操作をされているものの目ですね。恐らく何があっても前進し、俺たちを倒すように命令されているのでしょうね」
そういってレインは顔をしかめる。
「何!?」
「しかもあの兆候は反抗するほど強くあらわれる。彼らの目は真っ赤です。ということは」
「戦いは本意ではないというのか、くそ!やりづれぇな!」
敵中に飛び込みレインと背中合わせになり向かってくる者を切り捨てる。
他の部隊はすでに戦い始めていた。
止まってしまった者たちもすぐさま我に返ったようで、すぐさま敵中へ進み獣人たちと剣を交えていた。
「シンのやろう何を考えてやがる、自分の兵を魔族に洗脳させるなど!」
ここでいっても仕方ないのだろうがそう毒づかずにはいられない。
奴は誇り高く、そして強かった。人族相手にもその力を見せつけた。彼はまさしく英雄だった。
だというのに彼はおごらず、味方を大事にした。
だからこそ俺は戦場で奴を見た時から憧れていた。その強さに、その生き方に。
だというのにこれは何だ?魔族に兵士を操らさせ、特攻させやがった。
四肢が欠損している状態なうえに精神操作によって細かな動きができなくなっていた獣人に騎士団の人間を倒せるわけもなく。
次第に獣人が倒れていき、立っている獣人は少なくなっていた。
「このまま押し切れる」
そう思った瞬間。
「ぐるあぁああああああああああ」
大きな咆哮が聞こえた瞬間視界が暗くなった。
「上か!?」
上を見ると大きな体が上から降ってきた。
「くっ」
その身体から繰り出された大剣による斬撃を受け流し距離をとる。
「シン!?」
その影はシン王だった。
シンから目を離さないようにしつつ周りを確認する。
魔族はどうやらまだ、前線には出てきていないようで、ほかの部隊の姿は先ほどと変わっていなかった。
「他は大丈夫のよう…」
そう少しほっとした瞬間シンの遥か後方で大きな魔法陣が見えた!?
「何!?この状況でうつのか!?」
味形も巻き添えにするつもりか。魔法陣の大きさとその式の複雑さからみるにおそらく上位魔法だろう、そんなものを喰らえば。
両者ともにただでは済まない。
「魔法結界をはれええええ!」
叫ぶと同時に大きな火炎が俺らに向けて降ってきた。
ごおおおおんという大きな音のあと敵味方関係なくふっ飛んでで行く姿が目に映る。
対峙しているシンは、なおも悠然とこちら見続けている。
「ふざけるなよ?!シン?!てめぇなにやってるかわかってんのか?!」
剣を構えるシンに叫ぶ、だがシンは何も答えずふん、と鼻を鳴らすだけだった。
魔法による土煙が晴れると、死んでいるのか気を失っているのかわからないが防御魔法を張らなかった獣人たちは皆倒れていた。
俺たちの兵も無傷とはいかず、防御魔法が遅れたものがダメージを受け、仲間に連れられ後方へと退却を始めていた。
負傷者が引き始めたころそこへ魔族と一人の獣人がやってきた。
「ふっふっふ、もう少し数を減らせるかと思ったのですが。全く獣人は役に立たない屑のようですな、敵をおびき寄せる餌にすらならないとは」
そういって一際魔力の大きな魔族が前に出る。
「お前は…」
レインがその魔族をにらみつける。
「勇者様とお会いするのは二度目ですかね?どうもわたくし魔王軍三人衆が一人グラと申します」
真っ赤な肌をした魔族の男が礼をする。
「アルノーさん!シン王は任せました!グラの相手は俺がする!!」
言い切ると同時にレインは飛び出し、グラに切りかかる。
「そう焦んなよ」
さきほどまでの口調は演技だったのか剣を受け止めた。
「お前ら!ここのごみどもはお前らが始末しろ」
そういうとグラはこの場から少し距離をとるためか大きく跳躍した。
レインはそれを追っていく。
「ちっ!指揮官が戦場を離れんじゃねぇよ!おい、お前らそこの魔族たちは大したことはねぇ!油断せずいつも通りやれば倒せる!部隊長は指揮を執って応戦しろ!」
そう大きな声で指示を飛ばすと俺は前のシンに目を向けつつ後ろの獣人も警戒する。
魔族とともにやってきた狼の獣人は退却の命令を出している。
意識を取り戻した獣人もいるようで精神操作は意識が一度なくなったためか解かれているようで、戦意はなく身体を引きずりながら仲間を担ぎ後退している。
あれは、コウ将軍か!?
この二人の連携は厄介だ、退却が終わる前にシンを倒さなければ。
そう思い、剣を構えるとシンが口を開いた。
「さあ、久々の戦場なんだ、楽しませてくれよ?人族!」
そういって大剣を俺に向けシンは大きく咆哮した。
こうしてトイフェル平原の戦いの第二幕が上がった。
いよいよ戦闘が始まりました!
次は九日の更新を予定しています。




