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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
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【トイフェル平原戦:開戦】

遠視の魔法で向かいに陣を張る獣人の部隊を見る。

これから戦場となるこのトイフェル領の平原は見晴らしもよく、お互いがよく見える。

この広い平原でリュートとトイフェルの両軍は距離を置き向かい合っていた。

「少ないな」

今眼前に見える兵数は、この戦争が開始される前に情報として入っていたトイフェルの軍勢のおおよそ半分にも満たぬ数となっていた。

遠視の魔法で見える風景にはかつて戦場にて、金獅子と恐れられた。シン国王の姿も見えた。

「金獅子まで出てきているのか?!」

隣でアルノーが驚いた声を上げる。

「いくら総力戦とはいえ、王が自ら軍を率いる等…」

愚行でしかない、彼がやられてしまえばその時点で戦争が、国が終わってしまうのだ。

気性の荒い種族の獣人が彼の国に従っているのは、金獅子の威光もかなりかかわっている。

戦場で最強とうたわれた金獅子いてこそ、またそばに控える最強の側近コウ将軍いてこそあの国は回っているのだ。

後継者も育たぬまま戦場で命を散らしてしまっては、国そのものがなくなりかねない。

「それだけ本気って事なんだろうよ」

アルノーが俺に話しかける。

「団長、金獅子は俺が引き受ける。お前は魔族を相手するのに専念してくれない?」

むかしはアルノーも戦場を駆ける戦士の一人だったのだ、何かしら因縁か野望があるのだろう。

少し顔を険しくしたアルノーが話しかけてくる。

「それが得策ですかね」

アルノーの提案に同意する。

ともに戦場を渡ってきた彼らは強く、魔族はもちろんのこと負けることなどほぼないであろう。

だが、それでも魔族を相手にするのはすこしきつい、しかも今回はあの旧魔族も参加しているかもしれないのだ。

大魔法を意識外から突如打たれてしまえば、俺としても生き残れる自信がない。

遠視の魔法で敵国の状態を見始めてからしばらくたったころ。

敵の陣営に動きがあった。

「魔族…」

トイフェル軍勢の中に魔族が現れたのだ。

今のところ隠し通路で見たあの化け物のような魔力を持つ魔族の姿は確認できないが。

震える政権が近くにあの魔族が来ていることを教えていた。

遠視の魔法を解き、アルノーへ準備をするように命令する。

「トイフェルで動きがあった、まもなくやつらは進軍を開始するだろう、準備を怠らないように。まぁ、余計なお世話でしょうけどね」

そういいながら、アルノーの部隊へと顔を向けると、もうすでに準備を終えていたであろう。アルノー隊には殺気が満ちていた。

アルノーのすごさはその剣の腕前、すなわち個人としての能力だけではない。

部隊の皆から敬われ、彼の率いる部隊の戦意はどこの戦場であろうと一番高い。

彼の集団を率いる能力は、リュートの国の中でも群をぬいている。

まだ若い俺にはない能力だ。

これほどの者を出身だけの理由で軍の要職へと着かせなかった者たちがいるとこを見ると、この戦争が起きてしまったのも自明の理ということか。

「レイン、そんな顔をすんじゃねぇよ」

アルノーを見ながら考え事をしていると顔に出ていたのか、背中を強くたたかれた。

「確かに、俺は要職についてはいなかったけどそれは俺の意思でもあるんだよ。俺にはこういうのは向いてないからよ」

頭をかきながらアルノーは言う。

アルノーが向いていないというのならば、統率力を持つものなどこの世に数えるほどもいなくなってしまう。

不満そうな態度が伝わったのか、アルノーはため息を吐いた。

「今の主はお前だ、レイン。俺もお前が持ち上げてくれるこの俺が唯一下に就きたいと思った奴なんだ。俺が言うのもなんだが、誇りを持て!お前は強い!胸を張れ!」

アルノーは柄にもないことを言ったなと少し照れながら自分の部隊へと戻っていった。

こういう面倒見の良さも彼が慕われる理由なのだろうな。

見習わなくては。

フレンドリーには慣れずともせめて彼の言った通り胸は張らなくては。アルノーに見抜かれたように弱さは決して見せられない。

俺はこの国の王子であり、この騎士団の団長なのだから。

決意を固め再びトイフェルの軍勢の様子をみる。

すると、アルノーに激励されたからか今まで見えなかったものが見えてきた。

軍勢の前方は獣人が固めており魔族の姿を見つけることはできなかった。

だが、確かにその力は感じられその場にいることはわかる。

獣人の身体がいかに大きかろうとも魔族の援軍が大した数ではないとしても。

魔力の多い魔族の戦いの傾向は大魔法や魔力量の絶対的有利をつかってのごり押しともいえる戦法だ。

それ故に俺たちの鎧は魔法耐性の付与魔法がしっかりとかけられている。

魔族はその戦い方ゆえに前線で戦う、後方だと前線の味形を巻き添えにしてしまうからであろう。

だとするならばだ、遠視の魔法で見たこの風景に一人も魔族を見かけないのは不自然ではないだろうか?

近接を得意とするもので固めているのならばなおの事前線に来るだろうしな。

「ならば、初手に大魔法を放ち、疲弊したところを獣人の部隊が突撃といったところか」

となれば、我らは開戦とともに防御を優先するか、いち早く接敵し、魔法による攻撃を行えないようにするかだな。敵味方が入り乱れては奴らも簡単には魔法を打てまい。

方針が決まり、各部隊へと通達する。

その数分後、銅鑼の音が戦場へと鳴り響き、トイフェルの平原の戦いが始まった。

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