【王と王子、ついでに元魔王(幼女)】
「レイン、奴らの国で動きがあった。諜報部隊の情報によるとやはり魔族が絡んでいるようだ。シン殿も哀れよ、かつてのあいつならば魔族の甘言などに惑わせられはしなかっただろうに」
謁見の間、玉座に腰かけた王はかつてライバルを思い返すかのようにつぶやく。
周りには他の兵の姿はなく。
宰相が離れたところに立っているだけだ。
人がいない分よく響くその声に俺は返す。
「トイフェルの周辺の国の情勢を考えると仕方ないのかもしれません」
あの国は獣人を奴隷として扱っていた国の境に無理矢理建国し魔王出現により、認められた国だ。
隣接するリュートとは友好関係にはあったが、他の国はまだまだ差別意識が根強く残っている。
「陛下、魔族が確認できたということは我々も?」
「あぁ、すまぬなお前の言葉を疑ったわけではないが、お前たちは我が国でも屈指の騎士団だ。おいそれとは使えぬのだ」
「わかっております、陛下」
「確認できた魔族は六人、お主が魔族領で得た情報と照らし合わせた結果、一人は幹部の一人、あとは無名の兵士のようだ。
魔力量もその幹部が少し大きいだけで他の魔族を見るにお前の部隊ならば、対処が可能であろう」
陛下の言葉に耳を疑う。
あいつはいないのか!?
「フードを被った、黒髪の魔族は発見されませんでしたか?」
「いや、その特徴を持つ魔族の情報は入っておらぬな」
その言葉に少し安堵する、奴が出てきてしまえば戦場を地獄と化す。
戦としての勝ち負けを決める前に両者ともその戦いの余波だけで死に絶えてしまうだろう。
刺し違えてでも倒さなければならなかっただろう。
「どうしたレイン、その者はそれほど危険なのか?」
「はい、盗賊どもを捉えた作戦の際、隠し通路にて遭遇しましたが。あれは、魔王よりも危険です。
魔王ダバルはおそらく生きているでしょう。ですが、再び戦うことになっても勝てないとまでは思わないでしょう。
ですが、奴と遭遇したとき俺は自分の勝ちを信じれませんでした。それどころか奴に対して目をそらすことすらできませんでした。
少しでも、一瞬でも目を離すと首を落とされる。そんな予感がありました」
「そういえば」
陛下が思い出したように声を発すると資料を広げる。
「やはり、お前の言っていた特徴と合うものが奴らの近くで何度か目撃されているらしい。だが魔力はまるで感じず、人族のようだという報告だ」
魔力を感じないという言葉に隠し通路内での出来事を思い出す。
「奴は巧妙に魔力を覆い隠すことができます、恐らく魔力を見ることのできるといわれる精霊の目の持ち主ですらも欺けるのではないのでしょうか?」
精霊の目と同等、もしくはそれ以上とまで言われるショーンの眼すらもかいくぐったのだ。その可能性はある。
だが、予想が当たっていたのならばこの戦は…
「勝てるのか?」
言い切った後、黙ってしまった俺を見て陛下が心配そうに問う。
「わかりません、ですが戦うことになれば刺し違えてでも倒します」
腰に下げた聖剣に触れ、力強く陛下に宣言する。
陛下は俺の様子にため息を吐くと、立ち上がり俺に近づいてきた。
「レイン…。」
「陛下」
俺の肩へ手を置いた陛下を最初が止める。
「いいのだ、ここにはお前とレインしかおらぬ、少しは父らしく振る舞わせてくれ」
「はい、それでは私も少しの間席を外させてもらいましょう」
そういうと宰相は資料をたたみ始める。
「一旦処理の終わった書類を片付けてまいります。その間レイン、陛下を頼みますよ?」
そう言いながら俺の肩を叩くと横を通り抜けていく。
「すまぬな」
「いえいえ、これも仕事ですので」
扉の前で一礼し扉を閉める。
宰相が出て行ったあと、陛下は俺のそばへ来ると優し気な声で話し始める。
「レイン、お前に私は今まで父らしいことは何もしてこなかった。だがな、私はお前を子だと思っている、可愛く、誇らしい我が子だ。」
かつて、魔王討伐という運命を背負わされた時に聞いた。父としての声だ。
「魔王討伐に、今回の作戦。お前にはいつも苦労を掛けるな。
レイン、今言うことは王としては失格だろう、だが一人の親として言わせておくれ。
刺し違える等、簡単に言わないでおくれ。お前は国の宝であると同時に私達の宝なのだ。無理そうならば逃げてもよい、必ず生きて帰ってきてくれ」
恐らく、そのような事態になったとして俺も父も逃げはしないだろう。この人は守りたい人のために命を捨てることに迷いはない。
ならば、俺も尊敬するこの人のためにも、国民のためにも俺は逃げることはない。
だが、
「はい」
と、俺は答えた。恐らく考えていることは伝わってしまったのだろう。
陛下の目に涙が見えた気がした。
その時、扉が開かれる。
「戻りました」
「うむ」
玉座へと戻った陛下の顔は、元の王としての顔へと戻っていた。
「レイン、それではこれより準備にあたってくれ。編成は任せる」
「はっ!!」
陛下の言葉にそう答えると身をひるがえし俺は騎士団へと準備を進めるため急いだ。
【そのころのスイ】
訓練もメイドさんの手伝いにも最近慣れてきた。
リーシャの仕事中お手伝いを教えてくれるメイドさんは二人いて話を聞けば、ここへ来た時に服を買い出しに行ってくれたのが二人なのだという。
動きやすい服と、可愛い服を買ってきてくれたのかと思っていたがどうやら二人とも自分の趣味で買ってきたらしい。
そう考えるとかわいい服だけにならなくてよかったと思った。
あんなひらひらなスカートで訓練なんかしたら危ない。
見えた!!的な意味で…。
最も幼女のパンチラで欲情する奴などここにはいないだろうが。
そんな話をメイドさんたちと話していると噂好きのメイドさんが、
「あ、でも団長さんってロリコンって噂があるわよ」
といった瞬間空気が固まった。
え、あの好青年って感じのレインが!?うわぁ、引くわ…。
ん?待てよ、だとしたら私狙われてる!?
狙われるは狙われるでもそっちの意味だったのか!?
衝撃の事実に身を震わせていると。
ふと、遠くの方に魔力が固まっているのを感じだ。
思わず手伝いの手を止めてしまう。
複数の魔力が固まっており、その中でも一際大きなこの魔力は…。
「クロネ…?」
「どうかした?」
聞かれてしまったか!?と焦って「なんでもない!」と答える。
どうやらメイドさんたちには聞こえなかったようですぐに仕事へと戻っていった。
手伝いを再開し体を動かしながらも先ほど感じた懐かしい魔力に意識が持っていかれてミスを連発してしまった。
久々に感じたクロネの魔力に、嬉しさを感じつつもその高まっていた魔力に少し俺は不安を覚えた。
そろそろ戦闘へともっていければなと思っております。(;゜Д゜)




