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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
22/42

【リーシャとレイン】

訓練が終わり汗を流そうとスイを連れて浴場へ向かうとすると後ろから声がかかった。

「リーシャ、ちょっと来てくれるか?話がある」

「団長、汗を流したいので後でではだめですか?」

「スイはこれから仕事だろう?それにすぐに終わる」

そういわれ、少し迷うがスイを先にいかせる。

ちゃんと魔道具を使えるだろうか?

そんな心配をしながらスイを見送っていると団長が少し大きな声で私の名前を呼んだ。

「リーシャ!聞いているのか?」

「はっはい!」

何度か呼んでいたようで、団長はあきれた顔をしている。

ため息を一つ吐き、話を続ける。

「リーシャ、最近そうやってぼうっとすることが多いぞ」

「すいません」

「リーシャ、スイの事が心配なのはわかるが、ここは騎士団の本拠地だ。そうそうやられるということはない、仕事に集中してくれ」

わかってはいた。最近何をするにしてもスイのことを考えてしまう。

こうしてる間に怪我をしていないだろうか?魔族があの時のように襲撃してくるのではないか?

「魔王は討たれたんだ、大丈夫だ。君も見ていたんだ、知っているだろう?」

確かに、団長、あの頃はレイン様と呼んでいたか。私は、魔王討伐へ向かう団長と出会い、その旅に同行した。

魔王を仲間たちとともに追い詰め、殺した。

だが、あまりにもあっけなさ過ぎた。古くから伝わる伝承ではいずれも苦戦を強いられてきたのにだ。

偶然今回が弱かったと割り切るにはあまりにも不自然すぎる。

「本当に団長は本当にそう思っているのですか?」

魔王、私の妹を殺したダバルの顔を思い浮かべ、団長の目を見ながら聞く。

「リーシャにはこの嘘は通じないか」

団長はあきらめたように話を切り替える。

「恐らくダバルは生きているだろうな、トイフェルの戦線に魔族が出てきたのがいい証拠だ。どうやって俺たちを騙したのかは知らないが、あの討伐劇はこちらを油断させるための罠だったということだろう。」

団長の確信したような言い方に私の心は大きく揺さぶられた。

「ダバルが、生きている?」

気付けば、手を強く握りしめていた。

あいつがまだ生きている、それだけで我慢ならなかった。

次こそは私の手で殺してやる。

「リーシャ落ち着け、そしてよく聞け」

肩をつかまれ我に返る。

「今は和平交渉のために停戦していたが、それを先日トイフェルは断ってきた。恐らく近いうちに戦争は再開されるだろう。

魔族との戦いだ、俺たちが間違いなく派遣される」

この騎士団は団長が魔王討伐の旅の最中ともに戦ったものも多く在籍している、魔族との戦闘経験もの多いこの騎士団は必ず呼ばれるだろう…

つまり私にもダバルを討つ機会があるということか!!

「そこでだ、お前にはここに残ってもらう」

その言葉に私は呆然としてしまった。

「なんでですか!?」

手が出そうになるのを必死で抑え、団長に問う。

「最近のお前は集中力を欠いている、戦場で集中力を欠けばどうなるかお前にわからないわけではないだろう?それにお前は副団長だ、直接指揮はしないだろうがお前が背負っている命はあまりにも多い」

団長は諭すように私に話す。

「それにだ、そのようにダバルの名を聞いて感情的になっているお前が戦場で冷静な判断を下せるとは思えない」

冷静に話す団長に返す言葉が思いつかない、戦場で集中力を、冷静さを欠けばどうなるか?

そんなことはわかっている、死だ。あっけなく死ぬ。

普段なら回避できる攻撃を集中力を欠けば回避できず、冷静さを欠けば容易に罠にはまる。

今の私では、あの狡猾なダバルに一撃食らわせるまでもなく殺されてしまうだろう。

そうとはわかっていながらもあきらめきれない私は、団長に連れて行ってもらおうと声を発する、

「ですが!!」

「スイはどうする?おいていくのか?」

団長はしぶしぶといったように言った。

そうだ、スイだ、ここにはスイがいる。私たちが離れている間、ここが攻められれば力のないスイは…。

団長の言葉に私は再び言葉を失った。

「リーシャ、ここでスイを守ってあげなさい」

「…はい」

しばらく沈黙した後私はここに残ることを了承した。

「すまない」

団長はそういうと執務室へと戻っていった。


団長が去った後も私はしばらく訓練場に立ち尽くしていた。

遠回しに言われたのだ、足手まといだと。

私は今まで何をしていたのだ、あの日から強くなったと思っていただけどこうも簡単に心を揺さぶられ感情的になってその機会を失うなど。

無力だったあのころと変わっていないではないか。

手に持った木剣を見つめ、魔力を通し素振りを始める。

落ち着くためにはこれが一番だ。

こういうところが女らしくないだろうか?今は亡き両親に言われたことを思い出す。

無心で木剣を振り続けた。

ふと気が付くと自分は汗だくになっていてずいぶんと時間がたっていたのだと知る。

いつぶりだろうか、これほどまで集中して鍛錬をしていたのは。

私はひとまず汗を流そうと浴場へと向かう、その途中メイドと一緒に洗濯物を干しているスイを見つける。

物干しざおに手の届かないスイはメイドに洗ったものを手渡しているだけだが。

水を含んだ衣類が重いのか、必死に持ち上げ絞りメイドに渡していく。

メイドに手渡した後こちらに視線を向けた。

どうやら私を見つけたようで、スイが笑顔でこちらに手を振る。

その姿が再び妹へと重なる。

そうだ、スイがいる。スイはまだ幼く力も弱い、私が守ってあげなくちゃ…今度こそ。

私はわかるように頑張れと口を動かし笑顔で手を振り返す。

口パクは伝わったようでスイは大きくうなずき仕事を再開し始める。

メイドはその姿を笑ってみている。

もうメイドとも仲良くなったのか、人懐っこいところも本当によく似ている。

風に乗せられ運ばれてきた洗濯物の香りに自分が汗だくだったことを思い出し再び歩き始める。

帰ってきたら褒めてあげなきゃね、そう思いながら私は浴場へと向かった。

次はスイ視点に戻す予定です。

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