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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
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【幼女と訓練初日の朝】

「スイ、朝よ、起きて」

ぼんやりとした意識の中、優しい声で私を呼ぶ声が聞こえる。

「まだねむいよ、おかあさん」

そう返すと私を抱いている声が少し困惑した様子になる。

「まだ寝ぼけてるみたいだね」

くすりと笑うその声を聞いて意識が現実へと戻ってくる。

「リーシャおねえちゃん…」

「うん、おはよう、今日から訓練だよ。さぁ、起きて」

横になりながらすぐそばで笑うリーシャを見つけ、急いで体を起こす。

「ご、ごめんなさい」

寝る前のことを思い出して赤面する。

いくら幼女とはいえ、中にあるものは1000年少しの人生を経験してきた魂だ、そんな私が子供のように怯えて抱き着いてしまったことがとても恥ずかしくなった。顔を見られずリーシャに背を向ける。

一晩寝たことで完全に同化したのか、全ての記憶が自分のものであるのだと認識できるようになっていた。

幼いが故の見栄と1000年の記憶が余計に羞恥心を煽る。

おそらく今私は後ろから見ても真っ赤になっているとわかるのだろうなと諦めてリーシャの方へと向き直る。

「もう、大丈夫なの?」

その質問は、恥ずかしさの話ではなく昨夜のことだとリーシャの真剣な顔を見てわかった。

恐怖と、不安感はなくなっていた。同化によってスイの感情に引っ張られすぎて動けなくなる事を心配していたが、それは杞憂だったようだ。

杞憂ですんだのは、1000年と数年の記憶により薄まったのか、リーシャの存在のおかげか、あるいはその両方かはわからないが、この様子だと旅に出ても戦いの際、膠着してしまうなどのことは起きないと思う。

「うん、大丈夫、ありがとう」

少なくともリーシャがいなければ昨夜、恐怖に押しつぶされていただろう。感謝しなくては。

「よかった。それじゃあ着替えましょうか、メイドの人に頼んでおいた服が届いてあるはずだから取りに行ってくるわ」

そういって、部屋を出ていくリーシャを見送りながらベットから出る。

やることがなくなったので、ベットを整えていると部屋の扉がノックされた。

「リーシャ起きてるか?」

扉から野太い男の声が聞こえてくる。

どうしようか一瞬迷って扉を開けた。そこには無精ひげを生やしたおっさんが立っていた。

だらしなさそうに見えるが隙のない立ち姿に驚く。魔法についてはわからないが、なかなかの武人であると1000年の経験から気付く。

「ん?」

予想していた目線の高さに人がいなかったのだろう、おっさんが不思議そうな顔をする。

目線を下に移してはっとした表情になる。

「お、嬢ちゃん元気になったのか!よかったな!」

そういうと、ガシガシと私の頭を撫でてきた。

髪がぼさぼさになったことに不機嫌になりながらも、父のようなその手を振りほどく気にもならなかった。

「おっと、すまんな。娘にもこれやって怒られたのを忘れていた」

髪を見て、しまったという顔をして慌てて謝る。

「だいじょうぶ、おじさんは誰?」

髪を手で直しながら尋ねる。

「あぁ、俺はアルノー、一応部隊長だ」

そんな柄じゃないがなと付け加えながら私の手を取って握手する。

「わたしはスイです、よろしくお願いしますアルノーさん」

部隊長と聞き、少し丁寧なしゃべり方にもどす。

「お、礼儀正しいな!でも、俺にはそんなにかしこまらなくてもいいぞ」

また撫でようとしたが先ほどのことを思い出したのか次はポンポンと頭を軽くたたくだけにしたようだ。

「わかった、ありがとう」

リーシャとは違ったタイプの人のようだが、どうやらアルノーも悪い人ではなさそうだ。

ここでの生活に少し期待をしていると、アルノーが何かを思い出したような顔をした。

「おっと、忘れてた。スイ、リーシャはどこに行ったかわかるか?」

「いま、私の服を取りに行ってる、どこに行ったかはわからないけど」

言い終えたところでアルノーの後方、廊下の先にリーシャの姿を見つける。

手に持ってるの箱に服が入っているのだろう。

「あ、帰ってきた」

そういって指をさす。

「アルノー部隊長、おはようございます。こんな朝早くどうしました?」

きりっとした表情になったリーシャがアルノーに問いかける。

「あぁ、レインが遭遇した魔族についての情報が入ったのでなお前にも伝えとこうと思ってな。」

「団長には伝えてあるのですか?」

団長の部分を強調して聞き返す。

「もちろん、れ、団長には伝えてあるさ」

「そうですか、それではここで聞きます。スイ、服を渡すから中で着替えておいて、この後すぐ訓練をするから動きやすいものにしときなさい」

そういうと持っていた二つの箱を私に渡す。

どうやら魔族という言葉に反応した私を、会話に入れないようにしたようだ。

内密な話もあるのだろう、おとなしく箱が積まれ前が見えなくなりながらもふらふらと部屋の中へと引き返した。

部屋に入り箱を開け、最初に目に入ったのは可愛らしいワンピースだった。

そのワンピースが入っていた箱は普段着のようだがどれも派手で可愛らしく、裕福で派手なものを着てこなかったスイも、元男である彗としても着ることに抵抗を感じ、服をもどすとふたをしめた。

動きにくそうだしね。

その後もう一つの箱を開くと、替えの下着と、動きやすそうな地味な服が数着入っていた。

持った時にも思ったが結構な量だ。メイドさんは複数人で買いに行ったのかな?

そんなことを考えながらのんびりと着替えていると、アルノーの話が終わったようで、扉がノックされた。

「スイ?着替え終わったかしら?扉をあけるわよ?」

まだアルノーが近くにいるのだろうか?急いで着替えを済ませ返事をする。

「はい!」

ガチャリという音をたて扉が開く、やはりアルノーはまだ残っていたようで、リーシャの後ろに見えた。

「なんだ地味な服だな、もっと可愛らしい服はなかったのか?」

アルノーは私の服装を見て残念そうに言った。

「今から訓練なので、当たり前です。そちらの箱には普段着用の可愛らしいものもありますが…残念でしたね」

そうアルノーに向けて意地悪そうに言う、この二人結構仲がいいようだ。

「まぁ、それはまたの機会にしとくか、じゃあなスイ」

そういうとアルノーはこちらに手を振り歩き出した。

「さて私達も用意をしていきましょうか」

そういってリーシャは部屋に入ってくる。

さぁ、訓練初日!今更苦労することもないだろうが、早く認めてもらうために頑張りますか!!

寝坊しないようにするためにあえて寝ないという選択は場合によっては有効だと思うんです。


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