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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
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【幼女とその身体】

ベットの上で目が覚めた。

眠りについてからさほど経っていないのか、外はまだ暗く、遠くから騎士団員が騒いでいる声が聞こえる。

リーシャが言っていたが、騎士団員は飯の後飲み会のようなものをすることが多いらしい。

私たちはお風呂に入った後、リーシャの部屋に戻りすぐに寝た。

寝る場所は、寝具が来るまではベットを譲ってくれるというので私はベットを譲ってもらった。

私はそんなことはできないと、一度は断ったがリーシャが譲らないので仕方なくこちらで寝ることにしたのだ。

私はこんなに高価なベットで寝るのは意識がある状態では初めてだったのでとても興奮してた。

ん?『私』?再度自分の思考を思い返し自然と『私』と考えていたことに気付く。

どうやら、身体と魂の記憶の同化がずいぶんと進んだようだ。

睡眠は記憶の整理というが、睡眠も同化を進めるうえで大切なようだ。

同化はこの身体で生きていくうえで大切な事ではあるが、やはりこの自分が変わっていく感覚は慣れない。

スイとしての人格、彗としての人格、そしてヨハネとしての人格が失われるわけではないが、少し寂しい。

そんな風に考えていてると、身体がぶるっと震えた。

「さむい」

どうやら寝ている間に汗をだいぶかいていたようで、そのせいで寒さを感じたようだ。

もう一度布団をしっかりと被り目を瞑る。

うとうとし、眠りに落ちかけた瞬間。

暗い景色に色がはじけた。

赤、赤、赤。

突如もえ広がる村、なだれ込んでくる返り血にまみれた盗賊、私を逃がそうとするお母さん、そして、私の視界に広がるお母さんの血…

その血が私にかかり視界を赤に染めていく…

「っ…」

思わず飛び起きてしまう。

汗をかいていたのはこの夢のせいだったのか。

思考を遮る、恐怖、悲しみ、不安。心臓が爆発しそうなほど脈うっている。

幼いスイには衝撃的過ぎたその光景が、同化が進んだことにより鮮明に映し出される。

「はぁ、はぁ」

息が荒くなる。目を瞑れば思い返されるスイの記憶に座ったまま自分の身体を抱き震える。

同化が進めば、恐怖も強くなるのか?

そうなってしまっては、リーシャの言う通り旅なんてできない。

血を見るたび、剣や火を見るたびにこのような状態になってしまっては、戦いどころではない。

冷静に考えている最中も恐れからくる震えはとまらない。

「どうしたの?大丈夫?」

気付けば、リーシャが隣に立ち私の肩に手を置いていた。

近くに人が来たことにより少し不安が薄れる。

「だい、じょうぶ」

震える声でなんとか伝えるが、月明かりに映し出されたリーシャの顔は心配そうな顔つきのままだ。

「大丈夫って、震えてるじゃない…嫌な夢でもみたの?」

床に膝をつき目線を合わせた状態で聞いてくる。

これも妹と仲良くなるために練習した成果なのか、より不安な気持ちが薄れていく。

「あかいろが…ほのおが、ちが。…おかあさんがっ」

不安感が薄れ、夢の内容を伝えようとするが、恐怖によりうまく伝えられない。

そんな中、リーシャはこちらの言いたいことを理解してくれたようだ。

ゆっくりと私の身体を抱くと引き寄せ頭を撫で始めた。

「大丈夫よ、ここは安全だから。何かが来ても私が守ってあげる」

撫でられるたびに恐怖が少しずつ失われていく。

しばらくそうしていると、失われたと思っていた眠気がまたやってくる。

その様子を見るとリーシャは体を話し、私の目を見て

「今日は一緒に寝ましょうか」

と言って微笑んだ。その優し気な笑顔は今は亡き母と被って見えた。

私は思わず力強く抱き着いてしまっていた。怖くなってしまった、離れるのが。

出会ってから1日も経っていないというのに彼女の存在がスイの中で大きくなっていた。

私を心配してくれ、優しくしてくれるリーシャに母の面影を見てしまった。

「大丈夫、どこにも行かないから」

そういってリーシャが頭を撫でてくれる。それだけで心が穏やかになる。

少しの間私を撫で、私の力が緩まったのを確認すると、リーシャは私の位置を少しずらし隣へともぐりこんだ。

私の頭を持ち上げ腕枕をすると向かい合わせになる。

リーシャの匂いが鼻孔をくすぐる。安心する匂いだ。

あまり年頃の女の子に用いるべきではないのかもしれないが、母性を感じる匂いだ。

「ふぁあ」

大きなあくびをしてしまう。

「はは、大きなあくびだね。ゆっくりお眠り、明日は少し遅めに起こしてあげるよ、初日だしね」

そういってにっこりと笑うと、再度私の頭を撫で始めた。

「ありがとう、おねえちゃん」

おねえちゃんが私にいたら、こういう感じなのだろうか、そう考えていたら思わず、そう口に出していた。

私を抱くリーシャの腕に少しだけ力がこもった気がした。

「うん」

リーシャはそう短く答える。

遠くから聞こえる宴会の声を聴きながら、月明かりにだけ照らされた室内で安心感に包まれながら、私の意識はゆっくりと夜に溶けていった。

前回が少し長くなってしまったので今日は短めに。


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