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名探偵・藤崎誠シリーズ

おれおれ詐欺凸

作者: さきら天悟

「おれ、俺だけど・・・」


「しんじ、真二なの?」


「うん・・・」


「どうしたの?」


「うん、俺やっちゃった・・・」


「何を?」


「子供にケガさせちゃった。

突然、飛び出して来て・・・」


「だから車の運転は気を付けなさいって。

それでどうするの?」


「取り敢えず、手術代80万円が必要だって。

後で保険で返せるから」


「80万ね。

なんとかなるわ」


「じゃあ、午後3時に市役所の裏の駐車場で。

今、病院にいるから友達を行かせる」


「分かったわ。すぐ用意するわ」




これは古典的な『おれおれ詐欺』である。

警察は何度も何度も注意を呼びかけている。

『母さん助けて詐欺』などネーミングを変えたりして。

しかし、一向に被害は減らない。

連中は何人でも電話する。

それで、100人中1人が引っかかれば大儲けなのだから。




官僚出身の与党若手議員の太田はこれを踏み台にしようと思った。

この対策が上手く行けば、国民にもマスコミにもアピールになると踏んでいた。


「法が甘すぎる」

太田はまず思った。

電話してくるだけでは、おれおれ詐欺として立件できないのだ。

太田は頭を垂れた。

法案化するには時間がかかり、野党の協力も必要だった。

『おれおれ詐欺』対策なので、野党は協力的と思いがちだが、

警察が拡大解釈する可能性があるとか、難癖を付け、

何かと面倒になのだ。


こんな時、太田はある男に知恵を借りるのだ。

太田は自分の考えではないことに卑下しない。

政治家は良い案を採用すればいいのだ。

太田は、良い案かどうか判断する能力には自信を持っていた。





「・・・と言うことだ。

被害を減らすのに、何かいい案ないか」

太田は神妙な顔をして言った。


「どんなに警察が注意を呼び掛けても無駄だろう。

それでも100人に1人はやっかかてしまう」


「じゃあ、どうすればいい?」

太田は眉を寄せた。


「逆転の発想だ」


「逆転の?」

太田は小首を傾げた。


「名探偵にお任せあれ」

自称名探偵の藤崎誠は胸に手を当て深く頭を下げた。





1年後、おれおれ詐欺被害は激減した。

壊滅と言っていい。

十数組の犯行グループが摘発され、

K国軍の関与も明らかにされた。


この対策の陣頭指揮を取った太田はメディアから注目された。

十年後には、日本初の40代総理大臣になると噂された。

その年の暮れ、この対策が流行語大賞を取った。

『おれおれ詐欺凸』である。

『凸』は形状を表したもので、

『おれおれ詐欺ボタン』と言う。

電話に設置されたこのボタンを押すと、

詐欺グループとのやり取りの会話が録音されるのだ。

これを基に警察が一斉摘発をしたのだった。


自称名探偵藤崎の太田へのアドバイスはこうだった。

「警察が神妙な顔をして、

おれおれ詐欺に気を付けようって、

呼びかけるからダメなんだ。

反対に楽しめばいい。

逆転の発想だ。

100人に1人が騙されているなら、

99人は騙されてないんだろう。

その人たちが騙されたフリをして

警察に通報すればいいんだ。

手始めに会話を録音する。

電話機メーカーに提案して、

録音ボタンを『おれおれ詐欺ボタン』と表示してもらうといい。

そうすれば面白がってみんな騙されたフリをするだろう」


太田はフッと苦笑した。

一見くだらない案だがコストはほとんどかからない。

これで被害が減り、犯人が逮捕できるなら、

コストパフォーマンスは悪くないと思った。



『おれおれ詐欺ボタン』が付いた電話が販売されると同時に、

警察署では『おれおれ詐欺凸』のステッカーが配られた。

録音ボタンに貼る用の。


さらに高性能な電話も登場した。

電話中に『110』に通報できる機能が付いていた。

しかし、この最新電話機は活躍できなかった。

おれおれ詐欺はリスクが大きい犯罪と認識されるようになり、被害が激減したからだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] よかった・・・・・・事故に遭った子供なんていねぇのか・・・・・・ ステキ
2015/12/15 19:47 退会済み
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