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新選組無名隊士日誌  作者: 綿谷和子
内紛の前触れ
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藤堂の心中

普段通りの日々であった。

稽古をしたり巡察に出たり、非番には散策や隊士と談笑したり。沖田も復帰していた。


新選組が活躍するという事はある意味では有事の際という事だ。

勿論巡察によって万が一の事件を事前に食い止める事が出来るのも事実ではあるが、彼は《このまま何も大きな事が起こらない方がいい》と考えていた。


もう十分新選組は世間に名をあげた。これ以上人を殺めたくない。そして何よりどんなに手を尽くしても京の民衆の目は新選組に厳しかった。


どんどん焼けの後、生家に数年ぶりに帰った彼はその事を直接感じた。

父母はやはり彼を許さなかった。息子が壬生狼と言われる事を恥じ、隣近所には京に戻って来ている事を一切黙っていた。今回の帰宅も京の様子を気に病んで慌てて江戸からやって来た、という理由にされた。


壬生へ戻る朝、兄は彼に言った。

「…時代は変わるんやろなあ。これからは家の命令やのうて自分の道を自分で選んで歩いていく時代になるんかもしれへん。新選組はそういう集団なんやろ?せやからお前はそういう人らに着いて行きたいて思たんちゃうんか?せやけどな…命はいっこしかあらへん、死んだら終わりや。それだけは大事にせなあかん、えぇな?」


うちが死ぬ時ってどんな時なんやろか。想像があんまりできひんな…


「なあ、ちょっといいか?」

藤堂だった。

「なんやあらたまった言い方しはりますな、珍しい。どないしはったんです?」

何となく嫌な予感がした。


藤堂は江戸へ新入隊士獲得の為に出立を控えていたはずだった。

「今度江戸へ行くんだけどさ、伊東先生に会おうと思うんだ」

「…誰?」

「伊東大蔵先生だ。ほんと何にも知らねぇな。北辰一刀流の同門でさ、剣は強いし学もある立派な御方なんだぜ」


藤堂は随分その伊東とやらに心酔している様だった。

「重ね重ね珍しいですね、藤堂さんが人をそんなに褒めはるなんて」

「お前も会ったらそう思うって。新選組に入ってもらえたらな…と思ってさ。近藤先生や土方さんじゃ伊東先生の足元にも及ばない学を持ってるし、人柄も素晴らしい。今の新選組を変えられるのは色んな意味でも伊東先生しかいないと思うんだよな」

「…。」


あまりにも率直過ぎる言葉と、色んな意味、という点が気になった。

藤堂の言葉を全面的に信じるならば、剣術の強さ、学問的知識、民衆に蔑まされる事が減るかもしれない人柄という完璧な人材という事だ。そんな人が何の為に京へ来て評判のよろしくない新選組に加入するというのだろうか。余程伊東にとって利点がなければ藤堂の思惑通りに事は進まないだろうなと漠然と思った。


「近藤先生も近々江戸へ行かはるって聞いてますさかいに、着かはる前にお二人の仲立ちの準備が出来はったらえぇんとちゃいますか」

正直彼自身にはあまり興味の無い話でもあったが、藤堂の思い込んだ時の行動も知らない訳では無いので、

「たとえ新選組に加入しなくても、一度お話くらいは聞いてみたいですわな(どういう思想の持主か知っとかんと後後の事もあるさかいに…)」

表向きは藤堂が彼の意見を良い方に取ってもらいやすい言葉で返事をした。


「それとさ、気になってる事があるんだよな」

藤堂は声を落とした。

「永倉さんの事だ」

彼の嫌な予感はそちらのほうだった。

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