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彼の耳はうさぎの耳(連載版)  作者: 香坂 みや
番外編

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因縁の子兎

※ポン太視点です。

 その日、朝から若葉はそわそわと落ち着かない。寝る時に着ている服からひらひらした服へ着替えたかと思うと、今度は別の同じような服へと着替える。多少の色の違いはあるかもしれないが、何が違うのかは正直よく分からない。ひらひらとふわふわの違いくらいだろうか。とりあえず、どちらも動きに合わせて揺れるので振り回したくなる。

 若葉はベッドの上に服を並べて、それを見比べながらうんうんと唸っている。そしてぱっと顔を上げると、横で寝そべっていた俺を見た。


「ああ!もう、どうしよう!何着たら良いかな?ポン太はこの服どう思う?」

「ワン(どれを着ても若葉はそのままで可愛いと思うぞ)」

「うーん。ポン太には分からないよねぇ。やっぱり、黄色か。それとも黒か……」


 若葉に聞かれたので答えたのだが、若葉は再び服を見比べて唸っている。人間という生き物は俺のように美しくて豊かな毛並みを持っていないので、常に服を着なければならないという不便な生き物であるらしい。俺のようにそのままで生きていけないのは、なんと可哀想な生き物なのだろうか。鳥の類いも飾り立てることでメスにアピールするらしいが、きっと人間もそうなのたろう。それに対して俺の飾り立てなくても美しい毛並みは、それだけで十分である。

 しばらく服を見ながらああでもないこうでもないと唸っていた若葉の側で、耳触りの悪いかん高い音が鳴る。音を出したのは、いつも若葉が肌身離さず持ち歩く小さくてぴかぴか光る硬いおもちゃだ。前はそうでもなかったのだが、近頃は本当に常に持ち歩いている。それからかん高い音を出たかと思うと、若葉はそれを触ってばっかりだ。

 そんなに暇なら一緒に遊んでやろうとボールを持って行っても投げやりにボールを投げるばかりである。一体そのおもちゃにはどんな魅力があると言うのか試してやろうと思うのに、俺がそれを咥えるのは若葉が嫌がるのだ。そんなに嫌そうにするほど大事なものであるならば、隠しておくべきだと俺は思う。俺は宝物をベッドの下にちゃんと隠しているぞ?


「もう部活終わったんだ!じゃあ、もうすぐ公園に着く頃かも。――ポン太、散歩に行くよ!」

「……(仕方ない。着いていってやろう)」


 ようやく着るものを決めたらしい若葉の声で立ち上がる。若葉の足取りは軽い。今日くらい寒い日であれば、若葉がそろそろ引き返したくなる場所に差しかかっても、まるで天気の良い日のようにずんずんと歩いて行く。

 そして晴れた日にしか訪れない、川向こうの公園にまでやって来た。公園には何となく覚えのある匂いがする気がする。着いてすぐにその覚えのある匂いに記憶を辿っていると、俺の答えが出るよりも先に若葉が俺を繋いでいるリードを持って走り出す。走るのであれば負けはしないが、あまり引っ張ると若葉がうるさいのでほどほどに先を走る。そして少し走って、若葉はとある長い耳の男の前でその足を止めた。


「――悠真くん!待たせちゃった?」

「ううん。俺も今着いたところだよ」

「フン……(子兎か)」


 どこかで嗅いだ覚えのある匂いだと思えば、いつかの子兎だ。子兎は若葉と待ち合わせをしていたらしく、若葉と微笑みあって言葉を交わしている。だが、俺にはこの兎に対して特に用も無いので若葉が持っているリードをぐいぐいと引っ張った。ここで待ってやる義理も無いのである。


「ちょっと、ポン太。引っ張らないで」

「あー……若葉さん。ちょっとポン太と話しても良い?」

「え?うん。良いけど……」


 若葉が頷くと、子兎は俺と目線を合わせるようにしゃがみこんで口を開いた。


「俺は大槻悠真。若葉の同級生で、兎の獣人だ。君は気に入らないかもしれないけど、俺と若葉は付き合うことになった。付き合うっていうのは君にも分かるよね?」

「グルルルル(子兎は若葉と番になるのか?)」

「今すぐは無理だけど、いずれそうなれれば嬉しいなと思ってるよ」

「……フン(元々大人の俺とまだ幼い若葉には年齢差が大きかったからな。そういう時がいずれ来るだろうとは思っていた。それがお前だとは思っていなかったが)」

「そうか」

「ワン!(だが、若葉が俺の群れの一員であることには変わりない。若葉を泣かせたらどうなるかは分かっているんだろうな?)」

「それはもちろんだよ。そんなこと絶対にしないと約束するよ」

「……(フン。そうだと良いがな。悠真)」


 俺はそう告げて、ふいっと顔を逸らした。悠真が分かっているかは知らないが、犬流の敵意の無い表現である。考えてみれば、若葉が俺の群れの一員であればそれに親しい悠真も俺の群れの一員であるようなものだ。まだまだ幼い若葉たちを見守ってやるのが立派な成犬のオスの務めというやつだろう。成犬たるもの、幼きものには優しくするべきであろう。


「……二人とも何を話してるのー?」

「秘密。だよな、ポン太?」

「ワン!(悠真、散歩に行くぞ)」

「若葉。ポン太が歩きたいって」

「もう、急に二人とも仲良くなっちゃってさぁ!ポン太はうちの子なんだからね!」

※若葉が持っている光るおもちゃはスマートフォンのことです。ポン太にはおもちゃにしか見えません(笑)

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