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彼の耳はうさぎの耳(連載版)  作者: 香坂 みや
番外編

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小話 とある犬の独白

以前、7話の後に入れていた7話のポン太視点です。

内容は変わっていません。

 俺の名前はポン太。

 少々可愛らしい名前ではあるが、好いたメスのつけた名前。嫌な気はしない。


 大きく逞しい肉体、誰しもが羨む毛並み、鋭く尖った眼光。年令は青年期真っ盛りで、体力、気力共に良好。まさに優れたオスというのは俺のことだろう。


 母や兄弟たちとは幼い頃に引き離され、物心がつかないような頃に、この牧瀬家の群れの一員となった。この群れは気は良いがオスとしてはしては些か頼りの無いオスと、その番。そして、それらの子である若いメスと幼いオスがいる。俺が牧瀬家のリーダーとして、この群れを守っているというわけだ。


 この若いメスというのが、つまりは俺の女である。名は若葉と言い、人間としてはまだ若い部類。少し気の抜けたところはあるが、飯の支度や毛並みの管理だけでなく、日課の縄張り管理にも付き合う甲斐甲斐しいメスだ。


 しかし、最近。この若葉を横取りしようとする兎の野郎がいる。


 草食動物の兎の分際で、である。しかも奴は毛並みと言えば、頭部の僅かなものと尾と呼ぶには短すぎるそこだけだ。何よりも毛並みを愛する若葉には物足りないはずだ。アレは俺の豊かでしっかりした、艶やかな毛並みを愛でるのが好きなのだから。

 その上、その兎という奴はまだ成体にも満たない子どもなのである。


 俺は成犬である。立派な成犬なのである。

 だから決してあのような子兎に負けるはずもない。


 だと言うのに、あの子兎のやつは事もあろうか俺に突っかかってくるのである。鋭い牙も持たないオスのくせに、全くもってして生意気だ。


 しかし、争い事は若葉が嫌がる。俺の方としては、奴の首筋を一噛みして教育的指導をしてやっても良いのだが、泣く若葉を慰めるのは一苦労なのだ。

 だから俺は若葉の気持ちを汲んで、奴のことは放っておくことにしたのである。

 何しろ、俺は毛繕いや縄張りパトロール、若葉の子守りなど群れのリーダーとして毎日多忙な身。子兎に構ってやる時間など無いのである。


「――悠真くん!今日も部活帰り?」

「ああ、うん。そんなとこ。若葉さんは散歩?」


 散歩の途中、不愉快な匂いに鼻先を上げれば、そこに子兎がいる。

 この子兎は若葉のクラスメイトとか言うやつらしく、俺が行ったことの無い学校とかいう建物で一緒になるらしい。それだけでも不愉快だと言うのに、この子兎は時々パトロールの最中に表れる。

 こいつが偶然だとか言うが、そう短くない時間をここで待っていたことを俺は知っている。


 しかし、俺の見込んだメスが他のオスにも狙われるのは当然のことだ。


「……ワン!(若葉、行くぞ!)」

「え?あ、ポン太待ってよ!――悠真くん、ごめんね!また明日学校で!」

「あ、うん……」


 ここで若葉が他のオスと話しているのを見守るほど、俺も優しくはない。何故ならば、若葉は将来有望な俺の女であり、子兎に渡す気は毛頭無いからである。

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