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短編で投稿した「彼の耳はうさぎの耳」の連載版です。設定、大筋は変わりませんが、内容が異なる部分がございます。
高校二年生に進級し、始業式当日のその日。外は桜が咲いていて、天気は快晴。暖かい日差しに包まれた心地よい日になっていた。
そんな花見日和とも言える日に、あたしはベッドの上で死んだように横になっていた。汗だくになって魘されていると、枕元に置いてあったスマートフォンが震えてアプリがメッセージの受信を知らせる。画面には一年生の時にも同じクラスだった、みっここと美弥子の名前が表示されていた。
『体の調子はどう?今年もあたしとナナと同じクラスだよ!教室で待ってるからね!』
そのメッセージに視線を走らせると、あたしはどうにかスタンプを一つ押して返すので精一杯だった。ああ、頭痛も酷いけれど熱のせいで体中が痛い。
新学期早々ツイてない。滅多に風邪を引かないあたしがこんなに高熱を出して寝込むのは、母の記憶がある中では幼児の頃以来であるらしい。そのくらい滅多に罹らない風邪をこのタイミングで罹ってしまうなんて。荒い息の中でため息が漏れるのも仕方が無い話である。
でも、去年も仲の良かった美弥子と奈々が同じクラスであるのは心強い。とりあえず、風邪が治って学校に行ったら一人ポツンになる可能性については心配しなくて良くなったということである。
「……頭痛い」
ポツリと呟いた言葉は一人きりの部屋に消える。高熱で苦しむ娘を置いて、両親は仕事に行ってしまったし、弟は学校だ。部屋にはあたし一人きり。病気の時は何だか心細くなる、なんてどこかで聞いたことがあるけれど、それは多分本当だ。部屋は静かで、住人が出払った住宅街からも小鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。まるでこの世界に一人きりであるかのような錯覚すら起こしそうである。
うっすらと目尻に滲んだ、よく分からない涙を拭うのすら億劫でそのままにしていると、うっすらと開いていた部屋のドアがキィと小さく軋んだ音を立てて動いた。
「――ポン太」
部屋にやって来たのは飼い犬のポン太である。彼のために開けられた扉を慣れたように鼻先で押して部屋に入って来ると、そのままベッドの下で丸くなり、すぐに寝息を立て始めた。中学生の頃に捨てられていたところを拾ってきた犬で、雑種にしてはかなり大きい。そして、まるで秋田犬のようにもふもふの毛で体を覆われていて、毛並みは固いようで柔らかい。恐らく秋田犬の血が入っているのだろう、なんて家族で笑い話をしているけれど、恐らくあながち間違いでもないはずだ。
右手をベッドの下に伸ばすと、ポン太のふわふわの毛並みが指先に触れる。その感触に癒されるのを感じながら、あたしは再び眠りに就いた。
その時のあたしは次に家を出たら世界が変わっているだなんて、微塵も思いもしなかったのである。
何度か要望をいただいたので、息抜きがてらの軽い連載にしてみました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。