断章6 突発性幼児脳組織壊死症
突発性幼児脳組織壊死症は、世界でも十数例が確認されただけの奇病である。
もっとも、確認された数は少ないものの、実際にこの奇病で命を落とした子供は少なくとも数倍。或いは数十倍は存在するだろうと言われる。また、突然二十一世紀になって発現したのではなく、過去から存在した可能性も指摘されている。
発症した幼児は当初は左右どちらかの眼球の異常を訴え、その後個人差はあるものの大体平均数日以内に脳組織が壊死して死亡に至る。一か月もったと言う症例は皆無である。進行が早いのもこの奇病が難病に類すると言われる所以である。
信じ難い事だが、解剖してこの症状下の脳組織を確認すると、神経並びに血管が破壊された状態になっている。この事自体は有り得ない事ではないものの、年齢的に見ても考えにくい。
統計上、遺伝や環境が関わっている可能性は低く、薬害等でも有り得ない。
いわゆる放射線を浴びせた場合に似た様な現象は起こるものの、これも統計上の被爆は無しである。
現時点で原因は不明であり、また男女問わず幼児にしか発症しない。
発熱を伴わず、突然死んだように見える事も多い。
症状としては、幻覚・うわ言などが上げられる。特にうわ言は睡眠中でも起き、外国語のようで聞き取れない事が多い。
イタリアでは敬虔なキリスト教徒が発症した少年を『悪魔憑き』と呼んで事件になった。
サウジアラビアのマディーナで発症した二歳の少女は、突然コーランを詠唱し、直後に死んだ事から『マディーナの奇跡』と呼ばれている。
ある時期から確認されておらず、現在では幻の病気と呼ばれている。