大賢者の心配と子育て相談
前回の投稿から、けっこうな時間が開いてしまいました。
本当に申し訳ありません。
これからも、間が開いてしまう事があるかもしれません。
そんな小説でも読んでくださるという方は
今後ともよろしくお願いします。
トントントン
約束通りポスルスウェイス領の梨華の家へと
やって来た大賢者は玄関のドアをノックして数秒待ち、
「・・・・・・お〜い!」
返事がないので中に聞こえるくらいの
少し大きい声を出して梨華を呼ぶ。
「・・・は〜い!ちょっと待ってください!」
すると、大賢者だとは分かってない様子の
梨華が外行きの言葉遣いで返事をする。
少しして足音を立ててやって来た梨華は、
玄関のドアをガチャリ、と音を立てて開けながら言う。
「・・・は〜い!どなたでしょうか?」
そして、玄関に立っていた人物を見て、目を丸くして驚く。
「えっ!おじさん!?
なんでこんなに早く?なんかあったの!?」
「なんかあったの?・・・って、
君が呼んだんだろ?」
「・・・えっ?いや、まあ、そうだけどさ。
ほら、だってまだ三十分しか経ってないよ?
こんなに早く来れると思わなかったからさ。
色々準備して来たら少なくても
一時間はかかるかなぁって。」
それもそのはず、先程の電話から
まだ三十分しか経っていなかったのだ!
「はっはっはー!すごいだろー!
実は半月前からこの日のために計画してたんだ!」
大賢者は、得意気に、そして嬉しそうに言う。
「・・・ふーん。そっか。
まあ、とりあえず入って。」
しかし、梨華の反応は薄く、流されてしまった。
「ちょっと待った!そんな反応はないだろ~。
渾身のサプライズだったんだけどな〜!
おとうさん悲しいな〜!」
拗ねた様子でチラチラと
梨華の方を見ながら言う。
「はいはい。だって、電話の時から分かってたし。」
「え〜!なんで?いつから分かったんだよー?」
「だって、おじさんなんか嬉しそうだったし。
それにいつも忙しいおじさんが
今日に限って暇とかないでしょ。」
「むむっ!バレてたか。
くそぅ・・・驚かせてやろうと思ったのに!」
「ま、私も嬉しかったけどね。」
悔しそうにする大賢者に梨華は少し照れながら言う。
「そ、そうか。それならよかった。」
その言葉に、大賢者もこれまでよりも
殊更嬉しそうにする。
「・・・じゃあ、まあ入って!
そろそろ琉斗泣くかもしれないし。」
そう言って大賢者に背を向けて
玄関のドアノブを握る梨華の
長くて尖った耳は恥ずかしさからか真っ赤になっていた。
「ふふっ!」
それを見た大賢者は思わずといった様子で
小さく笑いを漏らす。
「なによ!もう!
入らないなら知らないからね!」
拗ねて、むくれた梨華は、さらに耳を赤くして
そう言うと、さらに足速に中に入ろうとする。
「待てよ〜!入るから〜!」
そう言って追いかけた大賢者は家の中に入ると、
玄関のドアを閉めて、そして、数秒ピタッと止まり
何かを思い出したように思考を巡らせる。
「・・・ああ
そういえば・・・
さっき、誰か分かってないのにドア開けてただろ。
危ない奴だったらどうするんだよ。」
そして、心配したような少し怒ったような表情で言う。
「ああ。そういえばそうだったね。
この家に引っ越して来てから
役所の人間しか来てないから
役所の人間かと思ったのよ。
それに、こんな田舎で不審な奴なんか来ないわよ。
わざわざ。外から見たら普通の家なんだからさ。
ま、来ても大抵の人間は倒せるしね。」
些細なことといった様子で
気にした様子もなく
あっけらかんと答える梨華に、
大賢者は大きく息を吸い込んで真剣な表情で言う。
「・・・梨華。
確かに君は強い。多分世界で十指に入るくらいだ。
けどな、いくら君でも大勢に囲まれたら
自分一人なら何とかなっても、
琉斗を傷一つ付けずに守り通すなんて事は無理だろう。
それに君は不意打ちや、予想外の事態に弱い。
ドアを開けていきなりナイフで刺されでもしたら、
君は防げるか?・・・俺はな、心配なんだ。
君が傷つくのを見たくないし、
危険に晒されるのを黙って見てられない。
だから、頼むからもう少し気をつけて用心してくれ。
じゃないと、心配で俺がもたない。」
「・・・・・・!
・・・ごめん。おじさん。
今度から気をつける。」
大賢者のその心底心配した
本気で言っているような様子に、
梨華は驚いた様子で目を見開き、
反省したような様子で謝る。
「おう!分かってくれたらいいんだ。
さあて!そんじゃあ久しぶりに
可愛い孫の顔でも見るかな!」
大賢者はそれに頷くと、
真剣そのものだった先程までとは打って変わって、
明るく弾んだような声で言う。
「うん!じゃあ、行こうか。
おじいちゃんっ!」
梨華もそれに合わせてからかうような口調で言う。
「ちょっ!おじいちゃんはないだろ!
おじいちゃんは!僕はまだそんな歳じゃない!」
大賢者は慌てて否定する。
「なんで〜?だっておじいちゃんじゃん!
私の育て親がおじさんで、
琉斗の育て親が私なら
おじさんの孫だもんね〜!」
「くっ!確かにそれはそうだが・・・!」
梨華に親と呼ばれて嬉しい大賢者は
否定する事もできず悔しそうにしている。
「あははっ!しょうがないな〜!
しょうがないから、今はおじさんにしといてあげる。
けど、琉斗がもう少し大きくなったら
おじいちゃんだよ〜!・・・って、教えるんだからね!」
「あはは・・・!勘弁してくれよ〜!」
楽しそうに笑って言う梨華に
大賢者も別の種類の笑顔を浮かべて言う。
「・・・ぷっ!冗談行ってないで入ろ!
琉斗がお待ちかねよ。」
梨華はその様子に、吹き出して小さく笑うと
そう言ってリビングの扉を開ける。
「おお!りゅう〜と〜!
久しぶりだな〜!」
大賢者は、扉を開けるとすぐそこに居た
琉斗のそばまで駆けよる。
「あ、まずは手を洗ってからにしてね。」
それを見た梨華は、にこやかに笑ってそう言う。
「ああ、分かった分かった。
そういうとこは相変わらずだな。」
大賢者はそう言うと、
台所まで行って石けんで手を洗い始める。
「そう?実は今ちょっとその事で悩んでるんだけどね。」
軽く笑いながら言う梨華に
大賢者は、ん?と首を傾げて先を促す。
「ほらぁ、私って潔癖じゃん?
それでいつもは割と徹底的に綺麗にしちゃうんだけど、
琉斗がいると赤ん坊だからってのもあって
さらに綺麗にしたくなっちゃうのよ。」
そこで一拍置いた梨華に
うん。と頷いて大賢者はさらに先を促す。
「けど、赤ん坊のうちから菌の無い状態で過ごしてたら
それこそ菌のある空間じゃ暮らせなくなっちゃうじゃん。
菌に耐性がないんだからさ。
だからそういう訳にもいかないんだけど
でも、どこまで綺麗にして
どこから気にしなくていいのか
が分かんないんだよね。正直言って。」
そこまで言い終わると
はぁ、と大きくため息をつく。
「・・・う〜ん・・・そうだなあ〜。
無菌室で育てる訳にもいかんしなぁ〜」
大賢者も聞き終わると悩ましそうにして考え始める。
「・・・まぁ、子どもって意外と生命力に溢れてるから
そこまでの心配もしなくていいと思うんだがなぁ・・・
まぁ、口に入れるモンだけとかでいいんじゃね~か?」
そして、大賢者はなるべく気楽な口調で言う。
大賢者が、悩んでいる梨華を気づかって
そういう風に言ってくれている事が分かる。
それだけで何かがすっきりして、
今まで思い悩んでいた事が
ちっぽけなものだった様に感じられた。
「・・・そっか!なるほど。
ありがと!やっぱり相談する相手がいるっていいね!
一人だと、どうしても考え過ぎちゃって
どうもダメみたいなのよね。
なんかちょっと楽になった。」
「おう、そりゃーよかった。」
大賢者はそう言うと、
今しがた洗い終えた手をきれいなタオルで拭く。
「うん。」
「じゃあ、かわいいかわいい琉斗くんの顔でも
拝ませてもらおうかな。」
「うん!
ほら、こっちだよ!
お待たせ〜!琉斗〜!
おじさんが来てくれましたよ〜!」
梨華は、琉斗のいるリビングへと
大賢者を案内すると、
琉斗に向かって両手を広げる。
「・・・だぁ!」
琉斗はそれに応えて、
可愛らしい声を上げると
よちよち歩きで梨華の両手の中へ飛びこんでくる。
「よしよし。」
「よく懐いてるな〜。
琉斗く〜ん!
おじさんとも仲良くしてくれよ〜!」
琉斗を抱きしめて、頭を優しく撫でる梨華に
関心したような声を上げて
琉斗に話しかける大賢者。
「・・・?」
見覚えのない大賢者に首をかしげる琉斗だったが、
しばらく大賢者の顔を眺めると、
「・・・・・だぁ!」
赤ちゃんらしい笑顔でそう答える。
「お!俺の言葉が分かったか!
かしこい子だな〜!
仲良くしような!」
大賢者は、その琉斗の笑顔に
嬉しそうにしながら琉斗の頭を優しく撫でたのだった。




