王様という名の父親
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「ただいま~!おじさん、いる?」
綺麗なショートの黒い髪に、お出かけ用の半袖の白シャツと膝よりも短い水色のスカートを履いた少女が大賢者の家のドアを開けて大賢者を呼ぶ。
「おかえり、どうだったんだい?」
その声を聞いた大賢者が急いでドタドタと音を立てて階段を降りてくる。その少しくたびれた感じの男は魔術師がよく着る真っ黒な服と同色のローブを身に纏っている。
「えっとね、とりあえず住む所決まったよ。冒険者ギルドで手続きも済ませてきたし」
「そうか……いよいよだな」
梨華が少し嬉しそうな顔をして大賢者に報告すると、大賢者は真面目な顔でしみじみと言う。
「うん、そうだね。それでね、早速今日琉斗を引き取りに行こうと思うんだけど、そしたらとりあえずここに連れて来るから色々教えて欲しいの」
「あぁ、そうだな。そうした方がいい。僕も様子を見に行くつもりではあるが、いつもいられるわけじゃないからな。今王宮に連絡する……もしもし、今から陛下に王子を引き取りに行くと伝えて下さい……はい、大丈夫だそうだ」
「うん……それじゃあ、さっそく迎えに行ってくるね」
「ああ、いってらっしゃい。今日はまだここにいるだろ?琉斗の泊まる準備を整えておく」
「お願いね。いってきます」
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大賢者の家からしばらく歩くと"一の大門"が見える。この門をくぐると貴族街に入り、そこで一度兵士に止められ確認を取られる。次に"二の大門"をくぐると王城がある。その奥に王や王族の住む王宮があり、そこには貴族でも限られた者しか入れない。梨華は通行許可証を見せてその二つの門を通る。
「梨華様、ご案内させていただきます」
梨華が"二の大門"をくぐると、連絡を受けそこで待っていた侍女に声をかけられた。
「お願いします」
梨華が短く答え二人は王宮の中へと歩き出す。ちなみに出入りの際は容姿で琉花との関係がバレないように魔法で髪や目の色を変えてこっそりと動いている。
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「……陛下、梨華様をお連れしました」
「通せ」
侍女が静かな、しかしよく通る声で王様のいる部屋の前で報告するとすぐに返事があって中に招かれる。
「失礼します」
「よく来てくれた、さあ座ってくれ」
侍女がお茶を出して静かに部屋から出るのを見送って、王は重たい息を吐いて絞り出すように言う。
「…………ついに……琉斗を手放す日が来たんだな」
「……はい」
「おかしいな……覚悟はできていたはずのに……それに、琉斗とこんな風に別れなくてはいけないのは、不甲斐ない余のせいだというのに……どうしてこんなに離れがたく辛いのだ」
陛下は顔を歪めて拳を強く握りしめ、その拳を自分の膝へ叩きつける。もう二度と会えないし親子とは名乗れないのだから無理もない。琉斗はまだ赤子なのだ。親離れするには早すぎる。
「っ……!そんなに自分を攻めないでください……私が言うことでもないのですが、その……おじさんも私に隠れて陛下のように自分を攻めていることがありました。私の母を守れなかった、幼い私を危険な戦場に連れ出すしか無かった事で」
「そうだったのか……大賢者も……」
「……だけど、過ぎたことはどうしようもありませんし、おじさんが……陛下がそうやって自分を責めていても誰も幸せになりません……だからっ!陛下はこれを次の教訓にしてください。次に生まれるかもしれない子や、もう一人の王子様を守って幸せにしてあげてください。琉斗は……私が必ず幸せにしますから!陛下と姉の代わりに、私が。だから、心配しないでください!」
「……っ!ああ……頼むっ!どうか……どうか琉斗を幸せにしてやってくれ!」
「はい!承りましたっ!」
梨華はピッと背筋を伸ばし、覚悟に満ちた表情で真っ直ぐ王を見る。王は感謝し、涙ぐんでいた。
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乳母から渡された琉斗を連れた二人は二の大門では無く、使用人用の小さな出入口の前で最後の別れをしている。極秘裏に誰にも知られぬように行わなければ行けないことなので、人気の無い使用人用の出入口を使って人目を忍ぶようにして、陛下は護衛一人つけずにいる。近衛兵は貴族出身なので情報が漏れる事を恐れたのだろう。
「……では、よろしく頼む」
「はい……王様どうぞお別れを」
「あぁ。琉斗……元気でな。もう二度と会えぬだろう……いや、会わぬほうがよいのだ。我々は血の繋がった親子であるが、今日からは違う所で暮らし他人となる……それは、とても悲しいことだがそうせねば……他人でなければならぬのだ。故にどこでどう暮らすのかあえて聞かない」
「はい。その方が良いと思います。私も琉斗に陛下の事は一切告げず、ただの大 梨華のひとり息子として育てます。」
「すまない……だが、例え親子の縁が切れようとも余はお前のことを息子だと思っているし、いつまでもお前の幸せを願っている。どうか、どうか、元気で健やかに育ってくれ」
琉斗の頭を撫でながらのそれは、赤ん坊の琉斗には到底理解のできない。そして理解してもらうつもりもない一人の父親の独白であった。




