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84……はな?

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


「っ、レイミちゃんの家に花が咲いてるのっ」

 竜の証であるしっぽを空に向けるのは、十歳ちょっとに見える少女だ。元気さを表したような赤毛と、深緑色の羽としっぽがトレードマーク。名前はファナという。

 ファナの視線の先はレイミの家の窓だ。地面から屋根に向けて立てかけられた細い棒に格子状に紐が結ばれている。そこに緑のツルと葉っぱが茂り、紫や赤紫のつぼみがいくつもついていた。これは朝方に一斉に咲く花で、今はお昼すぎだがら休憩中だ。

「こうしておくと、家に当たる太陽の光が減って、夏でも涼しいんじゃよ」

 答えるのは金髪が美しい十代半ばに見える少女レイミ。

「そうなんだ。……あ、ヒトは暑いのだめなんだったっけ」

「ファナが水が苦手なのと同じくらいかな」

「むぅ、ファナちゃんと顔洗えるようになったし! 川遊びも好きだし!」

 ふくれっ面を向ける先は、十代半ば過ぎ、レイミより少し年上に見える少年だ。ファナの現在の保護者でリトという。

「そうだな。髪を自分でふけるようになったら一人前かな」

「う……ふ、ふけるし! ふけるけど――リトにふいてもらった方がほかってなってふわってするからいいの! リトだってたまに髪が乾かないまま寝ちゃって朝ハリネズミなの!」

「仲良しじゃのう」

「っ、レイミちゃんも仲良しだし! ファナ、レイミちゃんと仲良しだしっ」

「そうか。……そうじゃな。よし、それじゃ仲良しじゃから、ファナにいいものをやろう」

「いいもの!?」


      ♪♪


「えへへ、どんな花か楽しみなの♪」

 レイミと別れて、村はずれにある家までの帰り道。しっぽをぴこぴこ、歩みに合わせて振るファナは、両腕でプランターを抱えていた。

 いいもの、とレイミからもらったプランターだ。右手くらいの高さまで葉が伸びている。つぼみはまだ小さく、花が咲くのはもう少し先だろう。夏真っ盛りか終わりか。街の学校では夏休みに観察日記を書くそうだが、ファナはちゃんと育てられるだろうか。

「ちゃんと毎日水やりしないとだめなのわかってるか?」

「わかってる♪ ファナ、ちゃんと水やり当番で早起きできてたもん」

 ファナがこの村に来る前のことだろう。一人で起きていたかは定かではないが。

「それは頼もしいな。……せっかくだし、畑の方にも植えるか。トマトとか」

「……あまいのがいいの」

「果物を自分で育てようと思ったら相当だぞ。イチゴとかはその年になるみたいだけど、ヒメブドウは何年も先だろうな」

「うう、まずはこの子をちゃんと育てるところから始めるの」


      ♪♪♪


 家に戻り、さっそく植え替え作業を始めた。『レイミちゃんのお家みたいのがいい!』というファナの要望に沿って、窓辺にツタを這わせるための棒と格子を準備する。

 プランターから地面に移してもいい頃合いだと言われたから、地面を掘り進める。今は雑草で覆われているが、レンガの囲いがあることからそこが花壇であったことがうかがえる。

「あ、リトリトっ」

 花はファナに任せ、横庭で畑の準備をしていたリトの元にファナが駆け寄ってきた。

「どうした? 宝箱でも出てきたか?」

「えへへ、にょろーん、ミミズなのっ」

 両手を突き出すファナ。薄い土と一緒に、たしかに細長い動くものが見えた。

「……い、いい土ってことだな。うん、ミミズさんも土が好きだろうから返してやろうな」

「……リト、ミミズ苦手?」

「や、得意な人はいないと思うけど」

「そっか。ミミズさんはリトのトマト畑にお引越しするの。はいっ」

 連れてってあげてと両手を近づけてくる。リトは逃げ出したくなるのをこらえ、スコップで土ごと受け取り、「元気でなー」と掘り返した土の中に落とす。

「……また出てきたら持ってくるね♪」

「お、おう。期待せずに待ってるよ」


      ♪♪♪♪


 家の前の窓辺、横庭の畑がそれぞれできた頃には、空は赤くなっていた。たくさんの黒い鳥が模様を作りながら帰っていく。普段は夕食の準備を始めるところだが、

「ファナ、爪、土で真っ黒だろ」

「……えへへ、お風呂できれいにしなくちゃだね! 一緒に入るの」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


夏といえば植物の観察日記.

アサガオとかヒマワリとかミニトマトとか.

案外マメなファナは毎日きちんとやりそうです.


花が咲いたりミニトマトを収穫したりはもう少し先の話.

お楽しみに.


それでは次回,

『85……い、いけるしっ』

夜、ひとりベッドを抜け出したファナは――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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