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76……ファナおねえちゃんだから

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 一人増えただけで家の中が何十倍も明るくなったようだ――リトは二人を見て、それから天井を見上げた。家も喜んでいるような、そんなことまで思う。

 居間のテーブルで笑うのは少女たちだった。

 一人は赤毛の十歳ほどのお姉ちゃん。もう一人は、茶色い髪を後ろで二つに結った妹。姉妹ではないけれど、そう思わせる優しい空気が流れていた。

 しゃべっているのはほとんど妹の方だった。村はずれにあるこの家に来るまでどれだけ大変だったか。いつも吠えてくる大きな黒い犬がいつも以上に吠えてきて跳び上がったとか、よそ見をしながら歩いていた村長さんがこけたとか。そんな話。

 お姉ちゃんの方は、一つ一つの話にうなずいて、丁寧に丁寧に感想を口にする。

 時間がまるでおとぎ話みたいに色づいている。

 けれど、楽しい絵本はあっという間に最後のページになる。「もう帰らないとっ」


      ♪♪


「あっ――」

 ドアを開けたネナナはうつむいてしまう。もともと小さな身体がさらに小さく見えた。

 どうしたのだろう、リトが外を見れば、ああとうなずけた。

「真っ暗なの」

 答えたのはお姉ちゃん、ファナだった。ネナナが来たときには暗くなり始めたていたから、それからあれだけ話していたのだ、このくらいにはなるだろう。

「うう、ファナおねえちゃぁん……」

 振り向いたネナナの顔はくしゃくしゃだった。

 彼女はまだ学校にも来ていない歳だ。こんな真っ暗な中、家まで帰るのが恐ろしい。たとえ知ってるはずの道でも怖いだろうから、一度通っただけの道ならなおさらだ。

 でも、ここまで来られたんだから十分じゃないか、とてもとても頑張った。そうお母さんに褒めてもらえる、手を差し伸べようとしたリトを、ファナが止めた。

「じゃあ、お姉ちゃんが傍にいるよ」

 その一言に、リトは自身の手の平を見て息をついた。

「ファナおねえちゃんが?」

「うん。それに、もし、ネナナが道も教ええてほしいって言うなら、教えてもいいの」

「道も?」

「ぎゅって腕にくっつきたかったらそうしてもいいし、手を握っててもいい。ファナはいつだって助けるよ」

「どうして? ネナナの家についたら、そこからひとりでここまで帰ってこないとだよ? そんなの、こわいよ。……どうして、そこまでしてくれるの?」

「そんなの簡単なの♪」

 きっとネナナには、ファナの笑顔がお日様のように見えただろう。

「お姉ちゃんだもん♪」


      ♪♪♪


「ほんとにいいの?」「いい。ちょっとうしろを歩いてくれてたらいいからっ。でもね、でもね、呼んだらちゃんと答えてくれないとやだよやだよ?」「うん、わかってる」「ほんとのほんとだからね? ネナナがきゃっってびっくりしても、慌てて助けに来たりしたらだめだからね? 道まちがってても、教えちゃやだからね? ぜったいだよ? やくそくなんだよ?」

「約束」

「やくそく!」

 そうしてネナナは夜の道を歩き出した。

 少し後ろにはファナ。近すぎず、離れすぎず。春のこもれびみたいに、もしくは、冬の寒い日に温めてくれる澄んだお日様みたいに、そっと見守っている。

 ネナナの歩みはゆっくりだった。生まれたばかりの動物が立ち上がるような姿。ファナだったら、生まれたばかりの竜が羽をはばたかせるときみたい、と言い表したかもしれない。

 おっかなびっくり、けれど確かに。彼女は前に進んでいた。


      ♪♪♪♪


 やがて村の広場に着いた。ほとんどの家がこの広場から広がっていく道の先にあるから、もう迷うことはないのだろう。ネナナの足取りが少しだけ柔らかくなったのがわかった。

 だから、そんな二人の様子をこっそり追ってきたリトは、隣の女性に、

「……そろそろ戻った方が」

「そうですね。娘がお世話になりました。ファナちゃんには今度お菓子を焼きますので」

 頭を下げて、娘に見つからないように暗闇を家に駆けていく。

 この後、彼女は居間でネナナを出迎えるのだろう。そして、『どんな冒険をしてきたのか聞かせて頂戴』と。そこでもまた、おとぎ話の絵本の表紙がめくられるに違いない。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


例えば友達と遊んだ帰り.

例えば学校の帰り.


思いがけず外が真っ暗になっていたときのこと.

おっかなびっくり,

けれど知ってるはずの道のまた違った景色・雰囲気にわくわくしながら

歩いた記憶がある気がします.


今でも夜遅くに帰るとき,

ふと空を見上げたら星があったり,

電車の規則的な窓をきれいだと感じたり.


身近にあるはずだけどつい見逃してしまう光景があります.

それらを少しでも拾えたらと,この話は進んでいきます.


それでは次回,

『77……ぽかぽかのにおい』

ファナひとりで帰るの!?――というお話です.

よろしくお願いします.

7が2個並んでいますが,ネナナは登場しません.

78話は菜っ葉の話と言うわけでもない……はずです.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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