7……一緒に寝るの!
♪
ファナはむくれていた。頬をぷっくらふくらまし、まゆと目は若干つりあがっている。不機嫌そのものといった表情。しっぽも天井を向いている。
ことの発端はリトの言葉だった。
「お前はベッドな。俺はソファで寝るから」
「だめ、一緒に寝る」
「駄目じゃない。子供は大人しくベッドで寝ろ」
「こ、子供じゃないもん! お前じゃないもん」
子供扱いされたファナは、まさに子供っぽさ全開でむぅ~とふくれているのだ。
♪♪
「リトがソファで寝るなら、ファナもソファで寝る」
「あのな……そしたら俺は寝ないぞ」
「じゃあファナも寝ない」
腰に手を当てて宣言する。しかし、ぶかぶかのシャツと、リトとお揃いのジャージに身を包んでいるファナは、服に着られている印象しかなく、いまいち締まらない。
「だーめ。寝ないとおっきくなれないぞ」
「じゃあ、リトもおっきくなれないもん」
「……」
「というかなんでリトはファナと一緒に寝てくれないの?」
あれ? とファナが首を傾げた。リトは、その言葉にファナから目をそらす。
「そりゃだって、お前は女の子だし。見知らぬ男と同じベッドってのはどうかと思うぞ」
――どういうこと? さらに首を傾げ、竜のしっぽがぱしりと宙を叩いた。
「リトは……ファナとこーびしたいの?」
「ちが――いや、そういう気を起こさないようにってことなんだが」
「……でもファナ、まだこーびできないよ? たぶん。やったことないからわかんないけど」
でも交尾のことは知っているらしい。子供がどうやってできるのかについて聞いたことがあるのだろうか。その詳細は別にして。
「そういうのしないから大丈夫だ」
大丈夫だけど、対外的によくないから避けているだけ。
「ファナ、じゃあ一人で寝るの?」
「……もしかしてお前、一人で寝られないのか?」
まさかと思って訊ねると、ファナは羽をぱたりと震わせた。あからさまに目をそらす。
「だ、だって暗いし、寂しいし……」
素直すぎる感情表現は、今だけで言えば、最強のマホウだった。寂しそうな目を見てしまったリトには、もう折れるしか選択肢がない。
「わかった、わかったよ。その代わり、一人で寝られるように練習もしろよな?」
「ほんとっ!? ありがとうリトっ! あと、お前じゃないの、ファナだもん♪」
リトの身体にぎゅうっと抱きつき、見上げた顔には笑顔が咲いた。
♪♪♪
「リトー」
「どした」
「えへへっ、ぎゅぅっ~」
ベッドの上に仲良く並んで、じゃれつくようにリトに抱きつく。今は初夏。そんなにくっつくと暑い。けれど抱き枕よろしくひっつかれてしまったリトは抜け出せないでいた。竜だからかファナは妙に力が強い。単に子供だから加減を知らないだけかもしれないが。
「てか、おま……ファナ。あんまり知らないやつにそういうことしない方がいいぞ」
「ん? ファナ、リトのこと知ってるもん」
「なにを知ってんだよ」
今日、会ったばかりだというのに。
「んっとね、リトは目が優しいの。とってもあったかくて、安心できる」
「演技かもしれないぞ」
「そんなことないもん。ファナが落っこちたとき、リトはマホウで助けてくれたもの。マホウツカイはリューの敵だって。ヒトはリューを怖がるし、マホウツカイもリューを怖がるけど、リューもマホウツカイ怖いの。でもリトはマホウツカイだけどファナを助けてくれた。まっすぐな目で、一生懸命で、優しくって、あったかくって」
ファナはとても真剣だった。自分の気持ちをリトに頑張って伝えようとしていた。
だからリトは敵わないなと心中でため息をついて、小さな頭をなでることにする。
♪♪♪♪
すや、と。眠るファナの顔はとてもとてもあどけない。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
一緒に寝るのはお約束です.
星を眺めながら野宿する話とかも書いてみたい.
それでは次回,
『8……ちび竜の夢』
ファナはどんな夢を見るのだろう――というお話です.
よろしくお願いします.
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今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.