64……夜に咲く花
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
「ごちそーさまっ」「ごちそうさま」
夕食を食べ終えて手を合わせる。イスからとん、と下りた竜の少女ファナは、いつものようにお皿洗いをしようと食器に手を伸ばした。
そのとき、リン、リン――と玄関のベルが鳴った。次いでドアが開く音がして、
「ノエルなのっ」
呼ぶ声よりも早くにファナがつぶやいた。竜特有の良く利く鼻だ。
「シエルお姉ちゃんに…………ちょっと鼻がくすぐったい匂いがする……リトぉ」
ファナがリトの身体にくっついて、リトの服の裾でくしゅくしゅと鼻をこする。
「っておい、俺で拭うな!」
♪♪
シエルはリトの幼馴染、妹のノエルはファナの友達だ。リトたちの食事終わり、お風呂に入る前を狙ってきたのだと言う二人は、手に袋を下げていた。
「夏と言えばこれだよねっ」
細長い棒状のものを掲げるノエル。それに対してファナは、「……?」と首を傾げた。竜の証であるしっぽもふにゃりとさせて、リトを見上げる。
「えっと、花火っていうんだけど、初めてか?」
「はなび?」
「聞いたこともなさそうだな。ま、やってみればわかるさ」
「うんうん。ほら、行こ、ファナちゃん」
ノエルが空いた方の手でファナの手を掴み、そのまま外へ向かう。
「ノエルっ、くつ、くつはけてないのっ」
二人に続いて、リトとシエルも外へ。日はすっかり長く、さすがにこの時間は暗い。村はずれのここはなおさらだ。小道の向こうに家々の明かりがぽつんと灯り、さながら別世界で。
それゆえに星や花火がきれいに見える利点があったりで、リトは気に入っている。
「リト、火お願いね」
地面に準備されたろうそくを示し、シエルがリトに手を合わせる。風が少ないから今回は消える心配もなさそうだ。去年の何度も火が消えて大変だったことは記憶に新しい。
「場所とバケツと火を提供してくる便利なやつとか思ってるだろ」
「そんなことないわよ?」
「……感情こめて言ってくれ」
さすがに冗談とは思うが少し傷つく。文句はそれくらいにして、ろうそくの傍にしゃがんだ。先っぽを隠すように手で覆い、除けたときには火が灯っていた。
「街で手品師やればもうかるわよ。転職したら?」
「マホウツカイ見習いですっていうオチでか?」
♪♪♪
「ふあっ……あぅぅ、りとぉ」
しゅば――と煙と火花を散らすノエルの手持ち花火に、ファナはリトの背中に隠れてしまった。自慢のしっぽをリトの足にからめてくるおまけつき。怖いかと訊ねると、
「だって、だって……あぅぅう。それに煙で鼻がかゆくなるし。でも……」
リトの服に鼻をぎゅっと押し当てる。怖いけど、目が離せない。もうすぐ終わりのようで、音と火花が激しさを増し、色も次々と変化していく。シエルがノエルの花火から火種をもらうと、輝きがまた増える。
「……きれい」
♪♪♪♪
「り、りとっ。ちゃんと持っててね? 離しちゃやなのっ」「ふあっ。リトっ。色がいっぱい!」「あ……終わっちゃった」「……あれ? ねえリトー、これ点かにゃああっ」「あうう……」
「ほら、最後はこれだ」
細い、糸みたいに頼りない花火が手渡され、ファナは首を傾げた。しかも、今まで火を点けていたぺちゃんこのひらひらの方を持つようにと言われ、ますますわからなくなってしまう。
「……地味」
さっきまでのは音も火花も煙もいっぱいでちょっと怖かったけど、見ていて楽しかった。なのに、これはちっちゃくて煙も音もでない。花といよりつぼみみたいで。
「そろそろだぞ。びっくりして落とすなよ」
なにが? 訊き返そうとした瞬間、花火が弾けた。大きくなっていく火の玉の周りに、夕日色の花がいくつもいくつも咲いていく。小さく派手さもない。けれど一生懸命に花を咲かせようとする道端の花みたいで、見ていると不思議と元気がわいてくる。
――夏の日。村はずれの一軒家の家先では、いろとりどりの花が短い夜に咲き誇っていた。それを見つめるファナの顔にも、いつのまにか自然な笑顔が咲いていた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
夏といえば花火.
最近,手持ち花火やってない…….
(花火が日本によるある花火っぽいのはご愛嬌.ファンタジーなので)
両手としっぽの三本持ち! みたいな展開があったのかも.
「見てみてリトっ」と言いながら,花火をリトに向けて走ってくるとか.
もう1回くらいは花火の話があってもいいかもれしれません.
それでは次回,
『65……とかって?』
夏といえば川遊び.川遊びのときは――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




