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63……今はまだ

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 リトは自身の首からかけられた首飾りを見下ろした。シロツメの花で編まれた、ちょっと不格好な、けれどとても温かくて優しい気持ちになれる贈り物。

 一緒に住んでいる少女、ファナが先程くれたものだ。

 家の外でも中でもはしゃぎまわる太陽みたいな少女。そんなファナの、花輪を作ってプレゼントという女の子らしい行動につい頬が緩んでしまう。

 そのファナは今、シエルとなにやら話している。リトの幼馴染である彼女の首にも、花輪がかけられている。そちらはシエルの妹のノエル作で、手慣れたきれいさがある。

 話題は花輪のことのようだ。どうすれば上手に編めるかを教えてもらっているのだろう。

 二人を眺めていると、シエルの手の中に、白い小さなあるものが見え、リトはどきりとした。幼い頃の記憶――夏の日の、二人の秘密。

「……」

 ノエルと目が合う。お姉ちゃんを取られてちょっとさみしそうな顔をしていた。

「……ノエル。ちょっといいか?」


      ♪♪


 古樹の木蔭で、シエルはリトと二歩の距離を空けて向かい合っていた。

「……なんなの? いきなり」

 ファナとシロツメの花を使ったアクセサリーについてしゃべっていたら、ノエルにファナを連れていかれてしまった。しかも、残ったリトに、ここに立ってほしいと言われて。

 少し前にノエルとリトがなにかをしていたから、またいたずらでも企んでいるのだろうとは思った。だったらつき合う必要もないのだけれど、

「頼むよ」

 手を合わせてお願いされるとつい承諾してしまうのは、幼馴染ゆえの甘さだろうか。もちろん、そうじゃない理由があることもわかっているが、あえて気づかないふりをする。

 けれど、この近さで向かい合っていると……。しかも、昨日のとある事件のお礼として、ほっぺにキスをしたこともあり、リトの顔をっまっすぐに見られない。

 わかっているのかいないのか、リトも視線をそらして落ち着かなさげだ。

 ふと気になって上げた視線が一瞬交わっては、言葉にならない声が漏れてまた逸らす。

 そんな、本当によくわからない時間が流れて。

 やがて、ノエルとファナが姿を見せた。ファナは少し離れた位置で立ち止り、ノエルはシエルの後ろを回って、二人を左右に見る位置で振り返った。

「――それでは、指輪の交換を行います」


      ♪♪♪


 ファナが二人の傍にやってきて、手を開いた。そこに載っているは、シロツメの花で作った指輪。少し不格好なそれは、ノエルに習ってリトが作ったものだ。

 リトが緊張した面持ちでそれを取った。

 突然のことに固まっていたシエルに、ノエルが手を差し伸べる。シエルの手を取り、握った右手をおなかに当て、左手は前へ。

 ノエルにうなずきでお礼をしてから、シエルの手を取る。柔らかく、少し力を入れると壊れてしまいそう。掴む力は強すぎないだろうか心配になった。細い白い薬指。なぜか焦点が合わない。震える膝は自分のものでないようで。そんなことよりも指に意識をして。指輪を壊さないように、落とさないように。ゆっくりと、ゆっくりと。少しずつ奥へ。そしてすぅと収まれば、触れ合っていたシエルの指の温かさが、親指と人差し指から急に伝わってきて。――慌てる。けれど焦らず。ゆっくりと手を離す。シエルの指には白い小花の指輪が残り、リトの指ではシエルの温もりがやけどのようにうずいて。

「ほら、お姉ちゃんからも」

 ノエルの声に、シエルははっとして、自身の握った右手を見た。開けば、ファナと話していたときに作ってみせた指輪がある。

 耳まで真っ赤になった。無理ならやめていい――そう言いかけたリトの口をふさぐように、シエルが顔を上げた。そうして、右手の指輪を取り、リトの指へ――。


      ♪♪♪♪


 遠い夏の日。夕暮れが村を染めていた。虫取りに連れ回されたリトは、古樹の木蔭にお尻をついて乱れた息を整えていた。傍らに立つのは、肩から斜めに虫かごを下げる幼馴染。

 なんの拍子か、理想の結婚式の話になって。練習とか言って無理やり立たされ、シロツメの花の指輪をはめられたリト。はめさせられたリト。子供がやると、変わらぬ友情の誓いになるのだとか、そんなことを言っていた。――幼い頃の記憶――夏の日の、二人の秘密。

 そして今日の、二人のことが大好きな小さな二人を合わせた、四人の新しい秘密。

「……ファナがお世話になってるお礼だ」

 目を合わさない幼馴染に、シエルは全てをわかって、「じゃあ受け取っとくね」と答えた。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


紙幅が足りない…….

なぜ大きくなった今またやろうと思ったのか,

リトの心情がまったく入っていない…….


色んな理由があって,リト自身もよくわかってない気もしますが.

ただの勢いというか,暑さゆえの気の迷いというか.

ある意味で若さだよなあと思いつつ.

……そのうち,補間したいです.


それでは次回,

『64……夜に咲く花』

ちょ、ちょっと怖いけどとってもきれいなの――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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